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異世界転移でもらえたスキル〈モテない〉レベル956が意外にもチート過ぎる  作者: うなぎ
新・叡智王編

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190/210

本物


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」


 もがき苦しむ魔王カルステン。魔具、〈苦毒の鎌〉による毒が全身に回り、死に至るほどの激痛を味わっているのだろう。

 奴は背後にいる偽リーザを突き飛ばした。突き飛ばされた彼女はぼんやりとしたまま、動こうともしない。精神的なショックからは抜け出せていないようだ。


「お前えええええええええええええええっ! 僕の人形のくせに! 偽物のくせに! よくも、よくも邪魔してくれたなっ!」

 

 〈苦毒の鎌〉は相手に死をもたらす魔具である。

 強い魔族であれば魔具の力を覆すことができるかもしれないが、奴はアレックス国王の肉体を持つだけの存在。高レベルの魔具を打ち消すだけの力はない。

 今はまだ、俺のように体に張り付けている〈身代わりの宝石〉みたいなダメージ軽減魔具が肩代わりしている状態。だが〈苦毒の鎌〉は死に至るまで体を苦しめる魔具であり、常にダメージは継続している。

 つまり、このままではカルステンの身代わり魔具がすべてなくなり、死んでしまうのだ。

 対策は二つ。


 一つは〈反射鏡〉によってダメージを反射する方法。この場合は偽リーザが死ぬ。

 もう一つは肉体転移。死に至ることを利用し、偽リーザに魂を移すのだ。


 どうやらカルステンは、後者を選択したらしい。


 俺は魔具、〈魂魄の魔眼〉を取り出した。これは魂を視認するための魔具だ。

 すでに肉体転移は始まっているらしい。肉体転移の魔法、〈橙糸転移〉は橙色の繭のようなものを形成し、相手の肉体へ魂を移す。今、魂が見えるようになった俺の視界には、過去に見たそれと全く同じものが映し出されている。


「…………」


 二人の体が近すぎる。魂が空気中に浮き出している状態であれば、俺が〈脱魂の指輪〉を使い奴の霊体を握り潰すことができたのに。

 もどかしい。

 結局、今度は偽リーザの体を奪われてしまうのか?

 あの子は、傷ついていた。俺のせいだ。今更彼女を本物扱いすることなんてできないが、奴に肉体を奪われるなんて末路だけは避けたい。

 だが、もうどうしようもない。俺に出来るのは、魔法の行く末を眺めていることだけだった。


 …………。

 …………。

 …………。


「……?」

 

 おかしい。

 〈橙糸転移〉はこんなに時間のかかる魔法だったか? さっきから全然進んでいないように見えるのは気のせいか?

 偽リーザとアレックス国王の間に見える白い光。あれは、カルステンの……魂?


 まさかっ!

 俺は思い当たることがあった。

 すぐさま〈隠れ倉庫〉を起動し、〈脱魂の指輪〉を装着する。

 

 しかしそんな俺の様子に感づいたのか、カルステンの魂はアレックス国王の体に戻った。どうやら、このままでは俺に殺されてしまうと判断したらしい。


「ひ、ひぃ……なんで、どうして僕の魂が……」


 やはり、偽リーザの体に魂を入れられなかったか。


「……覚えていないか? お前がお姉さんの人形に魂を入れようとした時だ」


 それは、前回の世界での話。


「人形に魂は入れにくい。お前はあの時、〈脱魂の指輪〉を使って無理やり人形へ魂を押し込んだ。だけど今、魂を入れ替えようとしているのはお前自身だ。自分で自分の魂を抑え込むことなんてできない。分かるだろ?」

「……お姉さんの? そ、そうだ、あの時、魂が上手く入らないから……僕が押し込んで……。ああ、あ、あ……あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」


 さしものカルステンも己の敗北を悟ってしまったらしい。

 肉体転移は封じられた。アレックス国王の体は毒が回っている。万事休すだ。


「……ま、まだだ! まだ僕は……」

「させるかよ」


 カルステンは〈隠れ倉庫〉を起動し、魔具を取り出そうした。しかし俺は即座に奴が手にとっていたものを破壊する。

 〈反射鏡〉だ。おそらく毒のダメージをリーザに返すつもりだったのだろう。だがそんなことは俺が許さない。

 そのまま死ね。


 〈反射鏡〉は俺が破壊する。

 つまりカルステンに残された結末はただ一つ。魔具、〈苦毒の鎌〉による毒が全身に回り死んでしまうことだけだ。


「いやだあああああああああああああ、し、死にたくないいいいいいいいい。助けてよ! 僕の負けでいい! 〈グラファイト〉は諦める。その証拠にオリビアを引き渡す。魂をこの女に移させてよ。痛いんだよ……苦しんだよ。頼むからさぁ……早く……は、やく……」

「反省するのが500年遅かったな」

「う……あ……あ……なんでだよ。どうして、なんでこんなことに。僕は間違ってない……、間違ってなんか、なかったのに……」


 絶望に染まるカルステン。苦しさにのたうちまわるその姿は、まるで塩を浴びせられたナメクジを見ているかのようだった。


「死ねっ!」


 怨嗟のこもったカルステンの叫びが、焼けた森の中に木霊した。


「死ね死ね死ね死ねえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」


 言葉だけでは、人を殺せない。

 俺はカルステンの言葉を無視していた。その断末魔の叫びをただ淡々と聞いているだけだった。

 だが、すぐにその意図に気が付いた。

 目の前にいた偽リーザが、地面に崩れ落ちてしまったからだ。


 これは、命令だ。

 偽リーザ、すなわち〈鏡の人形〉への主としての命令。


「り、リーザっ!」


 偽リーザは腕が折れ、体中に壊れたガラス細工のようなひびが入っていた。


「やったよ、リィはね……魔王、倒しちゃった。ヨウのこと、守れたわよ? 忠犬ね。すごいでしょ」

「喋るな、今、治療を……」


 ……と、言いながらも俺はすぐに手を止めてしまった。 

 ダメージを軽減する〈身代わりの小石〉は存在するが、これは攻撃を受ける前に持たせるものだ。今はもう手遅れだ。 

 そもそもこのリーザは人間じゃない。人間用の魔具や手当が、果たして効果を発揮するのだろうか?


「リィはね……本物なのよ? 魔王が用意した偽物なら、主を……攻撃したりしないでしょ? 証明されたわね」

「ああ、そうだな。俺の……勘違いだった。お前はリーザだよ」

「反省、した? なら、当然償ってもらわなくちゃね。……どうしましょう、また……ペットになって……もらおうかしら?」

「そういうのも、いいかもな」

「今日は素直ね、ヨウ。いい子いい子……、ってあれ……手が。動か……な……」


 もう、彼女の手は完全に崩れ落ちてしまっている。存在しないんだ。動くとか動かないとか、そんな次元の話じゃない。

 

「…………」

「リーザ?」


 彼女は止まった。唇も、瞳も、胸も動かず、その体はまるで石か何かのように温かみを失っていた。

 カルステンの命令は、達成されてしまったのだ。

 偽リーザは死んだ。


 本物のリーザにとって、ペットであった身代わりヨウが本物であったように。

 俺にとって、迷宮での彼女はリーザだった。

 それが……きっと真実。偽物とか本物とか、そんな話なんて……必要なかったんだ。


 人形はリーザでなくなり、その残骸は粉々に砕け散ってしまった。

 彼女の尊い魂は、天に帰ったのだろうか? それとも、ただの人形として壊れて土にかえったのだろうか? 

 墓を作ろう。 

 せめて俺の手で、彼女がいた証を残しておこう。



 さようなら、リーザ。


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