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西方大国、リーザ女王

 ロンバルディア神聖国でローザリンデとの会談を終えた俺。その後は周囲を散策しながら魔具を集め、国を出た。

 なかなか有意義な時間だった。魔具はそれ相応にいいものを手に入れることができたしな。


 そして俺は、次の国へとやってきていた。


 西方大国。


 ロンバルディア神聖国より北西。リービッヒ王国より南西、シェルト大森林の西。大陸の西方に広がる王国である。

 人類国家最大の国。ムーア領を取り戻せばグルガンド王国が一番だろうが、今の時点でこの国に勝る国家は存在しない。


 アストレア諸国と一括りにされてしまう国々や、辺境の神権国家とは違う。領土の広さだけではなく、国としての力もだ。 

 ここは技術大国として有名だ。

 錬金術を発達させた国として、評判が高い。あのアースバイン帝国の後継国とも言われている。


 だけどまあ、実際来てみればそれほどでもなかった。

 もっとこう、俺たちの世界に近い機械王国を期待してたがそんなものはなかった。自動車も走ってないし工場もない。大気は澄んでるし歩く人々は鎧や剣を身に着けている者がしばしば。

 見た目はあまりグルガンド王国と変わらない。この分だと軍事も似たり寄ったりだろう。

 そもそも戦車とかなんとかレーザーとか作れてるんだったら、魔王程度に苦戦するはずがない。この世界の人間国家なんてそんなもんだ。


 ただ、純度の高い消毒用アルコールが置いてあったり、火薬らしきものを扱っていたりとそれらしき鱗片を見ることができる。

 やはりそれ相応の技術を発達させた国ということだろう。


 そして、俺は西方大国の王城へとやってきていた。


 門をくぐると、ずらりと並んだ兵士たちが出迎えた。


「リービッヒ王国、ヨウ・トウドウ国王陛下来訪っ!」

「敬礼っ!」


 まるで機械か何かのように一糸乱れぬ姿で敬礼する兵士たち。大国としての威厳を示そうとしているのだろう。実際、俺の国でここまで壮大な出迎えをすることは不可能だ。

 久々に緊張してきた。


 赤じゅうたんの上を、ゆっくりと歩いていく。


 そして、とうとうたどり着いた。

 目の前の玉座には、一人の少女が座っている。

 年の頃はおそらく10代中盤、背は低くやや幼い。金髪ツインテールは腰辺りまで伸びるロング。

 白いブラウスの上に、ウールで編み込まれたやや光沢のある上着。そこにはいくつかの勲章のようなものが見える。そして下に身に着けているのは短めのスカートだ。

 そして何よりも特徴的なのは頭の上。ミニ王冠を斜めに被っている。別に西方大国の王冠ではなく、これはただのファッションだ。


「リービッヒ王国国王、ヨウ・トウドウです。女王陛下、以後お見知りおきを……」

「…………」


 値踏みするように俺を見下ろしているリーザ女王。何の前触れもなく突然立ち上がり、軽快なステップを踏みながら俺のそばまでやってきた。

 右に、左に、ツインテールを揺らしながら俺のことを眺めている女王。


「ふぅん、へぇ……」


 近い。

 あっ、俺の〈モテない〉スキルにあてられて…………。

 と、いつもなら思うのであるが、今日はちょっと事情が違う。

 俺はロンバルディア神聖国を回り、いくつかの魔具を回収した。その中に、一つの呪い系魔具がある。


 魔具、〈罰の紋章〉。


 鎧に張り付いているこの楔形の紋章は、呪いの魔具である。

 効果は特定スキルの無効化。俺はこの魔具を使い、現在〈モテない〉スキルを無効化している。

 そして、レベルの低い呪いであるから、低レベルな解呪魔具が通用する。こいつも簡単に用意することができた。

 つまり、いつでも外すことができるのだ。

 

 というわけで俺は、とうとう〈モテない〉スキルを克服したのだ!

 これで俺にもハーレムが……などというテンションにはならない。そんな浮かれてたのは最初だけだ。今は目標が多すぎてそんなことを考えている余裕がない。


 などといろいろ考えている間も、リーザ女王は俺から離れない。時々匂いを嗅いでいるような仕草を見せているのは気のせいだろうか?

 それにしてもこの人、一体何をしてるんだ?


「合格っ!」


 ぱんっ、と両手を叩いたリーザ女王がそんなことを言った。


「ご、合格ですか?」


 何の話だ?


