奴隷ハーレムの夢
俺の名は藤堂陽。異世界に転移し、奴隷ハーレムを築き上げた男。それが俺。
「「「ヨウ様ぁ~」」」
女の子たちが甘い声で俺にすり寄ってきた。
「ヨウ様、だーいすき!」
彼女は俺の奴隷モンスター、サキュバス。サキュバスのくせに落ちこぼれで男が大の苦手なんだが、俺だけには(中略)でハーレムの一員となった。
「ヨウ様なしじゃ生きていけない」
彼女は俺の奴隷モンスター、エルフ。その美しい容姿で金持ちの奴隷になっていたのを俺が救出し(中略)でハーレムの一員になった。
「ヨウ様素敵!」
彼女は俺の奴隷モンスター、ヴァンパイア。ヴァンパイアのくせに血が苦手(中略)でハーレムの一員になった。
さて、そんな奴隷ハーレムを築き上げてきた俺だが、新たなる女の子を求めてこの奴隷市にやってきたのだった。
レンガ造りの暗い建物の中で、人の悪そうな顔をした奴らが奴隷たちを観賞している。
俺は奴隷を愛してるからな! こいつらとは違うんだぜ。
「よっ」
「こ、こここれはこれはヨウ様、いらっしゃいませ。ヒヒッ」
こいつは奴隷商人。猫背が特徴的な暗い男だ。誰かに似ているような気がするが、誰だったかなぁー。
「ヒヒッ、ヨウ様。き、きょ今日はどういった奴隷をお探しですか? こちらの猫又族の奴隷などはいかがでしょう?」
「えー、なんかそいつらはお前みたいに暗そうだからやだな」
「ヒヒッ、これは手厳しい」
奴隷商人の言うことはあまりあてにならない。奴隷は俺自身の手で決めなければ。
不意に、鳴き声が聞こえた。
「いる~いる~」
檻の中で鎖に繋がれた奴隷モンスターがいた。赤い髪が特徴的な女の子。
「おい奴隷商人、あの子はなんだ?」
「ヒヒッ、あれはイルマ族にございます」
「イルマ族? 聞いたことのない種族だな……」
レアな魔族なのか?
「一部のマニアたちの間で大変人気の種族です。こちらに購入者のレビューがございます」
「見せてくれ」
俺は紙の束を受け取った。
レビュー1 奴隷を買ったつもりが私が奴隷になっていた。
奴隷コレクター歴20年の私ですが、先日、初めてイルマ族の奴隷を購入しました。
玄人でなければ扱えないという話を聞き、私ならと思い奴隷にしました。この日のためにと特注で手に入れたしつけ用のムチが、さっそくイルマちゃんに折られてしまいました。撫でようとしたら指の骨を折られました。成長して喋れるようになり、『おいキサマ、死にたいのか?』と罵られました。
何一つ言うことを聞いてくれません。
それでも我慢して一緒に過ごした結果、私は気がついてしまいました。イルマ族、いえイルマ様こそ私の主だったのです!
今では奉仕する喜びを覚えてしまいましたブヒィ。
レビュー2 我に七難八苦を与えたまえ
長年仕えていた主が敵に滅ぼされてしまいました。寂しさを紛らわすため、このイルマ族の奴隷を購入しました。
お家再興のため、『我に七難八苦を与えたまえ』と月に祈っていた私ですが、今ではイルマ様にお仕置きされるのが快感です。
我に七難八苦を与えたまえブヒィ。
こいつは……なかなか濃いレビューだな。どうやら相当マニア向けの奴隷モンスターらしい。
だが俺の本能が訴えている。この女の子は危険だと。関わればまるで呪われているかのように不幸な出来事に見舞われてしまうこと間違えなし。
無視するのがベスト。
「うん、興味あるなその子」
え?
お、おい……何言ってる? 俺は『NO』と言いたかったはずなのに、なぜか口が勝手に動いてしまっている。
「奴隷商人、その子はいくらだ?」
「金貨3枚でございます」
やめろ、見てわからないのか? その女は奴隷とかハーレムとかそんな次元の存在じゃない。もっと恐ろしい……例えるなら魔王的な何かだ。
「さあ、おいでイルマちゃん」
「いるる~」
鎖を解かれたイルマ族の魔族は、ぽふん、と俺の膝に抱きついた。ポンポンポン、とまるでノックするかのように足を叩いている。
「あっはは、かわいいなぁ」
「いる~」
バカっ! 今はかわいらしくポンポン叩いてるだけだけど、きっと成長したらそのパンチで壁に吹き飛ばされるぞ! 冷静になれ!
しかしそんな俺の声を知ってか知らずか、イルマと俺の体は一緒になって奴隷市から遠ざかっていく。まるで仲の良い親子か兄妹のように。
あ……あああ……あぁ。
「やああああああああああああめええええええええええええろおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
絶叫が部屋の中に木霊した。
「…………」
ゆ……夢オチか。
ふ、ふぅ、嫌な夢を見てしまったぜ。イルマが奴隷とか、絶対に何か恐ろしい結末が用意されていたに違いない。
未だに心臓がドキドキ鳴ってる。
でもまあ、こうして自分の部屋でまた寝起きできるようになるなんて、それだけでも幸運だった。なんせ魔王と対決したんだからな、俺。
クレーメンスを退けた後、俺たちは駆け付けた兵士たちによって医務室へと運ばれた。
俺はいくつかの骨が骨折、アレックス将軍たちは五体満足ではあるが疲労困憊気味。
しばらくして回復したアレックス将軍は、それまでモーガンによって退けられていた文官たちと協議を始めた。その結果、いくつかの取り決めが成立した。
国民には国王が魔族だったことは隠されている。たぶんまじめに話しても信じないだろうし、本気にされたらそれはそれで王国の信用にかかわるからだ。
だから、仮初のストーリーが用意された。
モーガンは魔族。国王陛下はその牙にかかり殺されてしまった。そういう筋書きだ。
モーガンが悪い奴、というのは国民の間でもそれなりに伝わっていたらしく、この話はすんなりと受け入れられた。
クレーメンスと対峙してからしばらくの時が流れ、俺はやっと五体満足に戻った。なおこんなかわいそうな俺にもイルマはいろいろ言ってきた模様。ひどい、鬼だ悪魔だあの子!
ちょうど着替えが終わったとき、ドアをノックする音が聞こえた。
「アニキ、入りやす」
サイモンだ。
「王国からの使いが来やした」
「通してくれ」
サイモンと入れ替わりに、鎧姿の男が入ってきた。見覚えがあるぞこの人。たしか、アレックス将軍の伝令だったような。
「ヨウ様、アレックス将軍から王都へ帰還命令です」
いよいよこの時が来たか。
国勢を動かしていたモーガンと、その裏ですべてを操っていた国王クレーメンス。両巨頭をなくしたこの国は、今、嵐の中で舵を喪失した大船のように惑い揺れている。
アレックス将軍の呼び出しは、今後の国家運営に関する重要な会議についてだ。魔王を退けた英雄として、俺も顔を出すことになっている。
「分かった、すぐにそちらに向かうと将軍に伝えてくれ」
「かしこまりました」
さてと、イルマに王都に行くための言い訳しておかないとな。
ここからが、『魔王集結編』になります。
全力でギャグに走ってしまった。
この前の話めっちゃシリアスだったのに、これでいいのでしょうか?
でも投稿しちゃうんですけどね。