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魔族の侵入

「おーい、藤堂君」


 リーザとの会談を終え、廊下を歩いていた藤堂君を呼び止めた。

 俺はすでに〈隠者の衣〉を脱ぎ、他人から視認される状態にしている。


「あ、先輩、着替えたんですか?」


 鎧を身に着けた俺と、素っ裸の〈鏡の人形〉。二人が同一人物だと思ってる藤堂君は、そういう結論に至ってしまうよな。


「いや、聞いてくれ藤堂君。あれは俺じゃない」

「先輩は俺なんですよね? 俺にもあんな願望があるのかと思うと、悲しくなってきます。先輩、女の子に首輪で繋がれて気持ち良かったですか? ペットだからってやりたい放題……」

「いやいやいや、落ち着け藤堂君。言い訳でもなんでもなくて、あれは俺じゃないんだ」

「…………」


 藤堂君の冷たい目が痛い。苦しい言い訳をしているように見えているらしい。


 俺は事情を説明した。最初は話半分で聞いていた藤堂君だったけど、魔具の話を懇切丁寧に説明し、〈隠者の衣〉を見せたりすることによって何とか信じてもらうことに成功した。 


「……先輩、すごいですね。身代わりまで作れちゃうんですか」

「まあな」

「さすが先輩! 身代わりに恥ずかしいことをさせて、女王に媚びたんですね。あれ……でもそれって、周りの認識は変わらないんじゃないですか? 結局は先輩がペットやってるって思われてるわけで……」

「後で身代わりだったことを公表するつもりだ。これで全部上手くいくだろ……たぶん?」

「……うーん、それちょっと不安ですよね。早く話をしておいた方がいいんじゃないですか?」

「ま、まあ、なんとかなる」


 うう……改めて藤堂君に説明すると若干不安になってきたぞ。大丈夫なのかな、この作戦。

 俺の不安を察したらしい藤堂君が、懐からあるものを取り出した。


「干物、食べます?」


 木の棒に突き刺された楕円形の塊。干物だ。


「なんで干物なんか持ってたんだ? 非常食か何かか?」

「サイモンさんが用意してくれたんです」


 サイモン。ここには来てなかったけど、今はヨウ君と一緒に行動してるのか。

 干物。懐かしいなそのネタ。


 ポリポリポリ。


「お、暖かいな」

「俺の〈ゆで卵〉スキルで温めておきました」

「偉いね藤堂君。秀吉っぽい。出世できるぞ」


 気の利く後輩だ。


「俺が〈モテない〉スキルで養殖やるからさ、藤堂君は〈ゆで卵〉スキルで料理して店を開こうよ。メリーズ商会から店を借りてさ。まあ、もしこの世界で過ごすことになったら……って話だけど」

「何言ってるんですか先輩。今やるべきことがあるでしょ」


 ま、その通りだな。

 俺は改めて気を引き締めた。


「それじゃあ本題だ。藤堂君、君の話していた……サキュバスがこっちに来たのは間違いないのか?」

「ほんの少しですが目撃情報があります。それでも絶対この国、とは言い切れないですけど」

「…………」


 厳しいな。

 人化した魔物は、容姿が多少なりとも異なることが多い。おまけに、普通の人間は化けた魔族と人とを区別することができない。

 あの魔王クレーメンス傘下の上級魔族。モーガンと同じように、人の中に溶け込んでいる可能性すらある。


「とりあえず、これを渡しておく」

「なんですか? このメガネ?」

「魔具〈賢者の魔眼〉だ。対象の種族を判定することができる。俺は精霊を使えば見分けがつくからな」

「ありがとうございます」


 もし本当にサキュバスがここにいるのであれば、すぐにあぶりだせるだろう。


「俺の方でも少し調べてみるよ」


 こうして、俺たちは別れた。



 藤堂君にも言われたことではあるが、あまり俺の身代わりについて話をしておかない状況はまずい。

 とりあえず、俺がリービッヒ王国から連れてきた使節団の人たちにはこの件を伝えておこう。

 そう思い、俺は使節団が滞在している部屋へと向かった。


 ふぅ。

 冷静に考えてみれば、今の時点では嬉々としてペットやってる変態扱いなんだよな。ちゃんと話を聞いてもらえるのだろうか?

 いや、俺は仮にも国王。俺がそうだといえばそうなのだ! むしろ国のために己を犠牲にして屈辱的な姿になっている善良な王。何も恥ずべきことなどない!


 そんな風に己を奮い立たせながら、俺はゆっくりと扉を開けた。


「……っ!」


 そこには、予想だにしない光景が広がっていた。


「これは……」


 いない。

 あれほど大勢いたはずの使節団が、誰一人いない。そのこと自体は、どこかに出かけているのだとすれば簡単に説明が付く。

 だが、事の異常性を示すものが……ここに存在するとしたら?

