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国王の笑み

 グルガント王国南、サラーン平原。

 かつて豊かな牧草地帯として王国に恩恵をもたらしていたこの土地は、今、紫の謀略王クレーメンスの領地である。そしてここが、モーガン公爵によって指定された制圧目標であった。

 軍を進める俺たちに呼応するように、眼前には大勢の魔族が見える。

 紫の謀略王クレーメンス傘下の魔物たちである。

 どうも、こいつらは魔王イルマ傘下の軍とは違うらしいな。最初の討伐軍の時も思ったが、見事に軍としてまとまっている。力は赤の力王軍の方が数段上だが、それでも油断できない相手である。

 だが、今の俺ならば……決して相手にできない敵ではない。


 俺は軍馬に跨り、兵士と魔物を見比べていた。もちろん普通の高校生である俺に乗馬技術などないが、とある条件を満たして手に入る〈乗馬の極意〉レベル10を身につけたためそれなりに乗りこなすことができている。

 さてと、まずは一発派手にかましてやるか。

 俺は手を振り、サイモン率いるムーア騎士団に指示を出す。


「「〈大地の王〉レベル1000っ!」」


 同時に剣を振り下ろす騎士団。かつてムーア領で領地奪還に励んでいた時は20人だったが、今は30人に膨れ上がっている。俺が頑張って稚拙な武具を作り上げた結果だ。

 絶大な威力のスキルを喰らい、謀略王軍は大きく傷ついた。動揺のためか、隊列を大きく乱している。

 茫然と立ち呆ける王国軍兵士たち。当然ではあるが、俺の用意したこの超スキルについて何も知らなかったため、驚いているのだ。


「聞け、王国の兵士たちっ!」


 俺はそんな彼らに言葉を伝える。


「今、レベル1000のスキルによって大地に立つ魔物たちはあらかた片付いた。残っているのは空を舞う魔族と、地上に生き残った少数だけだっ!」


 しん、と静まりかえる素人兵たち。皆が俺の言葉を聞いている。


「お前たちの中に経験の浅い者が多いのは知っている。しかし今の状態ならば、弱い者でも十分に戦果を残せるはず」


 俺は剣を掲げた。

 

「立ち上がれ王国の民よっ! 今こそ、お前たちの力を示すときだ。進めっ!」


 言いたいことはすべて言った。俺の言葉に反応し、熟練の兵士たちはすぐに突撃を開始した。

 そして……。

 

「お……おおお……」


 新米の兵士たちは、ゆっくりと力を振り絞り――


「おおおおおおおおおおおおおおおおおお、ヨウ様万歳いいいいいいいいいいいいっ!」


 兵士たちは勢いよく突撃した。練度は不十分だが、しかし士気は十分だった。

 こうして、兵士たちと魔族との戦いが始まった。

 うーむ。

 本当は俺もしっかり前線に出て戦うつもりだったのだが、存外に騎士団のスキルが強すぎたらしい。予想以上に王国軍側が押してる……というかもう勝利寸前だ。たぶん俺が馬を走らせる間に、勝敗は決してしまってるだろう。

 やれやれ、とんだ肩透かしだった。国王陛下からもらった剣、結局使えずじまいだったな。



 王都に帰還した俺を出迎えたくれたのはアレックス将軍だった。兵士たちは将軍の部下に預け、俺たちは玉座の間へと向かった。

 玉座の間には四人の人物がいる。玉座に腰かける国王、両隣にはアレックスとモーガン、そして国王の前で臣下の礼を取るのが俺だ。


「ムーア領領主、ヨウ・トウドウ。王命によりサラーン平原を奪還いたしました」


 まあ、もう早馬は出したからモーガンも国王陛下も知っているんだろうけど、一応報告という体裁をとるためにこうしてしっかりと話をしておく。


「ヨウ殿、よく魔王軍を退けてくれた。感謝するぞ」

 

 アレックス将軍が微笑んだ。領主に推挙した俺がこうして活躍しているのは、彼にとっても鼻が高いのだろう。

 続いて、モーガンが震える口を開いた。


「ヒッ、ヒヒヒ、確かに努力は認めます。し、しし、しかし、あなたが臆病風に吹かれて陛下から賜った剣を使わずに陣地の奥に引きこもっていたのは事実。わ、私の用意した優秀な王国兵のおかげで、勝利できたと言っても過言ではありません」


 こ、こいつ……いちいち癇に障る奴だな。お前の用意した寄せ集め兵士はほとんど田舎に返したはずだろ……。

 お、落ち着け。ここには国王陛下がいるんだ。あまり変なことを言ってはいけない。


「……モーガン」


 でもやっぱり文句の一つでも言おうと口を開きかけたところで、国王陛下が声を出した。心なしか、声が震えている。

 これは……怒り?


「お前はもう下がれ」

「ヒッ? ししし、しかし陛下……」

「下がれと言っているっ! これ以上余を失望させるなっ!」

 

 国王が声を荒げた。もともと王としての風格を持つ老人の命には、強い意志が込められていた。モーガンは肩を震わせ、叱られた子供のように震えながら部屋から出ていった。

 ざまあみろ。


「陛下、正しい判断です。あの男はこの国に仇なす存在なのですから……」

「……ふふ、アレックスよ。余とて、いつまでもあの愚か者を自由にしておくつもりはないぞ」


 おや?

 モーガンがいなくなったせいなのか、心なしか国王陛下の顔に笑みが……。 


「しかしこれはなかなか難しい。強硬派はモーガンを中心に固まっておる。これを切り崩すのは余とて容易ではないぞ」

「それよりも陛下、今のモーガンの顔、ご覧になりましたか? 情けない……。あれで強硬派というのですから、もう変な冗談なのかと言ってやりたいですな」

「ふふふ……」

「ははは」


 笑い合う二人。モーガンによって暗澹とした空気に沈んでいたこの玉座の間が、少しばかり暖かさに包まれていく。

 

「さて、ムーア領領主ヨウよ」


 ひとしきり笑い終えた国王は、急にまじめな顔になって俺へと語り掛けてきた。


「民衆の間には、英雄ヨウに期待する者が多い。此度の戦でも、できれば最前線で剣を振るい、その雄姿を皆に刻み付けて欲しかった。そなたはこの国の希望なのだ。それを……ゆめ忘れぬように……」

「陛下は自分の与えた剣を早く使って欲しいのです。きっとそれだけなのだ、ヨウ殿」

「ふふ、アレックスよ。それでは余が我がままな子供のようではないか……。まったく……お前と言う奴は。あの時取り立てるべきではなかったな」

「浮浪者として乞食に似た生活をしていた私です。陛下との出会いを否定されると、もはや人生そのものが否定されると言っても……」


 緩い悪態をつきながら笑い合う二人。意外と、仲がいいんだな。国王陛下も、もっと気難しい人だと思ってた。

 俺はこの人たちと一緒に、この国をもっとよくしていきたいと思った。

 民衆がそう望んでいるなら、俺だって頑張って見せる。陛下からもらった剣を使って、最前線で輝いて見せる。

 次の戦いでは、いの一番に敵地へ切り込んで見せよう。


 国王を助け、この王国を魔王たちの手から救う。

 それが、異世界転移を果たした末に俺が見つけた……最初の目標。

目標提示。

これまで、ふわふわした感じの主人公だったからこれではっきりする……かな?

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