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波乱の次期国王選出

 俺は王都にやって来ていた。

 イルマからの外出許可は簡単にもらえた。というかイルマもマティアスもとても忙しそうで、生返事だった。何やってるんだろう、あいつら。俺がクレーメンスを追い払ったことが関係してるのだろうか。


 そして、会議が開かれる。

 会議は玉座の間ではなく、城の中央に存在する大会議室で開かれた。総勢一〇〇人を超える貴族、将軍が一堂に集える広さを誇る部屋だ。

 うう、緊張する。

 玉座に呼ばれた時よりも人が多いし、本当に偉い人ばっかりだし、俺の場違い感半端ない。


「皆、本日はわしの招きに応じここまでやって来てくれたこと、感謝する」


 まず初めに口を開いたのは文官筆頭、コーニーリアス宰相。この会議の主催者だ。

 本来、国王に次いで偉い彼ではあるが、モーガン……ひいてはその裏に隠れていたクレーメンスの手によって、政界から締め出されていた。

 プクプク太った豚のような男だ。まさか豚魔族が化けているのでは、と〈賢者の魔眼〉を使って調べたら本当に人間だった。すいませんでした。


「もうすでに皆も知っているとは思う。国王陛下が魔王、という話じゃ」


 ここにいるのは国のトップたち。国王=魔王というかん口令が敷かれた中でその事実を知る権利を持っている上層部である。

 ただ、報告だけ聞いていても半信半疑だった貴族も一部いたらしく、コーニーリアス宰相の言葉にざわめきが増していくばかりだった。


「しかし、モーガンはまだしも国王陛下まで魔王などとは。アレックス将軍、わしはお主がクーデターの言い訳をしているようにしか聞こえないのじゃが、何か証拠はあるのか?」


 まあ、現場にいなかったらそう思いたくなるよな実際。


「……う、嘘ではありません。コーニーリアス宰相殿」


 貴族の一人が恐る恐る声を上げた。


「モーガン様は……間違えなく魔族だったのです。そして、今でも夢だと思いたいほどの話ですが……国王陛下も同様に……」

「文官きってのモーガン派であったそなたがそういうのであれば、間違えはないようじゃのう……」


 国王が正体を現したとき、逃げ遅れた貴族たちが何人かいた。彼らは俺やアレックス将軍と魔王がやり取りしてるのをその目で見ていたのだ。

 正直なところ、この貴族たちがいなかったら危なかった。俺たちは弑逆罪に問われ死刑になっていたかもしれない。


「この国、グルガンドは国王が統治する王国じゃ。王の不在は指導者の不在。しかし、魔族である国王陛下には後継者の王子はおらず、おまけに王位継承内戦時代に王族は死に絶えてしまったのう」

「今にして思えば、あの王位継承内戦自体、クレーメンスの介入を受けていたのですな」

「アレックス将軍、確かにその通りなのじゃろうな。しかし今は過ぎ去った過去より現実の問題を。すなわち、空位となった国王に誰を推薦するかということ」


 ざわり、と貴族たちが戸惑いの声を上げた。

 そう、この会議は現状を確認するために開かれたものではない。この国の指導者、すなわち次期国王を決定するために行われているのだ。

 王族の血縁者はいない。今この場にいるのは、いずれも国家の運営を担う有力者たちばかり。誰もが、指導者としての権利を有しているといっても過言ではない。

 これは……まずいぞ。会議の流れ次第では、まるで戦国時代のような過酷な内乱が待ち受けているかもしれない。


 両手を叩き、全員の注目を集めたのはコーニーリアス宰相。皆が静まり返ったその瞬間を狙って口火を切る。


「新国王にはアレックス将軍がふさわしいかと思うのじゃが、皆、異論はないな?」


 お?

 何だこの人、意外に話が分かるじゃないか。てっきり『わしが国王になる!』とか言っちゃうタイプかと思ったが、なかなか身の引き方を心得ている。

 モーガンに押し込められていたこの男よりも、最前線で魔族と戦っていたアレックス将軍の方が、国民の人気も高い。軍事部門を掌握している彼なら、クーデターの可能性も低いだろう。

 要するに、一番無難な手だ。これで内乱の芽は潰れただろう。

 そう考えていたのは俺だけではないらしく、多くの貴族たちがほっと胸を撫で下ろしているようだった。コーニーリアス宰相、なかなかの一手だ。


 まあ、あのモーガンに煙たがれてた人ってだけで、多少は優秀なんじゃないかと思えてくるから不思議だ。初めてあったとき『豚野郎』とか考えてすいませんでした、ホント。


「異議あり」


 と、まさに満場一致で会議が閉会しようとしていたちょうどその時、異論が挟まれた。

 声を上げたのは、なんとアレックス将軍だった。

 なんだろうアレックス将軍? やっぱり国王になるのは嫌だったのかな? でもそれはちょっとまずいでしょ。


 コーニーリアス宰相は脂汗をかきながら、アレックス将軍を見た。


「あ、アレックス将軍。わしの意見に不満が?」

「コーニーリアス宰相。私よりも国王にふさわしい人物が、この中にいるではありませんか?」


 へー、アレックス将軍、誰か別の人を推薦するつもりなんだ。俺は全然話聞いてなかったな?


「アレックス将軍、その方は一体?」

「それは……そちらのヨウ殿です!」


 と、俺を指さしたアレックス将軍。

 え……? え? ええっ? 

 俺? 

 俺なの?


 俺、国王候補となる?


「ヨウ殿はその力で私の命を救い、そしてあの魔王クレーメンスを倒した。勇者イルデブランド以来の英雄。この国難を振り払うためには、彼のように若く力強い王が必要なのだっ!」


 だんっ、とテーブルを叩くアレックス将軍。汗をかき、息を荒げるその姿は彼の真剣さをうかがわせる。

 だけどなんだろう。熱を帯びていくアレックス将軍とは対照的に、他の貴族たちはずいぶんと白けているような……。

 

 コーニーリアス宰相がため息をついた。


「あ、アレックス将軍、気は確かですか? こんな成り上がりの田舎者を国王になどと……」


 う、うん、若干俺が馬鹿にされているは分かる。俺だって馬鹿じゃないからな。でもコーニーリアス宰相正しい。俺がいきなり国王とか言われても困る。

 貴族の一人が俺を指差して笑っている。

 お……おいそこ! 笑うな! いや、俺も自分が国王とはどうかなって思うけどさ……。


「……それでは、ヨウ殿を王として、私が国王代理という形で就任するのはどうだろう? これならば実質私が王であることは変わらず、国の面目も保てるはず……」

「アレックス将軍、それも……」

「ならば……」


コーニーリアス宰相に否定されるも、またあれこれと俺を崇め奉る発言をするアレックス将軍。


 と、いう波乱があったものの、結局はアレックス将軍が国王になるということで落ち着いた。

 俺はとんだ恥をかいてしまった。


4/2 後半のアレックス将軍が叫んでいる描写を変更。

あまりに突飛な話を増やさない方がいいですよね。

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