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メリーズ商会

 ムーア領領主の館、執務室にて。

 魔王がやってくるといっても、俺は日々の雑務を捨てるわけにはいかない。この国の経済や軍事に貢献するためにも、領地運営は絶対に必要なのだ。

 と、書類とにらめっこしてたらサイモンが部屋に入ってきた。


「アニキ、客が面会を求めてやすで」

「今日は特に予定を入れていないはずだが……。断ることはできないのか?」

「それが……メリーズ商会の会長でやす」

「それはまた……大物だな」


 メリーズ商会。

 この国、というよりも世界中でもその名を知らぬ者はいない、指折りの商会である。物品の仕入れ、販売、栽培や加工、それに必要な人材と土地の確保、あらゆる方面で力を持つ総合商社のような感じだ。

 冒険者ギルドのクエストにおいても、依頼人として名を連ねることが多い。このムーア領の主要産業でも、フェニックス小鳥の仕入れやらメスの販売委託などで大変世話になっている。

 その商会長ともなれば、一国の主にすら匹敵する重要さだ。とても無視することなどできない。


「仕方ない、この部屋に通してくれ」

「はい」


 サイモンと入れ替わるように、男が入ってきた。

 髭を生やし太った大男。

 ただ、コーニーリアスのように弱々しい印象を受けない。豚というよりはむしろ熊と例えた方が適切だろう。 

 ある種の威圧感を覚え、俺は身構える。

 

「はじめまして、ムーア領領主ヨウ君」

「はじめまして」


 まずは互いに挨拶。領主である俺を『君』付けするのは失礼にあたることではあるものの、俺は糾弾するつもりはない。この男にはそれだけの権力と……そして金を持っている客。

 メリーズ商会長は懐からあるものを取り出した。『ピィピィ』とかわいらしく鳴くその小鳥は、フェニックスだった。

 おそらくは、俺が選別した小鳥だろう。 


「これが君の領地から納品されたフェニックスのメス」


 フェニックスの小鳥? 何のつもりだ。


「素晴らしい、の一言だよ」

「どうも、ありがとうございます」

「いやはや、お世辞抜きでの話だよ。どんな目利きが雌雄選別を行っても、その精度はせいぜい八割。ところが君の用意してくれたものは、限りなく100パーセントに近いほどにメスのみを選別できている。既存の技術では不可能なレベルなのだよ。どうやって選別しているのか、できれば教えてもらいたいのだが……」

「企業秘密です」

「はっはっ、分かっているよヨウ君。そう簡単に教えられるものではないね」


 うんうん、と頷く商会長。この返答は予想通りだったようだ。 


「しかし、しかしだよヨウ君。君はこの先の未来を考えたことがあるかね?」

「……未来、ですか?」

「市場とはレアリティに敏感だ。フェニックスやマダラカブトの相場にはすでに影響が出てしまっている。このまま同じように君がこの製品を売り続ければ、希少価値で成り立っていたこの市場が崩壊してしまう」

「まあ、いずれはそうなる……かもしれないですね」

「我々は生産者だ。市場を守り、ひいてはそれに携わる人々を守る義務がある。……私の主張は、聡明な君であればすでに理解していると思うが?」


 なるほど、話が見えてきた。

 多量なムーア領の製品が出現したため、自分たちの商品が高く売れなくなってしまった。だから生産を抑えて市場価格の安定に努めてくれ、そう言いたいんだな。

 石油の生産調整みたいな感じか? 

 ふ、笑止。


「確かに商会長の忠言も一理あります。しかし、そもそもフェニックスのメスが必要とされているのは、その卵が難病に効くためです。宝石や金のように希少価値だけで売れているわけではないんです」


 これは実際に必要としている人が存在するものなのだ。まあ、マダラカブトについては商会長の言う通りだから……あえて何も言わない。


「俺は難病で苦しんでいる人々を救いたい。領主として、そういう気持ちもあるからフェニックスのメスを売り続けてるんです」


 と……いう善意100パーセントな発言はあまりに言い過ぎ感があるのだが、まあこれぐらい言っておけば相手も黙ってしまうだろう。

 『じゃあタダであげろよ』とか言っちゃわないところが、この商会長さんが商売人なところだろう。

 まあどう転んでも、アレックス将軍……もとい国王に関係深い領主の俺に文句を言いきれるはずがない。おそらくこの人も、こんな文句を言ってどうにかなるとは思っていないだろう。


「はっはっはっはっ」


 予想通り、豪快に笑う商会長。


「いやはや、若いのになかなか偽善的なようなセリフを……。っと、別に悪口を言っているわけではないのだよ、ヨウ君。むしろ褒めているのだよ」

「ありがとうございます」

「では新しい領主殿との友好を……」


 メリーズ商会長がその手を差し出した。どうやら握手を求めているらしい。

 俺は喜んで自らを手を差し出し、握手を……。


 痛っ!


 なんだこれ、突然痛みが……。

 握手を終え自らの手を見た俺は、その異常さに気がついてしまった。

 手に、ドクロのようなアザが……。

 

「あ……あの」

 

 俺は商会長に話を聞こうとして、気がついてしまった。この男の姿が……全くの別人に変化しているのだ。

 その姿はガイコツ。しかし着ている服は商会長と同じ。

 スケルトン、といった方が適切か。


「……っ!」

 

 こ……こいつ。ただの商会長だと思っていたけど……まさか。

 しゃれこうべが口を開く。


「あらためてはじめまして、ムーア領領主ヨウ君。私の名前はバルトメウス。水の不死王、と言えば君にも分かるかね?」


 開いた骨の口から、水色の煙がまるでタバコか何かのように漏れている。

 

 水の不死王バルトメウス。

 クレーメンス領のさらに南を治める魔王。アンデッドの軍団を率いる王だ。

 クレーメンスの領地が消失すれば、その国境はグルガンド王国に接することとなるだろう。今後は直接兵を交えて争うことになるかもしれない……そんな魔王である。


「……メリーズ商会の商会長が魔王か、笑えないな」

「私はアンデッド。死ぬ前の肩書をそのまま使っているだけに過ぎないよ」


 なるほど。

 クレーメンスとは別口だな。奴は王国を滅ぼし自分の領地を広げるために、国王と身分を偽り潜入していた。対してこいつはもともと自らの基盤となる商会や金を持っていた。死によってアンデッドへと変化して、生前と同じように生活している、ということか。


「ちなみにその手に施した魔法は、君がアンデットになるための呪いだよ」

「……はい?」

「喜びたまえ。君の肉体が滅んだその時、即座に魔法が発動しゾンビとして蘇るようになっている」


 えぇ……。俺死んだらゾンビになっちゃうの?

 いや、まあ……悪いことではないのか? 死んで何もかも消えるより、ゾンビになった方がまし?


「君は期待の新人だ。ぜひうちの商会で働いてほしい。喜びたまえ、ゾンビは二十四時間寝ないで働けるぞ。はっはっはっ」


 また変な奴に気に入られてしまったらしい。不死王バルトメウスは高笑いしながら部屋の外へと出て行った。


続、魔王紹介。

どこで切り上げるか思案中。

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