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新・虚像の勇者

 

 俺は前回の世界から並行世界であるここにやってきた。

 ここにたどり着いた時期は、灯台のサキュバスを倒していたころに相当する。その後、クレーメンス軍を倒すための武器を用意し、カルステンに追われリービッヒに逃げ、そこから外交のため周辺国を歩き回った。

 多くの時が流れた。俺は数多くの魔具を手に入れ、各国の指導者と良好な関係を築けたと思う。


 そして――今日この時を迎えてしまった。


 忘れもしない、前回の世界における出来事。

 魔族モーガンを倒し、クレーメンスを撃退したその日だ。


 そう、今日がその日なのだ。

 オリビアが覚醒し、カルステンが真の意味で〈グラファイト〉に参加するタイミングだ。

 俺の国王としての日々は、とうとう領主時代のあの日までたどり着いてしまったらしい。


 今日、オリビアが覚醒しクレーメンスと戦う。

 それは『統計』などというものがあることからもわかるように、あらゆる並行世界でほぼ不動のイベントだ。

 今にして思えば、俺たちがクレーメンスと戦った日とオリビアの覚醒した日が一致してるなんて、運命を感じるな。


 魔王クレーメンス。

 紫の名を持ち、もっとも最初に襲われる魔王。

 俺は魔具〈拘束の筒〉によってこの魔王を捕らえている。つまり今、カルステンとオリビアがやってくるのは、グルガンド王国ではなく俺のもとなのだ。


 カルステンに止めを刺すことは難しい。俺が奴を殺せば、奴は俺の肉体を奪うだろう。そうなっては俺の魂は取り込まれ、やがては死んでしまう。

 この〈脱魂の腕輪〉で魂を捕まえることができれば、本当の意味で奴を消滅させることができるだろう。ただ、前回の世界では仮面の男の存在を知らず油断していたカルステンだったが、今回は俺の存在を熟知している。

 生半可な警戒心じゃないだろう。切り札、〈邂逅の時計〉を破壊した異世界人に、油断なんてするはずがない。


 次善策としては、半殺しにして戦闘不能状態に追い込むことだろうか? 弱らせれば〈拘束の筒〉で捕らえることもできる。

 こっちの方が可能性としては高いと思う。奴が劣勢に気付き逃げなければ、の話ではあるが。


 ここはリービッヒ王国南方、とある草原。

 見通しがよく、姿を隠すことは難しい。仮に〈隠者の衣〉みたいな姿を隠す魔具を使ったとしても、俺ならば発見することができる。


 おびき出す餌、クレーメンスは用意した。

 そして、魔具武装も完全だ。

 西方大国で便利な収納系魔具〈隠れ倉庫〉を発見したが、こいつはアイテムを引き出すのにほんの僅かではあるがタイムラグがある。魔具鑑定スキル、〈叡智の魔眼〉を持つ俺とカルステンは、当然ながら互いの〈隠れ倉庫〉を視認できる。

 有力魔具を出そうとすれば、破壊しようと試みるだろう。そんな相手に対して、この収納魔具の効果は薄い。


 だから俺は、用意した。

 身に着けるものは可能な限り身に着け、武器となる数本の剣や槍は地面に突き刺した。周囲には魔具〈絶壁〉と〈王の目〉〈王の耳〉を配置し、敵の侵入を見逃さないようにする。


 要するに臨戦態勢だ。

 万に一つも、敗北などあり得ない。


 ダメージ軽減魔具、〈身代わりの小石〉と〈身代わりの宝石〉は、ロープに括り付け腹に巻いた。

 はっきり言おう、今の俺は100回瞬殺するほどのダメージを与えられても生き抜くことができる。


 来るなら来いっ!


 そう息巻いて、ここに仁王立ちしていた……のだが。


「…………」


 おかしい。

 すでにオリビアが覚醒し2時間は経過している。多少遠くにいたとしても、あの速さであればそろそろこちらに来てもおかしくはないのだが……。


 まさか、オリビアが来ないのか?

 いくつか条件はあるものの、まったくあり得ない展開ではない。


 一つは、オリビアが死んでしまっていること。

 数少ない並行世界の中で、その世界の俺や人造魔王がオリビアを殺してしまったことがある。そうなれば当然、クレーメンスが襲われることなんてない。

 

 二つ目は、カルステンの警戒。

 奴は物語開始時点で、すでにオリビア封印術の存在を認識している。加えて、かつて空鳥王ヘンドリックを使ってループ下で実験を行ってから、何百年も経過している。オリビアが魔王を襲わないように、何らかの仕掛けを行うことは十分に可能だ。

 俺も『グラファイトはイルマで手詰まり』って情報を渡してしまったからな。本命のイルマまで力を温存するつもりなのかもしれない。クレーメンスからパウルまでは、ノータッチでいることすら考えられる。


 あまりよくない兆候だ。

 無駄に時間を浪費している今の状況は、かつて砦でカルステンの肉体を切り伏せた時と似ている。

 あの後、知らず知らずのうちに肉体を奪われ、敗北寸前まで追いやられてしまった。いや、仮面の男がいなければ確実に負けていたと言ってもいいだろ。


 気が付いたら負けていた、なんて情けない話はもう許されない。俺を助けてくれた仮面の男はもういないのだ。

 こちらから、カルステンを積極的に探す必要があるかもしれない。

 運がよければ、グルガンド王国で会える……か?



 その後、2時間以上待ったが結局カルステンは現れなかった。

 俺はもやもやした気持ちを抱いたまま、城へと戻っていった。


早くかけたから早く投稿。


時系列的には第30分の虚像の勇者に相当します。

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