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リーザ女王との再会


 迷宮の地下深くでリーザ女王を発見した俺。


 なんてひどい有様だ。

 彼女はローザリンデと同じように、大量の呪い魔具を装備させられていた。

 いつも身に着けていた王冠型アクセサリーはどこにもなく、来ている制服っぽい服の中にも外にも大量の呪い魔具が張り付いている。短めのスカートの下に見えていた太ももは、今となっては包帯や装飾系魔具によって完全に隠されていた。


 俺は彼女を抱き起した。


「う……ううぅ」


 うなり声。

 苦しみにもだえていたリーザが、そっとその目を開けた。


「ヨウ、来てくれたんだ、リィ嬉しい」


 どうやらしっかりと意識はあるらしい。


「大丈夫か?」

「なんか、痛いわ。頭もぼーっとして、ちょっと気持ち悪いかも」


 そっと、手を握る俺。

 柔らかく、そして冷たい手。


「ヨウの手、暖かいわね。子犬みたい」

「すぐに外すから少し待っててくれ」


 俺はすぐに解呪作業へと移った。

 魔具、〈隠れ倉庫〉から次々解呪魔具を取り出していく。こいつで一つ一つ、呪いの魔具を外していく。

 見た感じ有害そうなものから優先。大量の魔具があるため、すべてを精査していく時間はないが。

 

 作業をずっと続けていたが、懸念していた事態に直面してしまった。

 いけない。

 解呪魔具が底をつきた。

 もとより使い捨ての解呪魔具。ローザリンデにも使用していたから、足りなくなってしまったのだ。リーザにはまだ数多くの呪い魔具が張り付いている状態だ。

 クラーラのいるところまで連れて行くしかないな。


「すまない、これ以上は外で作業しないと難しい。立てるか?」

「うん」


 ブラウスのボタンを留めたリーザは立ち上がった。未だ体を覆うほどの呪い魔具が存在するものの、その重量は激減したからだ。

 腕輪、首輪系はかなり除去できたからな。


「待たせたわね、さあ、超特急で帰るわよっ!」


 自慢の金髪を揺らし、力強く宣言するリーザ。

 元気そうには見えるが、たぶんそういう風に振る舞っているだけだと思う。

 二人で一緒に部屋を出た。


 

 俺たちは迷宮を進んだ。

 ここは地下、何階なのだろうか? 似たような部屋や通路がずっと続いている迷宮だ。来るときもひたすら階段を下りていっただけだから、階というものをまったく意識していなかった。

 相変わらず、単調な迷宮。

 しかしそれでも、一人で歩いていた頃よりもずっと気が楽だ。隣に、美少女の話し相手がいるから。


「あれから、俺はクラーラを助けたぞ。あの子が解呪のスキル持ってるから、ここを出たらその魔具を取り除いてもらう」

「信じらんないわね、魔族……それも魔王を助けにいくなんて。リィは一生懸命止めたのに……。あー、あの時のこと思い出すと超腹が立つ。ヨウはリィなんかよりもあの魔王の事が大事なのね」

「ま、まあ、こうしてリーザの事も助けにきたわけだからな? 俺が他人に冷たい奴だったら、きっとここにも来なかったと思うぞ?」

「何それっ! やっぱりあの魔王の方が大事だって言うのっ!」

 

 プンプン、と駄々をこねる子供のように頬を膨らませたリーザが、俺の鎧をポカポカと叩き始めた。痛い。なんかちょっと力入ってる。


 迷宮の扉を開け、次の部屋に入った。

 やっぱり何もない。

 来るとき何もなかったんだから、当然と言えば当然。これからあと何度こんなことを繰り返せばいいのだろうか。


 部屋を抜け、何もない通路を再び歩き始める。


「そう思われても仕方ないよな。あの子が俺にとって大切な人だったってことは否定しない。でも、だからってリーザや他の人たちを無視するわけがないだろ? 俺はこうして助けに来た。俺たち、短い間だけど一緒に過ごした仲じゃないか」

