異世界転移でもらえたスキル〈モテない〉レベル956が意外にもチート過ぎる
アースバインは女だった。
その驚愕の事実を理解した俺は、緊迫した戦闘中だというのにしばらく呆気に取られていた。
「驚いているみたいだね」
美しく整った金髪を掻き上げながら、アースバインはこちらを見据えた。
「皇帝が女だといろいろと舐められてね。ずっと性別を隠し続けてきたのさ。もっとも、シャリーやクレアみたいな側近はこの事実を知ってたけどね」
ん? シャリーさん? あれ……あれれ?
うーん、そういうことか。
「どうやら勘違いしているみたいだから教えてあげるね。僕は強いんだ。身体能力ではクレアを、頭はシャリーを上回ってる。スキルも君よりは遥かに知っている。そして精霊神剣は健在だ。君はまさか、男だから僕に勝てると思っていないよね?」
未だ、精霊神剣を握るアースバインは健在だ。肩の傷のせいで剣を持ちにくそうだが、せいぜいその程度。
だが、俺には見えてしまった。この勝負の結末が。
魔具、〈断絶の鎧〉は俺が破壊した。
そして、アースバインは女だった。
なら、俺が取るべき道は、一つじゃないか。
俺はすぐさま鎧を脱いだ。
俺の奇行に首を傾げていたアースバインだったが、すぐにそんな余裕はなくなってしまう。
「なっ……なんだこれは? 急に体が……」
その効果はてきめんだった。
「おえっぷ……」
えづきそうになるのを必死に我慢するアースバイン。戦闘中であるにも関わらず、このような無様な姿をさらしてしまっている。その体調の悪さはわざわざ説明するまでもないだろう。
剣を杖にして、倒れないようにと必死になっている。
「き、君の仕業か?」
その通りだ。
そう、答えるつもりだった。
「は……ははは」
でも、気が付けば笑ってしまっていた。
まさか、こんなオチとはな。さすがにこれは予想外だった。
この効果だ。やはり、このスキルで終われる。
この憎き駄目スキルで、最後の最後を決めちまうなんてな。
「いいか、教えてやるよ」
俺はゆっくりと歩みを進めた。一歩一歩、前に進んでいくたびに彼女の顔が蒼白になっていく。
「ひ、ひぃ」
アースバインの背後に鎮座していたはずの精霊神が消失した。どうやら、あれを顕現させるには集中力が必要らしい。
「これが俺の最強スキル」
俺は無抵抗のアースバイン皇帝の上半身を起こし、顔を近づけた。
「〈モテない〉だっ!」
距離、10センチにも満たない。互いの唾や息を肌で感じることができる、そんな間隔だ。
「あ……あぁ……嘘だ。こんな……ことが……」
がくがくと体を震わせているアースバインは、まるでそこだけ地震でも起きているかのようだった。瞳の焦点は合わず、拙い脚で俺から後ずさろうとしている。
だが、俺は彼女を逃がすつもりなんてない。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
アースバインは悲鳴にも似た叫び声を上げながら、床に横たわった。口からはカニか何かのように泡を噴き出している。
必死に気持ち悪さを堪えているように見えたが、どうやらそれも限界だったらしい。
懐かしいな。
〈モテない〉が決め手になったのは、イルマから逃亡した時以来か。相手が性別を隠していた、ってのも同じ展開だ。
「何が起こるか、分からないもんだな」
下手にスキルを捨てたりしていたら、今、この場で勝利することはなかった。軽い封印に留めておいたのは大正解だったわけだ。
〈モテない〉によって戦闘不能となったアースバインは、意識不明のまま倒れている。戦い的には俺の完全勝利と言ってもいい。
こいつ、殺した方がいいのかな?
シャリーさんには悪いけど、人造魔王が止まらないと皆死んじゃうし。いや、そもそもこいつを殺して人造魔王が止まってくれるのか? その辺りの情報を、シャリーさんから引き出しておかないとな。
〈断絶の鎧〉はすでに破壊された。見たところ、他に有用な魔具を装備していないみたいだ。だったら、かついでシャリーさんのところに連れて行っても問題ないと思う。
「君には驚かされてばかりだ」
「創世神か」
背後に立っていたのは、黄金の髪を持つ威厳ある男。創世神だ。どうやら俺の勝利を察知してここまでやってきたらしい。
「俺は戦いに勝ったぞ。どうすればいい? 人造魔王を止めたいんだが」
「人造魔王はすでに停止しているよ。その皇帝は君の好きなようにすればいいさ。彼女は〈グラファイト〉に敗北した」
「……俺は魔王イルマを倒してないぞ? それでいいのか?」
「競争相手が二人も敗北した。そもそもアースバインは前回の〈グラファイト〉で勝利している。これはルールが改変されたサドンデス。皇帝も言っていただろ? これは審判で裁判だと。負ければそれまでということだ」
神様からの勝利宣言。つまり俺は、もはや何の疑いもなく〈グラファイト〉を制したということ。
「改めて礼を言おう、藤堂陽君。俺一人では、神の座をはく奪されそのまま死に至っていただろう。君は俺を、そしてこの世界を救ってくれたんだ」
「アースバインは世界を滅ぼそうとしていたわけじゃない。だったら、この戦いは創世神を救っても世界を救ったことにはならないんじゃないのか?」
「ああ、その『世界を救った』いうのは、アースバインとの戦いに関してではない。これまで、世界で君が戦い続けてきた結果というべきだな」
なるほど、確かにそういうことなら納得だ。
俺は世界中で戦った。グルガンド王国と戦う過程で、魔族国家と人間国家にも友好関係が結ばれた。そして害悪となるカルステンやクレーメンスは俺の手によって排除されている。
確かに、結果的に見れば争いの目を摘んだようにも見える。
「ははっ、まさに君は救世主というわけだ。どうだい、次世代の神として俺に仕えてみないか?」
「あんたはアレックス国王か何かか? なんだか、最初会った時よりもずいぶん元気そうだな」
「さて、約束では願いを叶えるという話だったね」
そうだ。
俺は何もタダ働きをしていたわけじゃない。重要な願いを叶えるために、ここまでやってきたんだ。
「世界に著しく有害でないというなら、なんでも叶えてやるよ。言ってみろ」
そう言われて、俺は考える。
願い。
俺の願い。
「それは――」
俺は自分の願いを彼に話した。
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クラスの女子全員+俺だけの異世界召喚、です。
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