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リーザの切り札


「エクスプレッションっ!」


 グルガンド王国、第一軍。規則正しく精霊剣を構えたその大軍は、俺たちに向けてスキルを放とうとしている。


「「「スキル、〈雷鳴の覇王〉っ!」」」

 

 すさまじい音と衝撃が響き渡った。

 雷のスキルが集結し、さながら大蛇のような形を作り出す。その光線が俺の軍を貫こうとしたのだ。

 だが、届かない。距離が開きすぎている上、雪や木の障害物が散在したせいだろう。

 今回は直接的な被害が少なかった。だが次は確実にもっと近づいてくる。

 そうなっては、今度こそ逃れられない。


「第二波、行けっ!」


 アレックス国王の号令が森林に木霊する。

 もはや一刻の猶予もない。二軍、三軍と混戦状態にある俺たちの軍が精霊剣の集団攻撃をくらえば、甚大な被害は免れられない。俺自身は大丈夫かもしれないが、兵士が何人も死んでしまう。

 仕方ない、ここは俺が囮になって、少しでも攻撃を減らす努力を……。


 ……と、思っていたのだが。

 ごうん、と大地が悲鳴を上げた。


「うああああああああああああっ!」

 

 悲鳴が、グルガンド王国第一軍側から聞こえる。声だけではない。まるで爆弾でも爆発したかのような風圧と煙が発生している。

 あの光は、見覚えがあるぞ。確か前の世界で、バルトメウス会長が使っていた……。


 精霊砲?


 俺は砲弾が放たれた方角、すなわち南西の方角を確認した。

 崖の上から砲身が見える。


 大砲だ。 

 いくつもの大砲は、四大精霊に対応した色を保つ砲撃を行った。

 その威力は絶大。精霊剣とは違う、対大集団用の火器である。数を揃えなくてもそれなりの威力を発揮するし、攻撃専門の精霊剣では防御することができない。


 俺たちとは離れているグルガンド王国第一軍だ。味方への誤射なんてありえないから、砲撃をもろに食らってしまっている。


「待たせたわねっ!」


 精霊砲を背後に、俺たちを見下ろすのはリーザ女王。新兵器のデビューをこれでもかというほどにアピールしている。


 そういえば、この前シャリーさんと精霊砲の話をしてたな、あの子。作り方を聞いたのか、会話からヒントを得て発明したのかは知らないが。


 何が『待たせたわね』、だ。さっきからずっと西側に張り付いていたくせに。

 ったく、精霊砲を隠してたんだな。

 きっと戦後の事とか考えてたんだろうな。ここで出していいのか? 後の国家間戦争で使った方が、領地を広げられるんじゃないか? あるいは技術を高く売りつけて……などなど。

 俺たちこんなに必死になって頑張ってたのに、リーザ女王汚いっ!


 まあ、俺もクレーメンスの人造魔王隠してたわけだから、あまり強いことは言えない。持ってる魔具だって皆に手渡せば戦争を圧勝できたはずだ。つまり、俺と彼女は似た者同士だったということか。

 皆が全力一生懸命、なんて絵空事だ。俺たちは一枚岩じゃない。でも、ここで負けたら困る人々の集まりではある。

 ある程度の協力はした。

 皆で頑張った。

 今はただ、それだけで十分だ。それ以上を求めてはいけないし、強要するべきではない。

 この戦争も、趨勢は決したな。


 俺は駆け出した。


「アレックス国王っ!」


 目指すは、敵大将。


「ひ、ひぃ……」


 らしくない声を上げながら、国王は全力で逃げようとした。だが、兵士たちでごった返すこの地において、中央で守られた彼が逃げ出すことは不可能だ。


「陛下を守れっ!」

「ここは通さんっ!」


 兵士たちが壁のように立ちはだかる。俺の侵入を食い止めようとしているのだ。


 だが、ただの兵士たちに止められる俺ではない。グルガンド王国の時は囲まれて精霊剣を使われたが、今回は交戦状態。スキルを一斉に放たれることは……ない。

 

 魔具、〈跳躍の靴〉によって空を舞う俺。その姿を捉えた兵士は、誰もいなかった。

 くるり、と一回転して剣を振り下ろす。その先には、アレックス国王。


「覚悟っ!」


 俺はアレックス国王を一刀両断した。


 すると、アレックス国王であったはずの彼の姿が……唐突に変化した。


 魔具、〈幻惑の鱗粉〉。近づいて分かったことだが、これを使ってこいつはアレックス国王に化けていたのだ。


 化けていたのは、どこの誰かも分からない……魔族。肌の色やその容姿から察するに、カエルの眷属らしい。


 これは、ある程度予想していた。

 本物のカルステンが、戦場にのこのこやってくるわけがない。奴はアレックス国王の体を奪ってはいるが、国王として兵士たちとともに命を捨てる覚悟なんてないはずだ。奴には奴の目的がある。この一連の戦争は、奴の手段であって目的ではないのだ。


「こ……これは、偽物?」

「本物の国王はどこに?」


 ざわざわと、周囲にいた兵士たちが騒ぎ始めた。もはや戦意を完全に喪失し、武器を俺に向けてくることはなかった。

 戸惑っているのだ。国王の正体に。


「まだ分からないのかっ!」


 兵士たちの困惑に支配されたこの地に、俺の声が響き渡った。


「本物の国王はここにいないっ! あんたたちは騙されていたんだっ!」


 しん、と静まり返る兵士たち。

 否定できるはずがない。

 目の前に、証拠を突きつけられているのだから。


「なんという……ことだ」

「陛下はいずこへ?」

「我々はこんなところで戦っていていいのか? 行方不明の陛下を探さなくてはならないのではないか?」

 

 混乱は広がるばかりだ。とてもでないが戦いを続けるような雰囲気ではない。

 あれこれととりとめのない相談をしていた兵士たちの集団から、一人の男が現れた。かなりいい鎧を身に着けているから、上官か何かだろう。

 

「王国第一軍、将軍バーナードだ。こちらには停戦の用意がある。交渉の場を設けてはいただけないだろうか?」


 知らない顔だが、周囲の兵士たちの反応を見る限り本物だろう。 


「分かった。その件は同盟軍盟主のリーザ女王に伝えておく。将軍は一旦兵を後方に下げてくれるか?」

「了解した。怪我人を回収したいのだが、こちらの陣地を捜索しても良いだろうか?」

「問題ない。幾人かはこちらが捕虜として預かっておくが、丁重に扱うことを約束しよう」

「……ご厚意、感謝いたします」


 リーザ女王、並びに反王国同盟は停戦を受け入れた。

 グルガンド側も反抗しなかった。戦いで負けた上に、旗振り役の国王がいなかったのだ。戦意を喪失してしまっても仕方がない。

 そしてそれは、長きにわたって続いていたグルガンド王国の侵攻が停止したことを意味する。


 こうして、世界大戦は終結した。


気が付けば一周年。

終わりは見えているので、このまま走っていきたい。

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