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謎のループ

 ループが始まった?

 ヨハネスたちのゾンビと戦いながら、俺は考えた。

 ループについてだ。


 リーザは前と同じセリフと行動だった。つまり彼女はループ影響下にない?

 なぜリーザだけ対象から外した? 終わりのないループで焦燥感を煽りたいなら、彼女も巻き込んで絶望させた方がいいはず。何か別の条件でもあったのか?


 そもそも俺は、前回カルステンにもイルマにも会ってない。必死に探せばどこかで出会えるのか? これでは脱出条件が何なのか確証が得られない。

 仮に『リーザの死』が脱出条件になっていたとしたら、目も当てられない悲惨な末路を迎えてしまうだろう。

 もっとも、そんな条件が設定されているとは考えにくいが。


 分からないことだらけだ。

 だがこの状況で、俺やリーザに命の危険が及ぶことはないと思う。その点は少しだけ安心していた。


 俺は難なく魔王たちのゾンビを倒した。〈半快の宝玉〉を持っているって知ってるから、こいつらはもはや一回蘇るだけの雑魚に過ぎない。


「よっわ、雑魚ね雑魚! あーあ、リィ緊張して損しちゃった」


 唾を吐いてぐりぐりとヨハネスの腐った肉付き頭蓋骨を足蹴りするリーザ。

 これは前回も見た光景だ。

 やはり、リーザはループの対象外。


 ポン、とヨハネスの頭蓋骨がこっちに蹴り飛ばされた。グロい。こんなものを見せつけないでくれリーザ。


「ヨウ? どうしたのかしら?」


 さほど苦戦しているわけでもないのに悩ましい表情をした俺を見て、リーザが訝しんでいる。


「…………」


 これは、どうすればいいのか分からない。

 案外、彼女に助力を求めた方がいいのかもしれないな。


「少し、俺の話を聞いてもらえるか?」


 俺はリーザに現在の状況を話す事にした。ループの事、魔王カルステンの事、そしてこの地に迫っているであろう魔王イルマについて。

 〈グラファイト〉については長い説明になるので伏せておいた。魔王イルマとカルステンが敵対している、という情報だけでもこの状況は十分に解説できるからだ。


「つまり世界がループしてて、リィは同じことを前の世界でもやってたってこと?」

「信じられないかもしれないけど、俺はそう思ってる」

「ホントにー? 夢でも見てたんじゃないの? 信じらんなーい」


 リーザが俺の頬を指で摘まんだ。どうやら漫画とかで夢かどうかを確かめる例のアレらしい。


「どう? ここは現実?」

「いたたたたた痛い、止めろ」


 いやこいつ面白がってこれやってるだけだろ。

 リーザが疑問に思えば思うほど、俺の中の確信は深まっていく。


「……カルステンの目的が分からない。奴は俺に何をさせたいんだ」

「うーん、そうね。もし、もしよ、ヨウの言ってることが本当なら」


 やっと俺の主張に耳を傾けてくれる気になったらしい。

 西方大国の頂点に立つ優秀な指導者であるリーザ女王だ。彼女の見解は俺にとって大いに役に立つだろう。


「地上への近道とか、抜け穴とかがあるんじゃないかしら?」

「抜け道か……」

「もしくは、魔王イルマがどこにいるのか教えてくれるような書置きとか」

「手紙か何かか? 前回はどこにも見つからなかったが……」

「きっとこの階よこの階。いろんな階を探し回って見つけるんじゃ意味がないわ」


 なるほど、言われてみればそんな気がしてきた。

 かつてのループでは、メッセンジャーとしてカルステンの〈鏡の人形〉が設置されていた。今回もどこかに似たようなものが用意されていたが、俺が見つけられなかったという説か。


 どうせループ下にあるんだ。いろいろやってみよう。


 俺はリーザの言葉に従い、この階を重点的に捜索しようとした。

 が、それは捜索というにはあまりに時間が短すぎた。俺たちはすぐに目的のものを見つけてしまったのだ。


「待って」


 通路を歩いていた時、リーザが俺を呼び止める。


「どうした?」

「ここ、ここよっ!」 


 そう言って彼女が指さしたのは、床。なるほど、確かに継ぎ目に位置するブロックが少々不自然に途切れている。

 いつも似たような通路ばっかりで気にも留めていなかった箇所だ。リーザがいなければ気が付かなかった。

 

 俺は周囲を入念に調べた。すると壁のあたりにスイッチのようなものが設定されていることに気が付いた。不意に押してしまう位置ではないため、おそらくは罠ではないだろう。

 まあ、油断はできないが。


「やった、リィが押す! 超押したい!」

「罠かもしれないから、俺がやろう」

「ブーブー」


 唇を尖らせたリーザを無視して、俺はスイッチを押した。 

 すると、近くの壁がまるでシャッターか何かのように持ち上がった。

 隠し部屋、のような場所らしい。それほど大きくない。


 部屋の奥には、一個の水晶が設置されていた。


 〈転移の水晶〉

 効果:対応する別の〈転移の水晶〉が設置してある場所へ転移する。


「こ、これは」


 水晶の近くには一本の剣が置かれていた。俺はこれを知っている。アレックス国王が好んで使っていたものだ。

 この水晶はカルステンが用意したもの、であることを示すための小道具。それは間違いないと思う。


「この水晶を使えば、カルステンところに飛ぶ、ってことか?」

「なにこれ? お宝か何か?」

「新しい魔具だ。テレポートできるらしい」


 でもそれは、カルステンの思惑に乗ってしまうことになる。果たしてそれでいいのだろうか?

 この先には、魔王イルマがいるんじゃないのか?

 

「…………」


 俺は考える。

 リーザの体調はあまりよくない。

 もし、このままいたずらに時間を消費していたとしたら、クラーラへたどり着く前に死んでいたかもしれない。呪いの魔具は未知数で、彼女にとってあまりに危険すぎる。

 なら、このループという状況は俺にとって有利に働くと思う。試行錯誤をする余裕ができたのだから。


 俺はリーザに向き直った。


「あいつの思惑に乗る必要はないと思う。ここは無視して、いったん迷宮を探索しよう」

「えー」


 ループ下で時間の優劣は関係ない。俺に少し考えがある。


「ねえ、ちょっとだけ、ちょっとだけ使ってみましょうよ」

「駄目だ、今回は見送る」

「ヨウは遊び心が足りないわね」

 

 すまない、リーザ。

 俺は知っている。これからお前が何回か血を吐いて、休憩しなきゃいけないぐらい苦しんでしまうことを。

 でも許して欲しい。

 カルステンの謀略を打ち破るために、俺はまだ時間も準備も足りないんだ。


長く時間がかかってしまいましたが、この間この小説をすべて推敲しました。

あるある誤字脱字。

そしてさすがに50万字ともなると時間がかかりますね。

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