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スキルの根源

 精霊神剣による感情伝播を克服した俺。 

 身代わり魔具も残っている。もはや攻撃を躊躇するだけの要因は残っていない。


 俺はすぐさまアースバインへと肉薄した。


「……っ!」


 だが、衝撃を覚えてすぐに勢いを殺された。攻撃を受けたらしい。

 油断していたわけではない。むしろ反撃を予想して十分に警戒していた。


 今、何をされた?


 赤。

 青。

 緑。

 黄。

 

 色が見えた。

 そうとしか言いようがない。色が見えた後に衝撃を覚えた。ただそれだけだ。


 そう、あの色は炎? 水? 植物?


「精霊神はすべてのスキルの根源。力の塊なのさ」


 こいつは……ヤバイ。

 言いようのない不安が、俺の胸中を支配していった。


「今のは、スキルか?」

「10、いや20は超えてるだろうね。いずれも最高を超える最高、レベル1000超えの究極アルティメット級さ」


 スキルの神様的な精霊神が、既存のスキルレベルを超える一撃を放ってきたということか。


「君は〈断絶の鎧〉を持っているからスキルが効かない。でもそれは、通常レベル、せいぜい1000を少し超えたレベルの話さ。精霊神は既存のレベルを超越した究極級までスキルの威力を引き上げることができる。この威力になると、魔具の限界を突破して防ぎきれなくなるんだ」


 いわゆる、強い魔具が強い魔族に効かなくなる法則に似てるな。

 鎧の中に仕込んでいた身代わりの魔具が砕かれている。〈断絶の鎧〉を超えて俺にダメージを与えてきた何よりの証拠だ。


 まずい、まずいぞ。

 カルステン、エグムント、人造魔王との戦いを経て俺の身代わり魔具は大きく消費されてしまった。もはやそれほどストックに余裕がない状況なのだ。今の攻撃でも、10個程度が砕かれて消えてしまっている。

 もし、同じ攻撃を何度も繰り返されたら?

 俺は、たぶん死んでしまう。

 

 俺が死ぬ。

 事は俺の死だけには終わらない。ここに連れてこられたすべての人間、魔王たちの死にも繋がってしまうからだ。


 アースバインは神だ。俺やクラーラたちを生き返らせてくれるだろうか?

 たぶん、難しいんじゃないかと思う。あまり思いやりがある人間じゃなさそうだから。せいぜいシャリーさんを生き返らせて、自分の近くで侍らせる程度だろう。


 アースバインにスキルは効かない。これはスキル無効化の鎧を持っているからだ。だが、彼の生み出した精霊神の攻撃は、同じ鎧を持つ俺に効いている。

 彼の主張によれば、これは既存のスキルを超えた究極級のレベルで攻撃してるかららしい。 


 なら俺が、疑似的にでもその究極級とやらの威力を生み出せないだろうか。

 スキルの重ね掛けだ。


 俺は思いつくままにスキルを連発した。


「……それがどうしたのかな? 君は暖かい空気や粉雪のような氷で僕を倒せると思ってるのかな?」


 涼しい顔で、皇帝がそう言った。周囲には俺が生み出した炎や氷の残り香のようなものが舞っているが、それだけだ。全然届いていない。


 駄目だ。

 重ね掛けと強化は違う。俺がどれだけスキルを連発したとしても、それが〈断絶の鎧〉を破る力になるとは思えない。

 

 スキルが駄目。なら答えは一つ。

 魔具だ。

 魔具で攻撃を仕掛けるしかない。


 だがこれは考えものだ。離れて攻撃するタイプの魔具はあまり強い物でないことが多く、威力があるものはどうしても近接戦闘系の剣か槍になってしまう。

 今更皇帝に呪いの魔具が通用するとも思えない。ならやはり、近接戦闘で……。


 瞬時に考えをまとめる。

 ここで時間を浪費するわけにはいかない。最適解はあるかもしれないが、今の俺にできることはこれが精いっぱい。


「くそおおおおおおおっ!」


 まずはスキルを連発する。


 炎、氷、風、様々なスキルをがむしゃらに乱発することによって、相手の注意を削ぐ作戦だ。

 

「無駄だよ、あまり僕を失望させないでくれ」


 予想通り、アースバインは難なく俺のスキルを無効化する。今まで幾度となく繰り返されてきたその行為。

 ここからが、本番。


「くらええええええええっ!」


 俺は〈隠れ倉庫〉から〈破滅の槍〉を取り出し、投てき。


 魔具、〈破滅の槍〉。

 この槍はあらゆるものを貫く。たとえそれが、アースバインの周囲を守る〈絶壁〉であったとしても。

 

 防御魔具を貫き、俺の投げた槍はアースバインの近くへと到達した。

 皇帝が息をのむ音が聞こえた。


「……今のは危なかったよ」


 多少な警戒していたらしく、アースバイン皇帝は投てきされた槍を完全に回避。体を大きくひねり、鎧姿でありながらアクロバティックな体勢を取るその姿は洗練されていた。完璧な動きだった。


 だがそれすらも、俺の計算のうち。


「……しまったっ!」


 アースバイン皇帝は、今度こそ本当に驚いている。


 破滅の槍は前座。障害物を貫くための露払いに過ぎない。

 本命は、これ。

 〈降魔の剣〉。

 〈破滅の槍〉のすぐ後に投てきした。周囲を漂うスキルの残りが視界を悪くしていたこの状況。さしものアースバインも俺の三段構えの戦法には気が付けなかったらしい。 

 剣はアースバイン皇帝の体を貫いた。


「ぐ、が……」


 決まった。

 今、俺の攻撃があの皇帝に到達したのだ。

 

 それは、とてもうれしいこと。本来・・であれば、俺の勝利が確定していたかもしれないレベルの一撃。

 だが――


「……最強の武器を投げつけてくるなんて、これは予想外だったな」


 皇帝が笑う。

 〈降魔の剣〉は確かに彼を傷つけた。しかし肩を貫いたこの一撃は、有効打ではあるが致命傷には程遠い。片腕はもはや動かせないだろうが、俺はこの皇帝と肉弾戦をしていたわけではない。あまり意味のない負傷だ。


「慢心してたみたいだね。いい痛みだ。気の遠くなるような〈グラファイト〉の日々で、このような苦痛を味わったことがない。本当に、久しぶりだよ。誇ってくれていい。君は僕を傷つけた」


 肩に突き刺さった〈降魔の剣〉を引き抜くアースバイン。


「……?」


 音が聞こえた。

 ピシピシと音を立ててヒビの入る鎧。剣によって砕かれたその部分から、徐々にではあるが広がっている。


 〈降魔の剣〉は〈断絶の鎧〉に到達した。あれはただの鎧ではなく魔具だ。大きな穴が開いてしまったことにより、魔具としての力を失い崩壊しているのかもしれない。


「……鎧が砕けるか。スキルが僕に効くようになるが、油断しないことだね。僕の精霊神剣は未だ健在なのだから」

 

 鎧が砕かれた。

 そして、隠されていたアースバインの素顔もあらわとなった。


 長い金髪。整ったまつ毛に、艶のある唇。


 アースバイン皇帝は、女だった。


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