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3魔族突撃


 迫りくる100体のイルマ型人造魔王。

 その光景は圧巻だった。これまで戦ってきたどんな敵よりも強く、そして絶望的と言ってもいい。


「これは……なんですか?」


 初めに、膠着状態を打ち破り声を上げたのは、イルマの副官――マティアスだった。

 声が震えているのは怯えか、はたまた……怒りか。


「このような……悪趣味な紛い物が、こんなにも……。なんという……なんという愚かしいことを……」


 彼は魔王イルマに忠誠を誓っていた。愛する主の劣悪なコピーに対して、誰よりも良くない感情を抱いているのだろう。

 マティアスは犬歯のむき出しにし、吠えるようにこう叫んだ。


「私の誇りに賭けて、あのような物を認めるわけにはいかないっ!」


 猪のように一直線でイルマ型人造魔王へと向かって行った。そこにあるのは純粋な怒り。主を辱められたその心は、圧倒的強者への恐怖を忘れていた。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

 次いで咆哮したのはエグムント。ある種の狂気すら感じるその声に、俺は身震いを覚えてしまった。


「俺は、誰にも負けねぇ! 最強の魔王だ! あいつらを皆殺しにして、そいつを証明してやるぜえええええええええええええっ!」


 叫び声を上げながら、エグムントは人造魔王の集団に突っ込んでいった。

 身体強化魔法、〈青糸刻印〉はすでに起動している。


「やれやれ、血の気の多い連中だ。まあ、私も人の事は言えないがな」


 意外にも冷静なイルマが、俺に話しかけてきた。


「私は創世神がどうとか〈グラファイト〉がどうとか、そんな話は何も知らない。お前の事情はお前の事情だ。私は味方ではないからな」

「まあ、そうなるな」

「だがまあ、感謝はしているぞ鎧の男。貴様と出会えたおかげで、こうして血肉の踊る戦いに身をゆだねることができたのだ」


 魔王イルマは心底楽しそうに唇を釣り上げた。


「――パーティーの始まりだ」


 最後に、イルマが二人の後を追っていく。


 結局、好戦的な三魔族が我先にと突っ込んでいったわけだ。あれだけの脅威を前にしてもブレなかったのは、ホント尊敬するよ。


「さて、我々も考えなければならないね」


 過ぎ去ったイルマを見送りながら、魔王バルトメウスがそう言った。


「どうすればこの戦に勝利できるか、その方法を」

 

 現状、イルマたち三魔族がイルマ型人造魔王の集団に突っ込んでいる状態だ。

 一体一体がイルマより少し劣るレベルの力を持つ人造魔王。それを100体相手にするなんて不可能だ。


 よくよく見てみると、イルマたちも100体さばき切れていない。実質戦っているのは10~20体程度であり、そのほかの奴等は遠巻きに眺めているだけだ。


 イルマは自らの体を使って戦闘を行う打撃系の魔王だ。援護射撃を行ったり仲間を回復させたりとかそういった能力はない。コピーである人造魔王でもその傾向は同様だ。

 現状、イルマたちが奴らを引き付けてくれてはいるが、近づけば俺たちもターゲットにされてしまうだろう。


 かといってここから逃げることはできない。アースバインは人造魔王と戦わせるために俺たちをここへ捕らえた。逃げ出し方など何一つ説明なしに、だ。

 つまり、俺たちは戦わなければならないのだ。人造魔王、ひいてはその背後にいるアースバインと。


「いくらイルマたちでもあの集団全員を倒せるはずがない。動くなら早い方がいい」

「ふむ、まったくだね。では……」


 魔王バルトメウスが指さしたのは、人造魔王たちの左側だった。


「我々は左から迂回し、アースバイン皇帝のもとを目指そう。足止めのために何人かを置いて、皇帝を倒すための刺客を二人……否、最低でも一人は送り出すべきだ」


 中央部に固まっている人造魔王だ。左右どちらかから避けるように迂回すれば、多少は戦闘を避けられるかもしれない。

 まあ、イルマたちが全員を相手しきれていない以上、俺たち自身で何体か引き受けなきゃいけないわけだがな。

 なかなか厳しい戦いになりそうだ。 

 まずは、アースバインのもとへたどり着かせる人材の選定からだろう。


「その役、ヨウ殿が最もふさわしいな」


 と、口を挟んだのはアレックス国王だった。


「同感ですぞ、この中で一番ヨウ殿がお強い」

「先輩ならきっとできます。俺は信じてますから」

「本当は私が陛下に会いたいのですが、この状況ではそうも言ってられませんね。私も足止めに徹しましょう」


 皆……。

 イルマ型人造魔王は脅威だ。ただ相手にするそれだけで、命を落としてしまうかもしれない。

 ここで足止めをするということは、死ぬことに等しいのだ。

 それを、勝利のためにとはいえ、買って出てくれるなんて……。


 皆の意思は受け取った。

 なら、俺も覚悟を決めないといけない。


「分かった、なら俺が行こう」


 一人も犠牲者が出ないように、速く、アースバインのもとにたどり着いてみせるっ!


「では、我々も始めよう。ヨウ殿、合図を」


 こくり、と頷く俺。

 これから俺たちは死地に赴く。相手はついさっきまで大苦戦していたイルマ型人造魔王だ。一人でこいつと戦うなんて……命を投げ捨てる行為に等しい。

 これが最後の別れになるかもしれない。俺は仲間を信じたい。だけど、それほどまでに力の差は絶望的だ。 

 

 こんなに唐突に戦いに巻きこんでしまうつもりはなかった。この世界のクラーラや俺が死んでしまったら、それこそ目も当てられない大惨事だ。

 頼む。

 どうか生きて……俺の勝利を祝福してくれ。それだけが……願いだ。


 さて、と。

 考えるのは終わりだ。

 始めよう、これが最後の戦いだ。


「進めえええええええええええええええええっ!」


 俺たちの作戦が始まった。


ここからが最終決戦編になります。

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