「それで、リィの制止を無視していなくなったこと、反省してる?」

「まあ、申し訳なくは思ってるな」

「償って」

「うん?」

「償ってって言ってるの」


 じーっと俺の瞳を見つめるリーザ。どうやら変な風にはぐらかすことは許してくれないらしい。


「いろんな人の声を無視してグルガンド王国に行った件は、確かに俺の落ち度だ。リーザがそれで満足なら、何か言ってみてくれ。俺に出来ることなら……」

「じゃ、じゃあね、もし二人でこの迷宮を出られた……、リィの、足をペロペロって舐めてっ!」

「フラグ立てるな、と言おうかと思ってたがその『ペロペロ』とかいう変な単語を何とかしてくれ頼む。前から言おうと思っていたが君の頭はおかしい」

「…………」


 リーザは突然俺にすり寄ってきた。


「リィがこんな事言うのはご主人様だけなのぉ。二人は超相思相愛で、体に汚いところなんてないの。だからこれは、二人の愛を確かめ合うための、儀式」

「いや、俺が来る前どっかの国の貴族とか大商人とかペット扱いしてただろ? 何今更純愛ぶってるの?」

「え、あ、あれは……その、偉い人に脅されて……」

「君より偉い人いた?」

「…………」

「…………」


 にっこりと笑うリーザ。

 俺もにっこり笑った。


「ああああああああああ、もう、ムラムラするムラムラする! もう、リィは我慢できないの! ヨウが子犬みたいに舌を突き出して『はぁっはぁっ』言いながらすり寄ってくるところが見たいの! 超見たいの! だか――」

「……リーザ?」


 突然、言葉を切ったリーザに俺は不安を覚えた。隣を見ると、地面に座り込んでいる彼女が目に映った。

 口を手で押さえている。


「うっ……、ゴホッ」


 嫌な音がした。

 咳ではない。その音に紛れて、液体の飛散する音が聞こえた。

 血だ。

 まるで結核か肺炎の患者みたいな吐血。戦いに縁のない彼女が血を吐く姿は、俺の背筋を凍らせるのに十分だった。

 

「お、おい、リーザ、大丈夫か? 血が……」

「だ、大丈夫、大丈夫だから。ヨウの事妄想してたら興奮し過ぎて」


 変な笑いを浮かべながら、大げさに立ち上がるリーザ。顔は少し青いままだ。

 

 呪い魔具の影響か。

 一度目のローザリンデが見せしめだとしたら、二度目のリーザは本番。彼女の死こそ、俺にとっての最大の脅しとなり得る。 

 おそらく、見えない位置に体を蝕む呪いの魔具が存在する。

 やはりこの状態は良くないな。できる限り早くクラーラと合流する必要がある。


「リーザ、少し急ぐぞ。体がきつくなったら言ってくれ。背負ってでも連れて行くから」

「お姫様抱っこいいわ」

「それ戦えないから、普通に背負う感じで」

「えー」


 元気を装えるだけの力は残っているらしい。

 俺はとりあえず安心することにした。

 

 次の部屋に入った。

 特に何も考えていなかった。新しい部屋はいつも何もなく代り映えのない空室だったからだ。

 だが、今回は少しばかり事情が違うらしい。


「こ……これは……」


 これまで、トラップ以外何もなかったはずの場所。

 しかしそこには、侵入者である俺たちを待ち受ける新たな敵が存在していた。


「ググ、グググ」

「お、お前は……知略王ヨハネスっ!」


 かつて叡智王カルステンと戦い、死んだはずの魔王。奴が肉体転移をする500年以上前の話だ。

 彼だけではない。


 奇岩王マリク。

 空鳥王ヘンドリック。

 隠影王クラディウス。


 ヨハネスと同様に、かつてカルステンに倒された魔王たちが、広い部屋の中に集まっていた。


「ゾンビ、か?」


 この意識レベルの低さ。鼻を刺すような臭い。おそらくはゾンビだろう。肉体は残っているはずがないから、どこかでそれっぽい体を作って憑依させたな?

 カルステンが〈死者の書〉を使って生き返らせたのか? それはまた、大昔だって言うのにえらく趣向に富んだことで。


「グガアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 悲鳴のような声を上げながら、かつて魔王だった敵たちが一斉に押し寄せてきた。


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