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再びの創世神

 和平交渉が失敗に終わり、残った兵士たちを引き連れ王都へと戻っていた道中でのこと。

 近くの宿で仮眠をとっていた俺は、唐突に目を覚ました。


 そこは、寝る前の俺がいたはずの宿ではなかった。ベッドもドアも何もない、白い床だけがある黒い空間。

 ここは……確か。


「久しぶりだな」


 目の前に、見覚えのある人物がいた。

 威厳あるマントを身に着けた、引き締まった体の男性。


「……創世神」


 ここは……創世神の空間か?

 かつてイルマ型人造魔王に殺されたあと、創世神と初めて出会ったあの場所だ。


「お前が呼んだのか?」

「そうだ、いつまでたっても来てくれないからな」

「戻り方を知らないんだ。そうなって当然だろう」


 戻れる、という話を聞いていたが、実際のところどう戻ればいいか聞いていなかった。質問はしたのだが、ぶつぶつ独り言を言うだけのこいつは答えてくれなかったのだ。


「そうだな、その件は悪かった」


 創世神は俺に頭を下げた。

 なんだ、こいつ。この前と違って、なんだか人間的な対応をしてくれるな。もう諦めモードはやめたのか?


「少しは俺のことを手伝ってくれる気になったか?」

「アースバインはどうやら〈グラファイト〉を続けるつもりらしい。ならば俺も、いつまでも沈んでいては示しがつかいないだろう? それに……」

「それに?」

「異世界で奮闘する君の姿を見て、奮い立たされたと、とでも言うか」


 創世神は自らの金髪を手でぐちゃぐちゃとかき分け、恥ずかしそうに目を逸らした。


 どうやら、本気で気力を取り戻したらしい。

 いい傾向だ。これで、〈グラファイト〉を有利に進めることができるかもしれない。


「君のことはずっと見ていた。グルガンドでの行動、カルステンやクレーメンスとの戦い、そしてリービッヒ王国に至るまで」

「お前の目から見て、俺はどうだ?」

「まあ、よくやっていると思う。答えの見えない戦いだ。正解とか間違いとか、そういった安易な判断をすることはできないがな」

「……この前の、クラーラの件は俺の失敗だった」


 西方大国、和平交渉。あれは曲がりなりにもこれまで物語をまともに進めてきた俺にとっての、手痛い敗北だった。

 リーザ、リザードマン、クラーラ。三者の思惑に何となく気が付いてはいながら、クラーラのことを優先してしまった……俺の責任。


「ああ、ついこの間の和平交渉の件か。君は……」


 と、創世神は喉まで出かかっていた言葉を無理やりに飲み込んだ。


「いや、なんでも……」


 言いにくそうだな。

 この前会った時よりも、感情が豊かになっている印象だ。時間がたって、アースバインに負けたショック状態から抜け出したからだ。

 確証のない発言だから、言うのを控えたのか?

 あるいは、俺を気遣う余裕ができたか?


「何か言いにくいことがあるのか? 気にしなくていいから、言ってくれ」

「いいだろう」


 こくり、と頷く創世神。


「……君は、クラーラに甘すぎなんじゃないのか?」

「は?」


 そんな話題を振られるとは、思ってもみなかった。

 俺が、クラーラに甘い?


「この出来事を見て、いや、その前のフラグ立ての話でもいい。何も感じなかったのか?」

「かわいそうな子だとは思う。物を知らず、部下に裏切られて……。不憫な子だよな」

「彼女は本当に悪くないのか? もっと冷静に考えてみろ」


 ……そういえば、そうだ。

 そもそも、俺は彼女が魔王として仕事をしていたところを見たことがあるか?


