呪い
体には呪い、周囲には魔王イルマ率いる魔族たち。内と外、両方から追い詰められてしまった俺。
現状打破の方策を探るため、まず、呪いについて調べることにした。
今も俺の首に装着されている〈隷属の首輪〉は、イルマへの絶対服従を誓わせるための魔具。彼女の命令に逆らおうとすると俺の首を締めあげる呪いのアイテム。
当然、自分で簡単に外せるものなら外している。だが『呪い』と言われるこの首輪がそんな生易しいものであるはずもなく……結局つけっぱなしなのだ。
俺は領主の館にある書斎へとやってきていた。
先代ムーア公爵はそれなりに知識人だったらしい。大量の蔵書がこの書斎へとおさめられていた。
ほこり臭い本棚に囲まれた部屋で、俺は目的の書物を探した。
「あった」
魔具概論、とタイトルの振られたこの本こそ、俺が目的としていたものだ。
俺は本を開いた。
魔具。
魔具とは、特殊な力を宿したアイテムのことである。遥か古の時代、創世神オルフェウスがこの地に残したロストテクノロジーとされている。
魔具はエンチャントスキル付きの武具とは違い、レベルが存在しない。示された効果が発動するのみであり、同じもので効果の強さが異なることはない。
現存する魔具の多くは魔王が所有しており、人間が持っているものはごく少数である。中でも叡智王カルステンは非常に多くの魔具を保持しており、それゆえに他の魔王たちとは異質の独特な力を持っているとされる。
ここまでは俺でも知っている。今回のお題、呪いの項目について見てみよう。
呪いの魔具。
魔具には、呪いの魔具と呼ばれるものが存在する。通常の魔具は所有者が使用者であり、有意義な効果を示す。しかし呪いの魔具は、所有者と使用者が異なり、使用者に対して害をなすものである。
その効果は千差万別である。人を呪い殺すもの、病で苦しめるもの、幻覚を見させるもの……などなど。
解呪については、以下の方法が知られている。
①所有者の指示。
②解呪魔具、またはスキルの使用。
③より高レベルな呪いの魔具による上書き。
なお、魔具はスキルなどとは違いレベルに相当する数値が付けられているわけではないため、その優劣を人間が判断することは不可能である。
……と、いうことらしい。俺はこの三つのどれかを使って、この首輪を取らなければいけないわけだ。
①は無理だ。イルマは俺を解放する気はない。というかそんな簡単にこの首輪外してくれるんだったら、俺もこんな風に真剣に調べたりしてない。
となると、②か……まあ強いて言うなら③もか。解呪スキルや魔具を捜索するのが基本。呪い死ぬ、とか以外の呪い系魔具だったら上書き効果について調べてみてもいいかもしれない。
何も解決はしてないが、目指すべき方向が決まっただけでも良しとしよう。
だが、問題はこれだけではない。
もし万事うまく行き首輪を外すことができたとしても、その先には魔王イルマとの戦いが待ち構えている。俺どころかアレックス将軍でも歯が立たないような強敵に、一体どう立ち向かえばいいんだろうか。
前回は、俺の〈モテない〉レベル956によって勝つことができた。しかし今、あのスキルは彼女に効いていない。
魔王イルマはおそらく何らかの魔具を保持している。俺のスキルに抵抗を持つような、そんな能力でなければ今の状況は説明できない。
厄介な奴だな、魔王って。この世界の魔王は、領地に拘ったりして……なんだが人間の国王とかそんな感じみたいだな。
考えること中断した俺は、いったん『魔具概論』を収め、新たな本を手に取った。
魔王概論、と書かれた本である。
魔王。
それは力。
それは恐怖。
この世の支配者。人間を圧倒する恐るべき存在。
魔王の記録は古くから存在する。人類の古代文明が成立したとき、すでに魔王の存在は知られていた。
長い歴史の中で、多くの人間が魔王やその傘下の魔族によって殺されていった。しかしその逆――人間が魔王を殺す話は、伝説である勇者イルデブランドの例を除いてまったくない。魔王が最強と呼ばれる所以だろう。
魔王たちは協力しない。まるで一国の主のであるかのように振る舞い、時には他の魔王たちと戦うことすらある。我々が知る『魔王領』と呼ばれる彼の領地も、こうして本の文字を目で追っている間に刻々と変化しているのだ。
魔王は常に七人、虹にちなんだ色の一つが当てられる。また、欠員が出ると新たにその色を持つ魔王が生まれる。これはこの世界の根幹を成す節理であり、世界を構成する虹色の竪琴に起因するシステムなのだ。
現存する魔王をここに記す。
赤の力王イルマ。
橙の叡智王カルステン。
黄の閃光王パウル。
緑の森林王クラーラ。
水の不死王バルトメウス。
青の破壊王エグムント。
紫の謀略王クレーメンス。
そういえば、叡智王カルステンって、あの勇者イルデブランドに殺されたんじゃないのか? イルマとカルステン以外の魔王は、あの絵本に乗っていた奴と違う名前だというのに……。
変だな。
まあとにかく、重要なのはそこじゃない。
魔王たちは敵対しているんだ。
たとえば、他の魔王たちがイルマを倒してくれないだろうか? もしくは、俺の方から共闘を願いでることは……。
いや、無理だな。魔王にとって魔王が敵であるように、人間も敵なんだ。というか、俺たちは敵じゃなくて虫けらみたいな扱いなのかもしれない。イルマを見ていたら……なんとなくそんな気がしてきた。
…………。
結局、魔王がすごいってことだけはよくわかった。
知れば知るほど、今の状況が絶望的なような気がしてきた。
やっぱり毎日更新は限界でした。
これから、更新スピードは1.5日ぐらいを目安にがんばります。