「あんまりねー、こー、キモかったり変な臭いとかするおっさんだったらやだなーって思ってたの。その点ヨウ君は超合格。リィ嬉しいなぁ。王様って老けた人多いから嫌嫌嫌。今日も禿頭の人が来たら唾吐きつけて帰ってもらおうかなーって思ってたわ。一緒にご飯食べましょう」


 俺の手を握り、ぶんぶんと振り回すリーザ女王。

 なんだか知らないが、俺が若くて嬉しいらしい。悪い気はしないな。

 

「リーザ女王陛下にご報告っ!」


 と、後ろの扉から兵士が入ってきた。


「東方のニガラの森に魔族が侵入っ! 森林王クラーラの軍勢ですっ!」


 ……っ!

 クラーラだと?

 

「リーザ殿は森林王と争っているのですか?」

「そうそう、領地を接してるからね」


 さして大事というわけでもなさそうな雰囲気で、リーザ女王は兵士へと向き直った。


「戦況は?」

「争いはありません。和平交渉の用意がある、と魔族側の使者から説明を受けています。ご判断を」


 リーザは深いため息をついた。


「ばーかじゃないの? 人に聞かないと何もできないわけ? リィ超幻滅。侵入してきた魔族は全員殺して。できなければ追い払って。いい、次その話もってきたら、将軍も領主も罷免するから」

「和平交渉は行わないのですか?」


 俺の言葉がよほど理解できなかったらしい、リーザ女王は一瞬だけ固まったように俺の顔を見ていた。


「和平? ヨウ君何言ってるの? 罠に決まってるじゃない」  


 なるほどな。

 こうして話が拗れてしまってるわけか。クラーラもなかなか難儀なことになってるな。


「例えば、その交渉に俺が出向く……と言ったらどうしますか?」

「信じらんない。ヨウ君、悪いことは……」


 と、何かを言いかけたリーザ女王であったが、すぐに言葉をひっこめた。


「ううーん、ヨウ君の頼みなら断れないわね。いいわよ、特別に認めてあげる」


 どんな葛藤があったのかはよく分からないが、とりあえず交渉の機会を与えてくれるらしい。

 

「…………」


 西方大国、リーザ女王は頭の良い人だ。

 ロンバルディア神聖国のローザリンデやオルガ王国のディートリッヒとは違う。合理的に政治判断を行うだけの実力を持つ国家元首なのである。

 そんな彼女が俺に交渉を任せた。この意味は……ひょっとするとかなり重要であり危険な兆候なのかもしれない。


 ローザリンデの時は創世神の部屋にあった水晶の記録が役立った。だが俺だってすべての映像を見てすべてを丸暗記しているわけではない。この人が優秀であり悪い人でないことは知っているのだが、そこまでだ。


 現状、未来は未知数。だけどクラーラのことを無視することなんてできない。


「西方大国女王、リーザが宣言します。リービッヒ王国国王ヨウ。西方大国全権大使として、あなたに森林王クラーラとの交渉を任せますっ」

「はっ、ありがたき幸せ」


 こうして、俺は魔族たちのもとへと向かった。

 

 和平を結び戻ることができたら、リーザ女王も考えを改めてくれるだろう。



 ヨウがいなくなった、謁見の間。

 西方大国女王、リーザはぼんやりと空中を眺めていた。


「和平だって。かわいいわね、あの子」


 年齢的には、リーザとヨウはそう変わらない。しかし王としての経験が遥かに上である彼女であるから、妙な理想論を真に受けるヨウが子供に見えてしまったのだ。


「あの方がお気に入りですか、女王陛下」


 そばに控えていた大臣がそう問いかけた。


「リィね、あの子気に入っちゃった。後は分かるわよね?」

「仰せのままに」


 大臣は浅くため息をついた。有能である我らが女王陛下であるが、この趣味はいただけない。

 しかしそれで癇癪をおこされても困るので、ある程度は要望に応えないといけないのだ。


 リーザの手には一枚の紙が握られていた。それは、リービッヒ王国に出回っている、ヨウの肖像画である。 


「――リィのペットにしてあげる」


 そう言って、彼女は舌を唇に這わせた。


読者A「リーザ? そんなキャラいたか? 記憶にないんだが」

読者B「おっ、おい、馬鹿。大きな声出すな!」


作者「(ニコニコ)」


読者B「作者さんに聞こえちまうだろ!」

読者A「あの微笑み……。『俺の個性的で魅力的なキャラ絶対覚えてるよね?』と言いたげな顔」

読者B「言えねぇ! キャラ薄すぎて覚えてねーよなんてそんなこと言えねぇよ!」


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