 バルトメウス会長は配下のアンデッドに囲まれて仕事をしていた。

 パウルは出会ったとき、多くの配下に囲まれ領地の城でふんぞり返っていた。

 イルマが多くの魔族を従えていることは言うまでもない。


 対してクラーラはどうだ? 俺は彼女が他の魔物と一緒にいたところを見たことがあるか? 妖精や精霊ばかりと話をしていて、それ以外の誰かとかかわっている姿なんてみたことがない。

 

「……じゃあ、なんだ? お前はこう言いたいのか? 『あの子は無能』、『感情だけで先走る』、『部下の制御もできていない』」

「こ、怖い顔をするな。まあ、端的に言ってしまえばそうなるか。たとえ善人だとしても、立場や環境によっては許されない者もいる。そういうことだ」

 

 俺は怖い顔をしていたのか? まあ、どちらかと言えば深く考えたくない事実なのかもしれない。

 でも、例のリザードマンだって、そもそも裏切ったとか裏切ってないとかいう話の次元じゃなくて、クラーラを主とすら思っていないのかもしれない。

 こんなことで和平交渉が進むはずがない。やはりリーザの言い分が正しかった、というべきか。


「君はこれから多くのことを知り、多くの行動を起こすだろう。前回の世界での知識を頼りに、誰かに変な期待を寄せたり無駄に敵対したり、そういったことは控えた方がいいと思う」

「正論だな、心に刻んでおこう」


 ホント、注意しなきゃな。


「それを、俺に指摘するためにここへ呼んだのか?」

「それも目的の一つだが、一番ではないな」


 創世神は深いため息をついたのち、改めてその鋭い眼で俺を見据えた。


「今から一か月後、タターク山脈に人造魔王が現れる」

「人造魔王? なんで?」

「俺とアースバインの、簡単な取り決めのようなものだ。ヨウと人造魔王の力比べさ」


 アースバインは三体の人造魔王を従えている。主力はイルマ型人造魔王で、他にも二体がいるということだ。

 エヴァンス型、ロルムス型だったか? 


「行っても行かなくてもいい。ただ、皇帝の慢心で手ごまの人造魔王が一体潰せるわけだから、悪い話ではないと思うがな」

「なるほどな、分かった。時間があれば行ってみる。場所と詳しい時間を教えてくれ」


 俺は創世神から時間と場所を聞き、メモをとった。


 

 俺は水晶の部屋へとやってきた。

 これまでの物語を振り返り、新たな戦略を得ようとしたのだ。

 

 部屋に入ると、水晶が増えていた。

 横14列縦9段目まで増えている。

 どうやら、俺がいない間にさらに記録が追加されたらしい。当然だ。〈グラファイト〉はまだ続いているのだから。


「熱心だな」


 後ろには創世神。どうやら俺のあとをつけてきたらしい。


「そこに答えはないぞ。あれば俺が勝利して君がここに来ることはなかっただろう」


 そうだよな。

 俺だって、前回ここに来た時必死に勉強した。でもその結果、カルステンに見つかったり、クラーラとの和平に失敗したりした。ひょっとすると俺の知らないところでは、さらなる失敗展開が進んでいるかもしれない。

 あまり頼りすぎても、効果は薄いか。


「とりあえず、今回はそのまま戻ることにする。もし俺が変な死亡フラグを踏みそうになったら、またここに呼んで欲しい」

「分かった」


 ただ、過去の記録や経験が全く役に立たないわけではない。何か困ったことがあったら、ここに立ち寄ることにしよう。


「何かお前の目線からアドバイスはあるか?」

「とりあえずは、大人しくペットをやっておけとしか言えないな」

「ペット? 何の話だ?」

「物語が進めば分かるさ」


 意味深な言葉を残して、創世神は部屋から立ち去った。

 

 今回は突然呼び出されたため、自由な時間が少ない。俺も早く元の世界へと戻ることにしよう。


前に『この空間へはいつでも戻れる』という話をしましたが、訂正します。

戻れなかった!

申し訳ないです。


それと、この小説の前回部分をいろいろと改稿していこうと思っています。ペースはゆっくりになりますが。

何か強い違和感をある展開があれば、感想で教えてくれると嬉しいです(そんなのばっかりだと言われればそれまでですが)。


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