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訪問、オルガ王国編

 アストレア諸国人間国家盟主、オルガ王国にて。


 ここに来たのは、クラーラやパウルと一緒にやってきた時以来か。あの時はクラーラを守るためという大義名分もあり、緊張と期待の入り混じった中での来訪だった。

 一方で今回は一国の主としての訪問だ。期待よりもはるかに不安や緊張の方が大きい。


 創世神の部屋で記録水晶を見た俺は知っている。俺が出会ったディートリッヒはカルステンが化けた偽物であったことを。

 俺が出会ったディートリッヒは偽物だったけど、本物もあんな性格だった。という込み入った事情があり複雑な気分だ。


 寒い地域ではあるが、建物の中は暖房のようなものが効いていて暖かい。このあたりも大国ならではだと感心する。


「ご挨拶が遅れ、申し訳ありませんでした。リービッヒ王国国王、ヨウです」


 まるで臣下のようにひざまずき、恭しく頭を下げる。一応大国と小国という立場のため、こうしてへりくだっておいた方がいいだろう。


「貴殿がリービッヒ王国の新国王、ヨウ殿か。顔を上げていいぞ」


 軍服のような服を着た若い男。オルガ王国国王ディートリッヒだ。

 前の世界における訪問と比べ、機嫌がいいように見える。


「即位して間もないにも関わらず、ずいぶんと軍を動かしていると聞く。我の耳にも入っているぞ」

「制圧した国のうち、二国家はもともと我が国の領土でした。そして魔族国家は言わずもがな。何も問題はありません」


 何も考えずに領地を増やしていたわけではない。一応、それなりの言い訳を用意はしていたのだ。

 もっとも、だからと言って制圧された国の領主はたまったものではないがな。


「いやいや、責めているわけではない。特に魔族国家を滅ぼしたことは称賛されてしかるべきだ。むしろ侵略後の魔族たちへの扱いが手ぬるいのでは?」

「我が国は小国です。いつ反乱を起こされるか分からない中で、余計な反感をあおるような政治は控えています」

 

 パウルと熾烈な争いを行ってるこの国にとって、魔族とは敵なのだ。皆殺し、もしくはそこまではいかないまでも奴隷にしたり国外追放したりというのは当たり前。

 そんな彼らにとって、俺の自治権を与える政策は異様に映ったのかもしれない。


 俺だって一応、クラーラと一緒に過ごしてきた記憶がある。魔族だからといって辛く当たることはできない。

 罰するのはクレーメンスやモーガンのような奴だけでいい。


「つきましては閃光王パウルとの戦いにおいて、我々の支援をお約束しましょう。代わりに、いくつか私の願いを聞いていただきたい」

「申せ」

「オリビアの封印術。これを教えてはいただけないでしょうか?」


 封印術。

 それがあれば、オリビアを救うことができる。かつてカルステンに渡された偽物ではなく、本物の方だ。


 この世界のオリビアは前世界のオリビアとは別人。だからここで助けたとしても、俺が殺してしまった彼女が救われるわけじゃない。

 そんなことは分かってる。

 でも、だからといって同じように無視できるわけがない。このあたりの事情はクラーラや女戦士と一緒だ。


 オリビア、という言葉をここで聞くとは思ってなかったのだろう。ディードリッヒはハトが豆鉄砲を食ったような顔をしている。


「本当の意味でのオリビアを知っているか。……中々博識ではないか」

「情報は国家の武器です。このご時世では、保険の一つも持っておきたいものです」

「あんなものに興味を抱くとは、変わった男だ。好きにすればいい」

「ありがとうございます」


 どうやら、オリビアの封印術についてそれほど思い入れはないようだ。軽視されていると言ってもいい。


 軽視されるのは当然だ。

 まだオリビアが現れているわけではない。おまけに、最近オリビアに魔王が倒された記録すらないのだ。グルガンド王国では勇者イルデブランドを支えた聖女扱い。この国でも時々魔王の天敵として現れるがすぐ倒される存在、程度の扱い。


 今回はカルステンのより肉体強化を経て、オリビアの能力がイルマ以外の魔王を圧倒している。だからオルガ王国の封印術が重要な意味を持ってくるのだ。

 今の時点ではただの保険でしかない。パウルにこの話を持っていたとしても、軽くあしらわれてしまうだろう。

 だからこそ、この交渉に意味があるのだが。

 

「一応、魔法の一種という話だからな。我々人間では扱い得ない代物だ。わが国には魔族の魔法について研究している者たちがいる。封印術は彼らが知ってるから、あとで聞くことを許可する」

「は、感謝いたします。それと……」


 ついでだ。

 あれも回収しておきたい。

 

「この部屋に来る前の廊下にあった、あの美しい鏡をいただけないでしょうか?」

「鏡、どの鏡だ?」

「騎士の像と一緒に飾られていた、金の鏡です」


 この国の人間は知らないのだろう。

 あれは〈反射鏡〉と呼ばれるダメージ軽減型の魔具では最強のものだ。クレーメンスやクラーラレベルの魔王であればダメージ反射で殺すことすらできる。


「まったく、そなたは変わった王だな。あんなものを欲しがるとは。あれは我が国の大臣が寄贈したものだ。本人に取り計らい、譲渡するよう交渉しよう」

「ありがとうございます」


 ここに来た意味はあったようだ。

 短い滞在期間だが、他の場所も見回って、魔具を回収しておこう。


ネット小説大賞一次選考通過しました。

嬉しいことです。

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