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グルガンドからの招待状


 


 俺はリービッヒ王国へと戻った。

 帰国して町や村を見渡したが、特に大きな変化があるようには見えなかった。どうやら留守中も大臣たちがうまく働いてくれたらしい。


 俺は適当に挨拶を済ませて、玉座の間へと戻った。

 そこには、意外な人物が待っていた。

 

「リーザ女王?」


 ぼんやりと頭上の王冠型アクセサリーを弄りながら、俺が座るはずの玉座に腰かけている少女。

 西方大国、リーザ女王。

 俺の様子に気が付いたらしい彼女は、弾かれたように立ち上がった。ツインテールを揺らしながらこちらに駆け寄ってくる。


「待ってた」

 

 突然、腕を抱きしめられる。


「もうもうもう、超遅刻! どこ行ってたのご主人様! リィは寂しいと死んじゃうんだからね!」

「あれ、えっと。その、変な話だけど、俺はいなかった……のか?」


 おかしい。

 俺はこの王国から立ち去るとき、魔具、〈鏡の人形〉を用意していたはずだ。こいつは俺の姿をした身代わり人形で、代役として立派に国王の役目を果たしてくれる……はずだったのだが。


「あんな偽物でリィを騙せると思ってるの? 愛の力は偉大なんだから! 見なさい!」


 リーザが指さした場所は、ちょうど玉座から少し離れた柱の隅。

 犬小屋のような場所でハウスしているのは、俺が身代わりとして用意した〈鏡の人形〉だった

 ひえぇ。リーザさんに調教されちゃってるよこいつ。


 どうやら偽物だと見破られてしまったらしい。彼女流に言うなら、愛の力で。

 その割には西方大国で一緒にいたのが〈鏡の人形〉だって気が付いていないみたいだが……。

 人間、自分に都合のいいことは分からないものだからな。


「あ、会いに来てくれたのか? ありがとう」

「言ったわよね? 今までリィがご主人様にやってきたこと、全部返すって」


 あ、その話まだ続いてたんですね。


「リィは恥ずかしいですけど、ご主人様のためならどんなことでもするんだワン」


 何を思ったのかリーザさん、スカートに手を入れてパンツを下ろそうとしている。白だ。いや白とかそういうのはどうでもいい。 

 

「今から、皆の前でトイレを済ませます。あの時ご主人様がやったみたいに……」


 俺はすぐさまはっとして彼女の手を掴んだ。別に下着に気を取られていたわけではない。


「止めろ、そして落ち着け」


 足に引っかかったパンツを下ろそうとするリーザと、それを止める俺の攻防が続く。

 ぐぬぬぬ……。

 

「いや、止めてくれ。大臣たちもシャリーさんも見てるんだから」

「二人きりの時だけ?」

「いや、二人きりの時もやらないでくれ。俺たち二人だけの時はやってるみたいな感じに言わないで欲しい真剣に」

 

 この際大臣たちはいい。すでに事情は話しているから。


 問題はシャリーさんだ。

 俺は彼女にリーザとの関係を話していない。何も知らない彼女がこの光景を見たら、一体どう思うのだろうか?


 俺の視線に気が付いたらしいシャリーさんが、わざとらしく目をそらして口を開いた。


「……私、自分と同じ姿をしたホムンクルスっていう生物を持ってるんです」

「……? 何の話ですか?」

「それを自由に使っていいですから、私には手を出さないでください」

「え……」


 どうやら俺の視線が変な意味で誤解されてしまったようだ。

 シャリーさんの笑顔が冷たい。


「困るんです。そういうつもりでここに来たのではありませんので。ホムンクルスはあなた好みに設定するので、もう好きにしてください。私は研究室で作業をするので、話しかけないでください」


 何この子、カルステンみたいなこと言ってるよ。ちょっと発言がブラックなあたりに大反乱の予兆を感じるのは気のせいだろうか? っていうかなんか嫌われちゃってるよな?


「なに、この子?」


 と、ここでリーザはシャリーさんのことに気が付いたらしい、値踏みするように彼女のつま先から杖の先までじろじろと眺めている。

 そして、リーザは鼻で笑った。


「はっ、何その格好。田舎の貴族か何かかしら? でも超残念。ヨウはリィだけのご主人様なの。色目使わないでくれるかしら? あんたの居場所なんてないわ」  

 

 この世界には魔法使いは存在しない。したがって杖を振り回すシャリーさんの姿はちょっと奇異に映るかもしれない。もう錬金術師は存在しない職業だからな。

 服だって100年前、しかも遠い他国のものだ。田舎、と判断する気持ちは分からなくもない


「ヨウにはリィだけいればいいの。ほら、お金でも何でもあげるからさっさと田舎に帰りなさい。目障りよ」


 そう言って、リーザは床に何かを投げつけた。

 それ相応の量の金貨。宝石。それからあの球体は、護身用の爆弾だったはずだ。


 シャリーさんは金貨には目もくれず、爆弾を手で拾った。


「これは、火薬ですか?」

「へぇ、中々詳しいじゃない。そうよ、護身用の爆弾よ」

「銃や大砲のようなものはありますか?」

「……話はあったけど、もう開発してないわ。スキルの方が手軽で強力だから」

「それはもったいないですね。大砲に精霊の力を付加した『精霊砲』という技術がありまして――」

「え、何それ?」

「それはですね……」


 シャリーさんがまるで教師か何かのように説明を始めた。リーザは生徒のようにその話に聞き入っている。

 時々聞こえてくる言葉を拾う限り、精霊砲の原理について説明しているらしい。


 そういえば、西方大国は技術大国だったな。シャリーさんと話が合うのかもしれない。


「陛下」


 それまでずっと控えていた大臣が語り掛けてきた。

 どうやら今までずっと話しかけるタイミングを伺ってたらしいな。すまなかった。


「グルガンド王国からの書状がこちらに」

 

