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会議の前兆


 リービッヒ王国へと戻った俺は、再び政務へと戻った。

 もっとも、国王ほど頂点になってしまうと、自分で事細かいことに口を出す必要はない。臣下たちが持ってきた話を、承諾したり難癖つけたり拒否したり等々。


 そんな中、一つのイベントがあった。


 グルガンド王国、アレックス将軍……もとい国王から親書を受け取ったのだ。


 なんだか、じーんと来た。

 俺、あのアレックス国王と同等になったってことなんだよな。今までずっと、王と臣下みたいな関係だったから、これはとても新鮮だ。


 だが、こちらはアストレア諸国の小国であるのに対し、相手は大国グルガンド。当然ではあるが、相手を持ち上げる文面を忘れてはいない。


 ――日、没するところの王、日出ずるところの王へ致す。

 ――三日月の 丸くなるまで グルガンド。

 ――すべての道はグルガンドに通ず。


 などなど。

 俺の書いた文面を見た文官たちが、こんなことを言っていた。


「ヨウ様は面白い表現をいたしますな。このような言い回し、武道で王位を掴んだとは思えませんぞ」

「まったくですな。才能を感じますな」


 まあそれ、パクリなんですけどね。

 俺のものは俺のもの、元の世界のものは俺のもの。日本食とかだって気が付けば転移主人公の業績になってるじゃん? だったらこれは俺の力。むしろ異世界にまで言葉を残してやってるんだから、感謝して欲しい!


 いや、すいません。

 ちょっと調子に乗りすぎました。


 しかしそろそろネタストックがなくなってきた。次は一体どんな言葉を使えばいいのだろうか? 

 などと考えながらアレックス将軍の親書を読んでいたら、目の前に一人の臣下が現れた。


「陛下、こちらが親書と一緒に付随されていた手紙でございます」


 おっと、何やら美辞麗句で固められた親書とは違う、普通の手紙が用意されているらしい。

 今までこういうことはなかったから驚きだ。なんだろう? 

 俺はゆっくりとその手紙に目を落とした。

  

 さて、このたびはヨウ殿にご報告したいことがある。

 魔族の動向だ。

 近々、魔族たちに不審な動きがあると聞く。少数ではあるが、世界各地の魔族たちがイルマ城へと集まる準備をしているとのこと。

 ご注意を。


 ――と、いうことらしい。

 

 この件に関してはオルガ王国からも報告が入っている。

 隣国、ラーミル王国の閃光王パウルが東方へと移動する準備をしているらしい。戦力が手薄なうちに攻勢に出るとか出ないとかいう話をされたが、その件は慎重論を出して断っておいた。

 とにかく、各地で魔王たちが一斉にイルマ領……すなわちムーア領近くへと移動する。俺はこのイベントに、身に覚えがあった。


 魔王会議だ。

 

 かつてオリビアの脅威を説明するため、イルマ主催によって開かれたあの会議。魔王と主だった従者たちが一斉に集結し、新たな脅威への説明を受ける。

 だが、まだオリビアは出現していないはず。クレーメンスを保有している俺だからこそ、その情報を知っている。


 なら、なぜこのタイミングで会議が開かれるんだ?

 オリビア以外に、魔王の脅威たりえる何かが出現したのか? それとも、何か別の目的でも……?


 分からない。

 だが、魔王の会議が行われるというのなら、少し俺の行動も早める必要があるようだ。

 俺が構想する計画の中に、魔王会議は組み込まれている。今更無視することなんて……できない。



 行動を開始する。

 それはすなわち、俺が再びリービッヒ王国を離れなければいけないことを意味する。

 だが、これほどまでに国王不在が常態化してしまっては、さすがにまずい。魔具を手に入れたからもうこの国どうでもいい、なんて無責任なことをするつもりはないしな。

 だから俺は、これを活用しようと思う。


 魔具、〈鏡の人形〉。


 王国、玉座の間にて。

 俺が用意した〈鏡の人形〉は玉座に座り、それを大臣たちがじっと眺めている。


「おお……さすがはヨウ様」

「不思議な魔具ですな、身代わりをさせることができるなど」


 リーザに預けていた奴は、彼女の倒錯した嗜好と相まって大失敗してしまった。だが臣下たちの協力を得た今であれば、ある程度正しい身代わり機能をはたしてくれるだろう。

 何も複雑な判断を強いているわけではない。玉座に座って適当に相槌を打ってくれればそれで十分なのだ。


「すまないな。俺がこの国の国王なのに、何もかも押し付ける形になってしまって」


 俺の言葉に、大臣たちが苦笑いをした。


「まったくその通り、と言ってしまえばそれまでですな。しかし陛下の功績は、それにも勝るものがございます」

「このような珍しい魔具を用意し、森林王クラーラを退けた陛下の成すことです。我々は全幅の信頼を寄せております」


 一斉に頭を下げる大臣たち。

 どうやら、俺がこれまで成し遂げてきたことが彼らの評価を上げているらしい。それ自体はとてもうれしいことだ。


 留守中の統治はなんら問題なかった。信用できる臣下たちだ。俺がいなくてもうまくやってくれることだろう。

 いや、さすがに長期間いなくなるなんて話になったら、反乱とか宮廷争いとかが激化してよくない影響が出てしまうだろうが、今のところそこまで心配する必要はないだろう。


「申し訳ない。俺の行動はこの国……いやこの世界にとって必要なことだと思っている。必ずこの国には戻ってくるから、しばらくは留守を頼む」

「はっ」


 こうして、俺は再び旅へ出たのだった。


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