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異世界転移でもらえたスキル〈モテない〉レベル956が意外にもチート過ぎる  作者: うなぎ
魔王奴隷編

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モーガンの横暴

 

 サラーン平原が魔族に奪われた。

 その凶報は、アレックス将軍配下の伝令によって伝えられた。

 サラーン平原はかつて俺が総大将になり軍を率いて奪還した土地だ。その豊かな土地はモーガン公爵の領地として組み込まれたものの、これから王国の領土として発展に寄与していく……そのはずだった。 


「アレックス将軍!」

「ヨウ殿、久しいな」


 アレックス将軍は切り株の上に腰かけ、俺のことを待っていたらしい。

 ムーア領西方、王都との境界付近の巨木にて。

 イルマの件で領主の館から離れにくい俺ではあったが、この場所なら馬を走らせ1時間程度で往復できる。アレックス将軍には悪いが、ここまでやってきてもらった。


「モーガン公爵が敗北したというのは本当ですか?」


 モーガン公爵。

 この対魔族強硬派である男は、俺の警告を無視して再び徴兵を開始し魔族と戦争を起こしたらしい。

 だが例によって寄せ集めの軍はひどいありさまであり、とても軍隊として機能していなかったらしい。討伐軍は初戦から敗北、蜘蛛の子散らすように逃げ出す兵士たちは魔族に追撃され、とうとう領地として奪還したサラーン平原まで逆侵攻を受けてしまった。

 サラーン平原は再び紫の謀略王クレーメンスの手に渡った。


「伝令には伝えていなかったが、貴族の子弟への捕虜交換の話が上がっている。莫大な金銭が支払われ、王国の国庫がついえるだろう」

「…………なんてことを」


 決して予断を許さぬ状況であるこの王国において、捕虜交換の賠償金は致命傷にすらなり得る。モーガンは失敗したのだ。この国を破滅に追いやるに等しい、恐るべき傷を残して。


「アレックス将軍、陛下に直談判しましょう! このままではこの国が滅びてしまいますっ!」

「……陛下には会えないのだ」


 アレックス将軍は陰鬱な声を上げた。口惜しさをにじませるように、唇を噛みしめている。

 

「まさかここまで強硬手段に出てこようとは思ってもみなかった。対魔族強硬派は陛下を取り囲み、私やコーニーリアス宰相を締め出している。今、私が陛下と会うことができるのは……玉座の間で定期的に催される報告の時だけ。しかしその時すらも、モーガン公爵率いる強硬派が近くに控えているのだ。ある種、軟禁されていると言っても過言ではない」

「まさか……そんなに状況が悪化してるなんて」


 将軍まで陛下に会えないなんて、それはもうクーデターにも等しいんじゃないだろうか? 


「ともあれ、これほどの大敗北を起こしてしまったモーガン公爵だ。未だ権力は握り続けているものの、さしあたって討伐軍の徴兵予定は聞いていない。時間はある。その間に足場を固めていこう、ヨウ殿」

「そうですね、将軍」

「大恩ある陛下に仇なすとは……絶対に許されるべきではない」


 アレックス将軍は怒りに震えていた。もしその足がマティアスによって切断されていなければ、その両足でモーガン公爵に切り込んですらいたかもしれない。


「私も将軍とは名ばかりで、足を失って以来は戦争に出ていない。剣もすっかり錆びてしまう、まったく口惜しい限りだよ……」

 

 そう言って、アレックス将軍は茶色く錆びた剣を俺に見せた。

 いや、今はそんなことどうでもいい。とりあえずモーガン公爵をどうにかしなければ……。



ーー十数年前

 男は、浮浪者であった。

 没落貴族の末弟として生まれた彼ではあるが、まずその親が多くの子供を支えきることができず……切り捨てられた。捨てられた男は、スラムの角で細々と生きていくしか道が残されていなかった。

 それでも、子供のうちは良かった。哀れな幼子に己の子を重ねたのか、同情する通行人に決して少なくない金銭をもらった。その汚い身なりから決して手を差し伸べられることはなかったものの、空腹に困ることはなかった。


 だがいつしか男は成長し、施しすらももらえなくなってしまった。世の中は子供や女に甘い、とその時初めて悟った。

 男は仕方なく盗みを働いた。人を騙し、時には傷つけすらした。官憲の手によって捕らわれ、牢獄に入れられたこともあった。

 不遇の日々を過ごして男は、決して報われることがなかった。


 富める者を憎んだ。

 親を持つ者を憎んだ。

 楽しそうに笑っている者を憎んだ。

 そして最後には、この世のすべてを憎悪した。

 男の憎悪は世界に向けられた。魔王が人類を滅ぼしてくれればいいとすら思った。

 男は笑った。この愚かで醜い世界を嘲笑った。すべてがどうでもよくなり、これまでやったことのないほどの大きな悪事に手を染めようか……と考えていた。

 

 ふと、男は気がついた。周囲がやけに騒がしい。


「お、王子! なりません、このような卑賎な者たちの地に足を踏み入れるなどっ!」

「……よい」


 目の前に現れたのは、従者を引き連れた一人の男だった。白髪交じりの長い髪を伸ばしている、そんな男。

 身なりの良い男だ。おそらくは貴族、ひょっとすると王族ですらあるかもしれない。


「余はこの国の第15王子である。男よ、余についてくる気はないか?」

「……?」

「余の下で兵を率いる者として……働いてみる気はないか?」


 来訪者の申し出を受け、男は無言のまま手を差し出した。

 泥水でしか洗ったことのない汚い手。その綺麗な身なりの来訪者にとっては、汚物以外の何物でもないだろう。

 掴まれるはずがない。

 そう思った。そう確信していた。

 しかしそれを、この来訪者は……しっかりと掴んだのだった。

 

(……違う)


 男はそう思った。これまで出会ってきたどのような男たちとも違う、確かな違和感をこの来訪者から感じてしまった。

 これまで、男は何度も何度も同情と侮蔑を受けてきた。優しくされても、辛く当たられても、等しく人間以下の家畜か何かのように扱われている……そう感じていた。

 しかし、この男は違った。

 一人の人間として、自分を見ている。


「名前を聞かせてもらえるか?」

「……アレックス」


 後の将軍、アレックスは王子の手を取った。


 やがて、王位継承の混乱により、この来訪者が国王としてこの王国に君臨することとなる。 

 アレックスは今なおこの当時のことを覚えている。そして国王陛下への恩は絶対に揺るがないと、忠義を貫いているのだった。


そろそろ序盤の大詰めに入っていきます。

改めて思うけど、この小説結構長くなるかもしれないです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「恩を貫く」という言葉はありませんよ。 「忠誠(忠義)を貫く」という言葉はあっても。
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