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魔王集結

 アレックス将軍が国王に就任。

 正式な戴冠やお披露目はしばらく後になるだろうが、これはもはや確定事項となった。

 一区切りついた俺は、ムーア領へと戻ることにした。


「おい人間、少し話がある」


 ドレスを身に着けた公爵令嬢姿のイルマが、その帽子のつばを上げた。

 それにしてもコイツ、仲間内では女装扱いなんだよな。恥ずかしくないのかな?


 このタイミングで呼ばれたってことは、やっぱり例のことだよな? クレーメンスを退けた話に決まってる。

 

 ただ、魔王同士は基本的に敵対しているはずだ。クレーメンスの話から察するに、イルマとあまり仲がいいはずがない。つまり俺が奴を傷つけたとしても、イルマにとってはまったく問題のない行為のはず。

 ……はず、だよな? 


「あ、あの、イルマ様。何の話でしょうか?」

「クレーメンスが死んだ」

「はい?」


 死んだ? あのクレーメンスが? 

 俺は確かにあいつを傷つけたけど、致命傷に至るような一撃ではなかったはずだ。あいつの捨て台詞だってこれから死ぬ感じじゃなかったもんな。

 それなのに、クレーメンスが死んだ?

 どうして?


「俺の……せい?」

「うぬぼれるな、と言いたいところだがお前も無関係じゃない」


 イルマは自らの赤い髪を撫でながら、物憂げにため息をついた。


「クレーメンスはオリビアに殺された。お前の攻撃を受けて弱っていたところをやられてしまったようだ」

「オリビア?」


 うーんっと、どこかで聞いたことがあるような……。

 あ、そうだ。確か勇者イルデブランドの絵本に出てきた聖女だ。勇者の旅に付き従い、魔王を倒す補佐をしたという少女。

 ただ、あの絵本自体が人間の願望詰め合わせみたいな感じで脚色されてるっぽいから、あまりあてにはならないだろう。


「聖女オリビア?」

「お前たち人間はそう呼んでいるな。オリビアは魔王の天敵。数十年周期で生まれ、魔王を殺す恐るべき存在だ。勇者イルデブランドの時代、私でも相当苦戦した」


 数十年周期か。イルデブランドが生きてた時代って十年とか30年とかってレベルの昔じゃないから、近年もこのオリビアが現れてたはずだ。

 でも、魔王は死んでないんだよな? おかしくないか? いや、オリビアでも倒せない時がある?


 魔王が死ぬ。

 それは人類にとって、脅威が消え去り確かに幸せなことなのだろう。しかし、魔王の死は勇者イルデブランドの時代から今まで一度も訪れなかった事態。

 それは本当に、人類の祝福なのか?

 何か、言葉にならない嫌な予感がしてならない。魔王を勇者が倒すのならともかく、そんな得体のしれない奴が殺して回るなんてあまりいい気分じゃない。何かが裏があるのでは、と不安になってしまう。


「この異常事態に対応するため、他の魔王たちと話し合いを行うことになった。私はその会議に出席する」

「はぁ、そうですか」


 へー、魔王たちも会議するのか。

 ん、待てよ。それってさ、イルマがこのムーア領から出ていくってことだよな? 俺、しばらくの間自由を満喫できる? 

 うおおおお、やったぁ!

 なんて喜ぶのは早い。

 これはあれだ。喜ばせておいて『お前も参加するんだぞ』と後で落としにくるパターンだ。絶対そうに決まっている!

 だから俺は冷静だ。これから魔王たちと対面するかもしれないと思って、恐怖に震えてすらいる。


「あの、イルマ様。私は、その会議ではどのようにすれば……」

「なんだお前、参加したいのか?」

「い、いえいえ! めっそうもない!」


 俺、どうやらこの会議とは全く無関係な存在らしい。顔を出さなくてもいい、ということは出席するのはイルマだけ?

 やったあああああああああああっ! 今度こそ喜んでいいんだ! このムーア領から魔王がいなくなる。

 俺はどうやらイルマのもとから解放されるらしい。むろん、会議終わってから戻ってくるということは一瞬だけの幸福なのだろう。しかし、俺の首を締めあげて嗜虐的な笑みを浮かべているこの性悪女がいなくなることは、俺にとって大変喜ばしいことだ。

 ここは素直に喜んでおこう。うんうん。


「そ、そうですか。それではイルマ様、お気をつけて行ってらっしゃいませ」

「何言ってるんだ? 早く準備しろ」

「……? 準備? あ、ああ、荷物の準備ですか?」

「会議の場所はここだ」

「……え?」


 そう言って、自らのスカート……もといその下にある床および地面を指さすイルマ。

 えーっと、つまり魔王たちが……この俺の領地に集まってくるってこと?

 確かに、俺は会議に出なくていいかもしれない。でも客人としてやってくる魔王を出迎えないといけない? だからその準備をする必要がある?

 さー、と血の気が引いた。そんな俺を見て、イルマは唇を吊り上げている。


「自由になれると思ったか? 馬鹿な奴」


 こ、こいつ! わざと言わなかったな! っていうか俺の内心なんてお見通してって感じだよなこいつ。変に敬語を使う姿を見て、内心笑っているのだろうか?

 力の魔王は脳筋馬鹿じゃなかったんですかー。


「このムーア領に、魔王たちが集まるんだ。粗相のないように」

 

 嘘ぉ……。

 

 俺のムーア領で、魔王たちの会議が始まります。


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