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世界情勢(後編)

 ――タターク山脈北方にて。


 やや雪の積もる山の上を、ひたすら西へと進んでいる三体の魔族がいる。


 老執事風の男はマティアス。

 青い髪の軽薄な男は魔王エグムント。

 赤い髪の少女は魔王イルマ。

 

 2魔王とその従者一人は、山脈を西へと歩いている。

 事の起こりは、魔王カルステンからの手紙であった。


 件の強者、鎧の男はリービッヒ王国の国王ヨウである。


 という情報をが書かれていた。

 カルステンは仲の良い味方、というわけではない。したがって、彼の言葉のすべてを信用するつもりはない。

 しかしそれ以上の情報を得ることができなかったのも事実。ならばこれを当てにして動いてみるのもよいのではないか?

 暇をしていたエグムントやイルマは真っ先に自らが赴くと主張した。主の意向を否定しきれなかったマティアスは、良いことだとは思わなかったものの彼女たちについていくことにした。


 留守は優秀なイルマ軍の精鋭たちに任せ、3魔族はリービッヒ王国へと向かっている途中だった。


「魔族、覚悟っ!」


 突如、兵士と思われる人間の一人が剣を振るった。おそらくは炎系統のスキルによる遠隔攻撃。


「ふんっ!」


 エグムントは拳を振った。そのすさまじい勢いは炎スキルを引き裂き、衝撃波となって兵士に襲い掛かる。


「ぐああああああああああああああっ!」


 兵士は風圧で吹き飛ばされ、遠くの巨岩へとぶつかった。血を流し倒れている。死んでいるかいないかは遠目では分からないものの、もはや反抗するだけの力は残っていないだろう。


「またかよ」


 エグムントはため息をついた。兵士らしき人間が襲い掛かってきたのは一度ではない。これまで何度も、散発的にではあるが遭遇しているのだ。


「それにしてもこいつはどーいうことだ? 俺が領地空けてる間に、人間どもは頭おかしくなっちまったのか?」

「ふん、何も知らないんだな?」

 

 イルマは鼻で笑った。


「あの男が装備していたのは精霊剣と呼ばれる武器だ。かつてアースバイン帝国で使用されていたはずだ。遺跡で手に入れたか、自分たちで再開発したか。大方、強い武器を持って魔族と戦えると過信し、討伐軍でも作ったのだろう。人間は魔族討伐が大好きだからな。まあ、弱小魔族ならどうにかなるかもしれないが、私たちレベルではどうしようもない」

「はっ、つえー武器もっていい気になってるようじゃまだまだだな。体から鍛えなきゃいみねーぜ」


 エグムントは倒れこんでいる兵士を見ながら考えた。自らの領地が攻められた時、果たして耐えることができるだろうかと。

 全滅することはまずない。多少スキルが使えたところで、どうしても埋まることのない実力があるからだ。しかし、エグムントと配下の魔族たちには圧倒的なまでに力量差が存在する。どれだけエグムントが強くても、周りはそれについてこれないのだ。

 したがって、王国との戦いはかなり苦戦するのではないか、というのがエグムントの推測だった。


 エグムントが物思いに耽っている間、またしても人間が襲ってきた。


「ふんっ」


 今度の敵はマティアスが追い払った。風スキルを纏った拳による、無駄のない一撃。


「その程度か?」


 が、エグムントはマティアスに話しかける。


「俺はあの枯れ木の近くから吹き飛ばしたぜ? なのにお前はこっち側の切り株の近くで反撃した。飛距離に自信がなかったか?」

「私は魔王様の剣です。魔王様に危害が加わる距離に達すれば攻撃はしますが、いたずらに人間をなぶるような趣味はありません」

「言い訳か?」


 ぴくり、とマティアスの眉が不機嫌に揺らいだ。


「力がたりねぇから、敵がこっちに近づくのを待ってんだろ? 言い訳すんなよマティアスちゃん。俺より弱ぇんだから、無理しなくてもいいんだぜ? な?」


 エグムントは気さくにマティアスの肩を叩く。それはこの場においては挑発以外の何物でもなかった。

 

「……いいでしょう?」


 まるで計ったかのように、次なる兵士が森の奥から姿を現した。


「ぬおおおっ!」


 マティアスはその兵士を吹き飛ばす。ちょっと息が荒くなった。


「……い、いかがですか」

「へぇ、やるじゃん。魔王でもねーやつがここまで頑張れるとはな。感心したぜ」


 しかし、エグムントはどこまでも上から目線。

 マティアスは魔王ではない。しかし、至高の主たるイルマ以外の魔族に舐められるのはあまり愉快なことではなかった。


「んじゃ俺は次あの森の近くのを吹き飛ばしてやるからな」

「……んなっ!」

 

