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慢心

「う……」


 俺は、確か。

 リービッヒ王国の近くで、イルマ型人造魔王と戦っていたんだ。パウルさんやクラーラが来て、最後にはイルマやマティアスまで来て、皆で人造魔王を倒した。

 でもそのあと、何か黒い靄のようなものに包まれて、意識を失った。


 ここまでは、覚えている。


「う……うう……」

「頭が……痛いよ」

 

 クラーラたち魔王、藤堂君、そしてイルマたちまで近く倒れていた。俺と同じように、ゆっくりではあるが意識を取り戻している。


 俺は改めて立ち上がり、周囲を見渡した。

 

「こ……これは……」


 そこは、俺が今までいた城近郊の草原ではなかった。

 俺が立っているのは白い床だった。板のようなそれが、宇宙のような黒い空間に浮かび上がっている。

 俺はこれと似た場所を良く知っている。

 創世神の空間だ。


 〈グラファイト〉に勝利し、神になる権利を得たアースバイン。ここはそんな彼が用意した場所、とみてまず間違いないだろう。


〝ようこそ、創世神の使徒たる勇敢なる戦士たちよ〟


 空の上から、声が聞こえた。


「この声は、陛下っ」


 シャリーさんが太鼓判を押すなら、この声の主はアースバイン皇帝で間違いないだろう。


〝やあシャリー、僕のシャリー。悲しいね。もう僕なしで生きていられるようになってしまったのか〟

「陛下、私は……」

 

 使徒たるイルマ型人造魔王を倒され、とうとう俺たちの前に姿を現した……ということか。もっとも、声だけで姿は見えないが。


 アースバインは話題を変えるように、少しの間沈黙を置いて再び話を始めた。


〝僕の名前はアースバイン。この世界の神である〟


「……っ!」


 一同、息をのむ声が聞こえた。事情を知るのは俺とシャリーさん、それに藤堂君ぐらいだ。アレックス国王はカルステン経由で少し理解してるかもしれないが、せいぜいその程度。

 

 イルマやエグムントに至っては完全に巻き込まれた形だ。創世神の使徒、なんて言われてもピンとこないと思う。


「どういうつもりだ! なぜ俺たちをここに呼びよせた!」

〝栄光ある戦果を掴み取った君たちに、ただの一度だけチャンスを与えよう〟

「チャンス?」

〝僕のところまでたどり着き、倒してみてよ。そうすれば〈グラファイト〉は創世神の勝利ということにしてあげる。〟


 俺たちの勝利に? 何のために? 何が目的で?


 …………。

 俺は考えた。これまで起こった出来事について。


 創世神から神の地位をはく奪しなかった件。

 エヴァンス型人造魔王の力試し。 

 俺のもとにわざわざ現れたイルマ型人造魔王。

 

 これらの傾向が指し示すアースバイン皇帝の思考は……。


 これは、慢心してるっぽいな。どれもこれも、自らを著しく不利にする案件だ。

 ゲームやラノベでたまにある展開だ。

 ふはははははははっ! 神である俺が負けるはずない! とかなんとか言ってボコボコにされるパターン。

 まあ、そこまで都合よくはいかないかもしれないけど、慢心してるのは間違いないと思う。付け入る隙は十分にあるということだ。


〝もうすでに、僕の配下をそちらに向かわせている。さあ、せいぜいあがいて、僕を楽しませてくれよ。終わりのない並行世界の繰り返しバトルに、飽き飽きしてたんだからね〟


 どうやら、話したいことはそれで終わりらしい。

 楽しませてくれよって、お前はイルマか何かか?

 

 どうやら、俺はこれからアースバインが用意した敵と戦わなければならないらしい。そいつは一体どこにいるんだ?


 俺は周囲を見渡し、異常に気が付いた。敵が見つかったわけではない。隣に立っていたクラーラが、ある一点を見つめ唇を震わせていたのだ。


「あ……あれ……」


 震えるクラーラの指が、示した先。俺はゆっくりとそちらに目線を移し……そして。


「……は?」


 俺は、文字通り言葉を失ってしまった。

 あり得ない。

 あり得るはずがない。

 こんな光景は嘘だ。夢だ……幻だ。視界に収めたただそえだけで、頭がくらくらしてしまった。 


「よ、ヨウ殿。私の目は……おかしくなってしまったのですかな?」


 パウルさんが情けない声を上げた。でも、俺にそれをあざ笑うだけの余裕はなかった。


 目の前にいたのは、イルマ型人造魔王。

 そう。

 それは、さっき俺たちが倒したはずの人造魔王だった。

 むろん、先ほど皆で倒すことのできた敵だ。それだけであるのなら、俺たちはここまで動揺しなかったと思う。


 問題はではなく奴等・・だったということ。

 ここから距離はあるが、一列に並んでこちらに行進してきている。一目見ただけで数えられないほどに、だ。


 50、70体いや、あれは100体、か?

 100体のイルマ型人造魔王。そいつらがまるで押し寄せてくる壁か何かのよう圧迫感を携えて、こちらに向かってきている。


 ああ……分かってしまった。

 これは、遊びなんだ。

 誰だって、こんな手を持て余す戦力をもってしまえば、遊びたくなってしまう。最強のイルマが100体だぞ100体! 俺が100人いても勝てるかどうか、そんなレベルの話だ。

 そいつらを強い奴にぶつけたら、さぞかし楽しい光景がみられるだろうな。そうだ、これはコロシアムなんだ。かつてイルマが俺と配下の魔族を戦わせようとしたように、アースバインもまた俺たちと配下の人造魔王を争わせようとしている。

 

 

 アースバイン皇帝は慢心して油断している。だが、彼にはそれに足るだけの戦力が存在したということ。


 ……。

 俺たちに逃げ場はない。

 これが最終決戦だというのも事実。

 たとえイルマが100人でも1000人でも、俺は勝利を掴み取るためならば戦いきってみせる!

 あの世界での無念を晴らすためにっ!

 

 絶望に彩られた俺たちの最終決戦が、今、火ぶたを切られた。


ここで新・力王編は終了になります。

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