 俺はゆっくりと部屋の中へと歩を進め、ちょうどソファーに寝転がっている『ソイツ』を見下ろした。


 からからに乾いた干物のようになった人間のミイラ。着ている服は、明らかにリービッヒ王国の使節団が身に着けたもの。

 言うまでもなく、死体だ。

 

「…………」


 俺はこいつを見て思い出した。かつて灯台に住んでいたサキュバスが、冒険者の精気を吸い取りミイラにしていたことを。

 あの時見たミイラと、目の前にあるこれはうり二つだ。

 

 サキュバスだ。藤堂君の懸念は正しかったというわけか。


「王宮に潜入していた?」


 これは、まずいな。


 使節団に所属していた他の人間が見当たらない。ここに死体が残されている、にも関わらずだ。

 サキュバスにはスキル〈淫魔の魅惑チャーム〉が存在する。これは相手を魅了し、相手の欲望と興奮を掻き立てるスキルだ。

 使節団の人間は、これに当てられて連れ去れたのかもしれない。対抗スキルを持たないただの人間が、あのスキルに抗うことは不可能だ。


 ペットがどうとか言ってる場合じゃない。すぐにリーザ女王へ報告を上げなければ。

 俺は駆け出した。



 西方大国、リーザ女王は謁見の間にいた。

 玉座には座っていない。今は近くにいるヨウを相手している最中だ。


「ほらー、ヨウ、ミルクを持ってきたわよ。飲みなさい」

「ワンワンワンっ!」


 ペロペロペロと、リーザが手に垂らしたミルクを舐めとるヨウ。


 本当に、ヨウは変わった男だ。このようにペットとしての自分を受け入れている人間は、リーザにとっても初めての存在である。


 だが、この関係がいつまでも続くはずない。

 すでにリービッヒ王国から何度か抗議を受けている。当然ではあるが、日を追うごとにその強さは無視できなくなってきている。


(潮時かしらね)


 ヨウとの時間は、甘く愉快な夢だった。しかしいつかは現実へと戻らねばならない。

 西方大国、リーザは優秀な指導者である。己の趣味のため、いつまでも外交問題を野放しにしておくことはできない。

 ヨウには適度な謝礼を払い解放する。それが、後腐れなく国と国との関係に戻るための……措置。


 ふと、リーザは顔を上げた。扉からぞろぞろと入ってくる人たちに気が付いたからだ。

 ヨウが引き連れていた使節団だ。

 ぎろり、とリーザのことを睨みにつけているその姿は、お世辞にも好意的とは言えない。


「国王を取り戻しに来たのかしら? でも残念。この子はリィのものよ」


 ぎゅっ、とヨウを抱きしめるリーザ。正直なところ、もう返してもいいタイミングではあるのだが、あくまで主導権はこちらが握っていなければならない。抗議されて返した、という体裁は大国のとしての威信に関わる。


 リーザの様子を見ても、使節団の人々は表情を変えようとはしない。それどころか、一斉に剣を抜いた。


「……っ!」


 剣呑な雰囲気に、リーザの顔が強張る。


「強硬手段? 困った人たちね。小国のくせに、リィもなめられたものね」


 パチン、と指を鳴らすリーザ。近くに控えていた衛兵へ、捕縛の命令を下したのだ。

 所詮、外交使節団は外交官。完全武装した兵士に装備面でも練度面でも敵うはずがない。


 そう思い、安心していた。

 しかし――


「何をしているの衛兵っ! そいつらを捕らえて」


 衛兵は、動かなかった。


「え……?」


 リーザの命令が聞こえていないはずはないのだが、まったく動こうとしなかった。


「…………」

「……あぁ」


 とろん、とまるで夢を見ているかのように目が虚ろ。呪いか、幻覚か、スキルは分からないが、何らかの形で操られているのは間違いない。


「や……嘘……」


 頼みの綱の衛兵がいなくなれば、リーザは一人の少女に過ぎない。迫りくる人々に、抗うことなど不可能だ。

 

 敵が一歩前に進むごとに、リーザは一歩後ろに下がった。だが、やがては玉座にその退路を阻まれてしまう。

 腕を掴まれ、拘束される。

 逃げ道は、ない。


「ワオンっ!」

「あ……」


 己の死を覚悟したその瞬間、ペットが飛び出した。


昔、電撃とかGAとかに新人賞送ってた頃。

約100枚の原稿を印刷して、応募してたんですよ。

自分が書いた小説、100枚の紙の束を見ながら、「俺頑張ったなー」ってちょとといい気分になってました。


この小説、〈モテない〉は電撃書式(42×34行)ですでに700枚分ぐらいいってます。

印刷したらさぞかしいい気分になれるでしょうね。

っていうか分割したら電撃に7回分応募できるとか……。

もうね。



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