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一斉攻撃


 俺たちは魔王イルマと戦う。

 もう、俺は一人じゃない。一緒に、人造魔王を倒すんだ。


 まず先陣を切った前衛は俺。


「アクセル・コンバート・エクスプレッションっ!」


 精霊剣の起動式を唱える。 


「スキル、〈風竜の牙〉っ!」


 レベル1000の風スキル。竜巻に似た風の塊が、人造魔王へと押し寄せていく。

 だが戦闘スキルだけで人造魔王がどうにもならないのは、すでに先ほどまでの戦いで実証済みだ。これはただ単に時間稼ぎをしているに過ぎない。


「――〈森剣創生〉」


 魔王クラーラは木の剣を生成し、人造魔王に迫った。俺と同じく〈大精霊の加護〉を持つ彼女であるから、相手の行動を先読みして攻撃を加えている。

 彼女の周囲には精霊が舞っていた。 

 右に、左に、美しく揺れ動く精霊はまるで流れ星のように。クラーラを誘導し、効果的に支援している。


 だが、この攻撃は激しく敵と近接している。もしもの事を考えてしまうと、俺は不安で仕方なかった。


「お、おい、クラーラ。あまり無茶しないでくれ。もし殺されたどうするんだ?」

「馬鹿にしないでくれる? 野蛮人。私だって魔王なんだからっ!」


 そういえば昔、クラーラがイルマの攻撃をくらっているところを見たことがあったな。あの時はかなりダメージを受けていたように見えたけど、とりあえず死んではいなかった。

 危なくなったら退かせればいい。彼女もそのぐらいの分別はついているはずだ。

 仲間を信じよう。

  

「ぬうんっ!」


 割り込んだのはアレックス国王。かつてカルステンが使用していた魔具、〈断絶の槍〉

を難なく使いこなしている。


「私も長く魔族たちと戦ってきたが、まさか魔王イルマのコピーと刃を交えることになろうとはな。恐ろしくもあり、光栄でもある。同僚の将軍たちに良い土産話ができた」


 魔具武装を完成させたアレックス国王は、人造魔王へと果敢に攻め込んだ。その武人としての経験は、戦闘に遺憾なく発揮されている。攻撃の隙をまったく与えることなく、魔具による攻撃を重ねていった。


「偉大なる創世神オルフェウスよ、水糸の力、我に授けたまえ」


 魔法の詠唱を終えたのは魔王バルトメウス。 


「〈水人招来〉っ!」


 水の塊から生み出されたのは、人の形をした何か。両手、両足をさながらスライムのようにプルプルと震わせながら立っている。

 水の、アンデッド。


「行け」


 魔王バルトメウスの戦闘力は高くない。しかし彼は言わずとしれたアンデッドの王である。この地に眠る魂を励起し、仮初の命を与えたのだ。

 その数は100、否、200はくだらない。小規模ながら軍隊のように隊列を組み、一斉に人造魔王へと押し寄せていく。


「…………」

 

 所詮は弱いアンデッド。しかも硬さも強さも持たない液体生物。水の死人たちはなすすべもなく壊されていった。しかし、数が数だけにさしもの人造魔王も手間取っているようだ。


「先輩、下がってくださいっ!」


 そう言って前に出た藤堂君。手に握っていた何かを数個、人造魔王へと投げつけた。

 あれは、卵か?


「爆ぜろっ!」


 ごうん、と大地を揺らすような音がした。

 藤堂君の投げた卵型の何かがものすごい勢いで爆発した。まるでガソリンが引火したかのように、周囲を赤い炎で覆っていく。


 あの爆発、そして火炎。おそらくは炎系魔族の卵なんだと思う。

 珍しいスキルの使い方してるな。自分の攻撃に合った卵を探し出したのか。


「どうですか、先輩! 俺だって、冒険者ギルドでずっと頑張ってきたんですよ?」

「見違えたな藤堂君。俺なんかもよりもよっぽどもらえたスキルを有効活用してるよ」


 弱小魔族であれば、今の一撃で決まっていた。高いレベルの魔族であったとしても、それ相応のダメージを与えられたと思う。


 爆炎に塗れながら、人造魔王は姿を現した。皮膚の浅い位置に、藤堂君が投げた卵の破片が突き刺さっている。


「〈黄雨降矢〉っ!」


 閃光王パウルが魔法を放った。黄色い矢が人造魔王へと降り注いでいく。

 幾多の攻撃を受けた人造魔王は、煩わしそうに両手を振り回している。まるで羽虫か何かを追い払うかのようなその動作は、隙だらけだ。


「まだまだっ!」

 

 パウルは息をする間も与えず矢を連射した。黄色の矢は雨、それも豪雨のように人造魔王へと叩きつけられていく。

 

「恩に着る、パウルさん。後は任せてくれ」

「頼みましたぞ、ヨウ殿っ!」


 俺は即座に人造魔王へと接近した。仲間たちの攻撃に戸惑っているこいつは、未だ俺に対処しきれていない。


「せいっ!」


 俺は人造魔王を切り付けた。その腹部には浅くない傷が刻まれる。

 イルマ型人造魔王は、イルマのコピーだ。変に再生能力があったりするわけではない。傷つけばそのままであり、それはダメージに繋がる。


 仲間、か。

 正直なところ、一人一人の力はたいして強くないと思う。だがこうして一斉に攻撃を加えれば、隙が生まれる。その隙を突けば、俺の攻撃は当たりやすいし、相手の攻撃を避けることも容易だ。

 やりやすい。

 仲間ってのは、こんなにも頼りになる存在だったんだ。


 切り傷を増やした人造魔王は、その動き歪めた。


「グ……ググ……グ」


 人造魔王が声を上げた。深く、地の底から湧き出てくるかのような……凄みを秘めた音。


「こ、こいつ、今声を上げたぞ!」


 人造魔王は今まで喋ることなく、悲鳴や鳴き声を発することもなかった。それが、今になって……なぜ、こんな?


 怒り?

 あるいは覚醒?


「グオオオオオオオオオンっ!」


 大地が揺れた。

 人造魔王は空高く跳躍し、その悲鳴を天に轟かせた。

 けたたましい咆哮とともに、第二ラウンドが始まった。 


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