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輝け、精霊神剣


 迫りくる俺を前に、アースバインは剣を構えた。


「――輝け、精霊神剣」


 瞬間、アースバインの持つ剣に葉脈のような光が灯った。


「……っ!」


 俺は思わず足を止めてしまった。


 光だ。


「え……あ……」


 理解できなかった。

 アースバインの持つ精霊剣のような剣から、光り輝く何かが勢いよく噴出した。

 それはスキルではない。炎や水であれば色が付くだろうし、光系スキルであれば〈断絶の鎧〉が無効化する。光、と表現したのは俺の目にそう映っているからに他ならない。

 それは魔具ではない。剣が魔具であるなら、俺の〈叡智の魔眼〉が反応しているからだ。


 それは、例えるなら力。その集合体。


 光の奔流が雪崩のようにこちらへと押し寄せてきた。俺は本能的な恐怖を感じて後ろへと遠ざかる。


「へぇ、君、すごいね。この攻撃が見えるんだ」

「……まるで自分は見えないみたいな言い方だな」

「僕は力の方向を意識してるだけで、この攻撃が見えてるわけじゃないんだ。君のそれは、精霊を見える魔具の力かな?」


 精霊?

 この力は精霊に類する力なのか? そういえばさっき、こいつはあの剣のことを精霊神剣って呼んでたな。


「〈大精霊の加護〉、ってスキルのおかげだろうな。俺は精霊を視認できる」

「そんなスキルもってたのか。知らなったよ」

「俺のスキルを知らないのか? 勉強不足だな。よくそんなことで〈グラファイト〉に勝利できたな」

「言ったでしょ? 僕はずっと並行世界を繰り返してきた。何度君と人造魔王が戦う姿を見たと思う? スキルなんて高レベルでも役に立たない、それは君が一番良く知ってるでしょ?」 

 

 ごもっとも。高レベルで魔王が倒せるわけではないからな。

 

 アースバインは光の束をまるで鞭のようにしならせ、縦横無尽に部屋の中を走らされた。


「くそっ!」


 俺は恐怖から必死にその攻撃を避けた。少し過剰とも言っていいぐらいにだ。


 なんだ、これ?

 身代わり系魔具はまだ残っている。あの攻撃を受けても、すぐ死んでしまうことなんてない。そう頭では理解しているはずなのに、なぜか、あれを避けようとしてしまう自分がいる。

 怖いんだ。

 

 あるいは、何も知らない方が良かったかもしれない。

 あの光が見えなければ、恐怖を忘れて攻撃を仕掛けることが可能だったかもしれない。


 精霊は感情に干渉する。それはかつてクラーラとのやり取りで理解してしまった性質。

 あの光が、俺の恐怖の感情を植え付けているのかもしれない。


「〈風竜の牙〉っ!」


 とりあえず見つけた打開策は、風を使ってその光を散らすことだった。だが――


「無駄だよ。僕にスキルは効かない」


 全身を覆う〈断絶の鎧〉に隙なんか無い。アースバインが手を伸ばすただそれだけで、俺の風スキルは無効化されてしまった。


「……っ!」


 再び迫りくる白い光。俺は怯えるようにそれを避けた。

 恐怖だ。

 そこに理屈はない。気合とか勇気とか、そういう気持ちではどうにもならない……根源からの感情なのだ。


「……顔色が悪いね。君、呆気なさ過ぎるよ? 少しは粘ったら?」

「何を言ってるか分からないな」


 どうやら、顔に出てしまったらしい。


 ……正直なところ、俺自身が一番拍子抜けだった。

 もっとさ、炎とか氷とかをものすごい勢いでぶつけあって、「うおおおおおおお」とか「くらえええええ」とか叫んで、熱く強く戦い合う……そんな想像をしていた。

 それがなんだ? 白い光が怖くて戦えません? お化けを怖がる小学生か何か?

 

 くそっ!

 動けよ、俺の体! こんな無駄な時間を使ってる間にも、藤堂君やクラーラが必死に戦ってるのに……。


〝何やってるのよ! ヨウ〟


 そう、声が聞こえた。


 鎧の隙間から現れたのは、いつも俺が話をしている精霊たちだった。


「お前たち、付いてきたのか?」


 この部屋に、精霊はいない。

 ここはアースバインが用意した部屋だ。自然界に存在するような姿を持つ精霊は全く存在しない。

 なら俺の周囲を飛び交うこの精霊たちは、俺と一緒にここへやって来た存在。ここまでずっと、俺に付いてきてたのか。


「その話声? まさか精霊? すごいね。まさかここに精霊を侵入させるとは思わなかった。君は愛されてるんだね」


 俺の声に反応して、アースバインは精霊の存在を察知したらしい。 


〝こいつはこっちで食い止めるから、ヨウはあいつを倒して!〟

〝ふふっ、この報酬は高くつくわよ。分かってるわよね?〟

〝任せろー、任せろー〟


 精霊たちは俺の周囲に散らばり、まるでバリアのような白い幕を張ってくれた。その瞬間、俺の心から湧き上がってきていたはずの恐怖感が消えてなくなった。

 かつてクラーラが生み出した精霊体の感情伝播を防いだように、今回も俺を助けてくれるらしい。


 多くの人に助けられてここまできた。そして今もまた、精霊たちに助けられた。

 負けられない、負けちゃ駄目なんだ。


 やっと、勝負ができる。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 恐怖の消えた俺の体は、再びアースバインに向かって駆け出す。

 しかし――


「なんだ?」


 しなる鞭のように動いていた光の塊が、唐突にその姿を変えた。

 ちょうどアースバイン皇帝の後ろあたりに集まったその光は、徐々に巨大な人の形をとっていった。


 それは、例えるならトランプのキングのような姿をした男だった。俺の三倍以上の身長を持つそいつは、こっちを見下ろしている。

 なんて圧迫感だ。これは感情伝播による恐怖ではなく、俺の本能が警告を発しているのかもしれない。


「――精霊神剣、顕現」


 そう、アースバインが言った。


「見えるかな?」

「この男は、誰なんだ?」

「これが僕の研究成果。あらゆる精霊を総べる精霊神。すべてのスキルの根源たる存在さ」


 精霊神?

 聞いたことのない名前だ。

 だがすべての精霊を総べる存在、という肩書は伊達ではないだろう。この圧迫感が何よりの証拠だ。


 でも、どれだけ相手が恐ろしかったとしても、俺は歩みを止めるわけにはいかない。


「それがどうした」

「へぇ」

「俺はお前を倒す。そいつが貴族でも王でも神でも関係ない。それだけだ」


 俺は剣を構えた。

 憶するつもりは、全くない。


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