 またグルガンド王国からか。

 渡された書状の中身を見ることにした。


 ――リービッヒ王国国王、ヨウ殿へ。

  

 突然の連絡、失礼する。

 この度、世界各地の領土、関税を協議し、魔族の情報を共有するために世界会議を開催する。人類圏のあらゆる国家、あるいは集団の指導者が一堂に会し、親睦を深めることも目的としている。

 来る世界会議においては、西方の新興国として名高いリービッヒ王国の賢君、ヨウ殿のお姿を拝見したい。

 タターク山脈を挟み正反対という距離であり、多大な迷惑をかけることになったことは申し訳なく思う。必要とあらば来訪にかかる費用を負担してもよいと考えているので、どうかご参加を。

                           グルガンド王国国王 アレックス。


 世界会議、か。

 俺は世界情勢を思い出した。


 グルガンド東方に位置するムーア領は未だイルマの領地。

 グルガンド西方に位置するタターク山脈はエグムントの領地。

 タターク山脈西方、アストレア諸国南方、西方大国東方に位置するシェルト大森林はクラーラの領地。

 しかし、グルガンド王国南方の旧クレーメンス領は王国に切り取られた。今やグルガンド王国は西方大国に並ぶ一大国家であり、その発言を無視することは難しい。

 カラン大砂漠を挟んで、魔王バルトメウス領とグルガンド王国は接している。しかしバルトメウス会長と交渉を重ねた結果、人の往来が可能となったらしい。


 グルガンド→バルトメウス領→ロンバルディア神聖国→西方大国の順路で大陸を一周することができる。少々遠回りになってしまうが、一応世界各地の国家が結びつきを持てるようになった状況だ。


 やれやれ。

 俺、さっき戻ってきたばっかりなんだがな。魔王会議の時、グルガンド王国を横切ったぞ?  また戻るのか?


 まあでも、グルガンド王国を無視はできないな。


「そう、それよそれ! 一緒に行こうって、誘いに来たのよ」


 どうやらリーザの目的は世界会議にあったらしい。西方大国も同じような招待状をもらっているのだろう。


「シャリーさん、俺はグルガンド王国に行くことになった。研究は継続して欲しいから、留守を任せることになると思う。何か必要なものはあるか?」

「広い部屋と水、いくつかの食料と金属を下さればあとはこちらでどうにかします」


 普通に話ができてる。リーザの行動が原因で誤解が解けたのかな?


「分かった、最大限便宜を図ろう」


 シャリーさんに協力するよう、大臣の一人に命令を下す。


「そうよそうよ。お供はリィに任せて黙ってお留守番してればいいわ」

 

 リーザがそんなことを言った。さっきまで仲良く話をしていたように見えたのだが、やっぱり俺とシャリーさんが一緒にいるのは好ましくないらしい。


「…………」


 シャリーさんの冷たい目が怖い。

 リーザ、怖い者知らずめ。

 この人が本気を出したら、君の王国滅んじゃうよ?


 しかしそんな事情をまったく知らないリーザは、シャリーのことなどまるで忘れたかのように俺に向き直った。


「じゃあじゃあ、そろそろリィたちも行きましょうか」

「用意はしてあるのか? 長旅になると思うんだが」


 リーザが指さしたのは、窓の外。


「じゃーん! ヨウのために馬車を用意しました」

 

 窓の外を見ると、なるほど、確かに中庭あたりに馬車らしきものがとめてある。

 すげぇなあれ。表面がフェニックスの尾で装飾されてるぞ。馬だって整った白い毛でいかにも高級な感じだ。


「この狭い馬車の中で二人っきり。あそこはリィとヨウの愛の巣になるの。絶対に誰にも覗かれないから、どんなことだってできるのよ? また、昔城にいた頃みたいに……はぁ~」


 リーザが恍惚の笑みを浮かべたまま何やら妄想を始めてしまった。唇からはだらしなく涎を垂らしている。

 

 まあ、せっかく用意してもらったんだ。俺だけ早く行っても仕方ないし、ここは好意に甘えて馬車を利用することにしよう。

 愛の巣にはならないけどな。


 こうして、俺たちは二人でグルガンド王国へ向かうことになった。

 まあ、護衛は何人か付いていってるんだがな。 


活動報告にこの作品の今後の予定+次回作の構想を載せました。


※この話におけるリーザの対応に違和感を覚えた方。

途中で内容を変更した話があるのでご了承ください。

具体的には「第155部分身代わりヨウ・第156部分ダレース領領主」です。

(旧)調教してあげる!→(新)ペットになります! という感じです。

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