 有言実行。エグムントはマティアスよりもさらに遠く離れた兵士を吹き飛ばした。


「ふんんんんのおおおおおおおおっ!」


 マティアスは森の隣にある平原のさらに向こうの豆粒のように見える兵士を吹き飛ばした。

 これはさすがにきつかった。ひょっとすると遠くの兵士も突風に煽られて転んだだけかもしれない。遠くすぎて良くわからなかった。


「……い、い、いかが、でしょうか?」

「はっ、強ぇな。俺の次だがな。じゃあ俺は二つ先の山の頂上にいる兵士の一人を」

「お前ら、もう止めたらどうだ?」


 イルマはため息をついた。


 マティアスとエグムントは、本気なのだか遊びなのだか分からない張り合いをしながら西へと進んでいった。イルマもその様子を眺めながらそのあとへと続く。

 時々襲い掛かってくる兵士など、強者である彼らにとってはどうでもよい話であった。


 

 魔王イルマ領にはグルガンド王国軍第一軍が侵攻した。

 広大なムーア領を戦場としたその戦いは、両者一進一退の様相を呈した。第一軍はムーア領の一部を奪取したものの、軍はその地に釘付けとなってしまった。


 魔王エグムント領にはグルガンド王国軍第二軍が侵攻した。

 高レベル魔族の存在するタターク山脈中央部は、よく守備された。しかし南方の低レベル魔族が支配する領域は易々と突破されてしまう。

 王国第二軍はそのままシェルト大森林へと突入した。



 ――シェルト大森林にて。


「こ……これは……」


 森の奥の広いスペースで、クラーラは一人呟いた。

 その手には、一枚の手紙が握られている。



 緑の森林王、クラーラ様へ。


 あなた様の平和への行いは、私の耳にも届いています。

 グルガンド王国は魔族を打つために軍を起こしました。

 しかしそれは、世界を蹂躙し人々を殺める邪悪な魔族に対してなのです。私たちは常に弱き民が平和に暮らせる社会を望んでいました。野蛮な魔王イルマ、エグムント傘下の魔族とは、刃を交えざるをえないのです。


 しかしあなた様は話の通じる魔族です。我々はあなたのような指導者を心待ちにしておりました。

 虐げられる者のない世界の実現へ向けて、新たに和平条約を締結したく、ここに手紙をしたためました。ぜひグルガンド王国へいらしてください。

 あなたと私で、人類と魔族の新しい関係を築き上げましょう。

                          グルガンド王国国王、アレックス


 クラーラは感動に心を震わせた。


「嬉しい、分かってくれる人がいたんだ」


 瞳からは涙が溢れていた。今日、この時のために自分はずっと活動していたのかもしれない。

 あのヨウとかいう野蛮人とは違う。言葉から感じる紳士的かつ友好的な雰囲気は間違いない。


 空の上で、手紙を抱きしめる彼女の緑髪を眺める者たちがいる。

 クラーラと仲の良い精霊たちだ。 


〝ねー、どう思う?〟

〝人間って、嘘つきよね?〟

〝でも、大丈夫じゃないかしら?〟


 精霊たちはこの文章に懐疑的だった。彼女たちは仲間から人間の様子をよく聞いているため、良いところも悪いところもよく知っている。理想的なタイミングでご都合主義な手紙が来たことに、陰謀の臭いを感じ取っていた。

 だが、疑うだけだ。

 たとえ騙されていたとしても、魔王であるクラーラが人間に負けるはずなどないのだ。止める必要などない。


 クラーラは顔を上げて精霊たちを見上げた。


「私、グルガンド王国に行ってくるね」

〝気を付けなさいよ?〟

〝ふふっ、襲われたらちゃんと反撃するのよ?〟

〝反撃ー、反撃ー〟


 精霊たちの言葉を、冗談半分と受け取ったクラーラはそのまま大森林を駆けて行った。



 こうして、クラーラは一人でグルガンド王国へと向かった。

 主のいないシェルト大森林は、グルガンド王国第二軍によって容易に占領されてしまった。

 クラーラ傘下の魔物たちは、思いのほか抵抗しなかった。


皆さん、腸内クラーラはご存知ですか?


クラーラは腸内に存在する細菌たちのことで、頭の中がお花畑です。

シェルト大森林に恵みによって、あなたの腸の環境を整え、様々な病気を予防します。


この小説にはクラーラが多く含まれています。

腸内クラーラはこの小説をブクマ、評価することで数ポイント増えます(単位はp)。

これらがクラーラのモチベーションに繋がるからです。


作者は皆さんの健康を心よりお祈りいたしております。

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