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国王ヨウ


 歴代最強の藤堂陽――仮面の男は失敗した。

 その原因はなぜか? 俺はずっと考えていた。


 単独で人造魔王を倒せる力がなかった、と言えばそれまでだ。だがイルマ型人造魔王――ひいてはその母体たるイルマは明らかに規格外の存在だ。あんな奴に一人で立ち向かおうとしたこと自体が、間違いだったのではないか?

 奴は人に助力を頼むような性格には見えなかった。イルマやエグムントと同じように、自らの力を試し、そして勝利することにこだわっていたようにすら見える。


 俺は自分の弱さを知っている。だからこそ、魔具を使い人に頼り、そして勝利を掴みたいと思う。

 だからこそ俺は、この国の王になった。

 

 領地から魔具を集め、武器を与え強い兵を生み出し、皆の力でカルステンやアースバインを打ち砕く。

 それが俺の導き出した、答えだった。


 リービッヒ王国、玉座の間にて。


 玉座に座るのは、この国の王である俺。王都武道会で見事優勝を果たし、異邦人ながらも国王として選出された。

 むろん、急にこのような形で王になったからといって、みんながみんな真の意味で忠誠を誓ってくれたわけではない。お飾りの王が欲しい者、ただ単に将軍のような働きをしてもらいたかった者、あるいは婚約者をあてがい王の系譜に加わりたい者。野心と野望が渦巻く中で、王が決まったと言っても過言ではない。


 最初はとても身動きの取れる状態ではなかった。


 だが今は……違う。


「報告をしてくれ」


 玉座に座る俺の前へ跪く三人。

 この国の将軍たちだ。


「北方魔族国家、バルバロイ連合国を征服いたしました」 

「テラーズ王国、エグバート王が従属を申し出てきました」

「ダレス大公国、城攻め完了いたしました」


 端的に言えば、我が国が領地を拡大したという話だ。

 話だけ聞いていると大事に聞こえるかもしれないが、そういうわけではない。正直言って、これらの国は小国過ぎる。領地が広がった、といっても微々たるものだ。

 

 だが実際戦いを行った将軍たちは、この結果にとても満足しているらしい。


「いやはや、国王陛下。頂いたときは半信半疑でしたが、今となってはこの魔具の力に感謝するばかりです」

「少数ですがこのスキル付きの武具は大変力強い。我ら将軍が剣を一振りするだけで低レベルな魔族を一網打尽にできますからな」

「まったくもって、ヨウ様は素晴らしい。文官武官一同、これだけは申し上げることができますな」


 おべっかなのか本音なのかは知らないが、口々に俺を褒めたたえる将軍貴族たち。カルステンみたいに疑ってばかりだとストレスばかり溜まっていきそうだから、ここは素直に喜んでおこう。


 とにかく、スキル付き武具や魔具を与え成果を出したことによって、今の俺は国王として認められるレベルにはなっていた。


 ここに来たことは、間違いじゃなかった。

 選択肢はいくつかあった。


 某国では勇者と崇められ、王のように君臨することができた。

 〈幻惑の鱗粉〉を使えば、小国の王になりすますのは容易だ。

 あるいは時間をかければ、徐々に出世して王座を掴むこともできた。


 だが俺も万能ではない。創世神のもとで確認したフローチャートや水晶はごく一部。すべての国のすべての可能性を暗記することなんてできなかった。

 記憶にある中で、最も俺がよく活躍できそうな国。それがここ、リービッヒ王国だったということだ。


 リービッヒ王国はアストレア諸国西方の国家である。北側に位置する国ではあるが、西方からの温暖な偏西風の影響により、近くの国に比べ雪などは少ない。

 各国との主な位置関係は次の通り。


 東方に位置する人間国家オルガ王国・魔王パウル領ラーミル王国。

 南東に位置するシェルト大森林クラーラ領。

 南西に位置するロンバルディア神聖国、西方大国。


 本当の意味でこの国を大きくしていくのなら、大国とぶつからなければならないだろう。ただ、国盗りが俺の最終目標ではないから、そこまで深入りするべきなのかという疑問は残るが。


 当然ながら魔族国家であるラーミル王国やクラーラ領とは親交はない。ただ、パウルはともかくクラーラとは一度話をしておいた方がいいかもしれないな。


 などと頭の中で戦略を練っていたところ、兵士の一人が部屋にやってきた。


「オルガ王国より使者が参りました」

「通してくれ」


 兵士に連れられ、身なりの良い男が玉座の前に立った。どうやらこの男がオルガ王国からの使者らしい。


「このたびは新国王の即位、まことにおめでたく存じます」


 恭しく一礼。


「つきましては我が国への来訪の日程を伺いたく……」

「来訪? そちらを訪れる予定はなかったつもりだが」


 まったく寝耳に水だった。ひょっとして、この国には『戴冠式はオルガ王国で』みたいな習慣があるのか? だとしたらあらかじめ教えておいて欲しいものだが……。


「アストレア諸国におきまして、ディートリッヒ国王は人類の盟主。我ら人類国家は皆兄弟なのです。弟が兄のもとに赴き、礼儀正しく教えを乞う。これは、当然のことでしょう」


 遠まわしではあるが、何となく言いたいことが分かった。

 オルガ王国。

 グルガンドよりは規模が小さいものの、人類の勢力圏としては一大強国に数えられる。

 奴らにとって俺は格下の新参者。手土産持ってあいさつに来るのが当然、とでも言いたいのか?


「俺から出向いて挨拶しろ、そういう話か」

「ご理解が早く助かります、陛下」


 ……面倒だな。

 人間って、こういう面子とか礼儀とかに煩いよな。魔王と争ってて大変だろうに、そこまでして優劣はっきりさせたいのか? もっとやることがあるんじゃないか?

 そういえばアレックス国王も最初のうちは本当に大変そうだったな。今にして、あの人の苦労が理解できた。

 

「すぐに参る。そう伝えて欲しい」

「我が主もお喜びになるでしょう」

 

 この分だと他の国にも顔を出しておいた方がいいかもしれないな。よくよく考えたら、国王変わったばっかりの国が次々に近隣の小国を制圧していったら、誰だって焦るか。


 こうして、俺は諸国を訪れることになった。

 いい機会だ。道中でレアな魔具がないか探してみることにしよう。



ここからがリービッヒ王国編になります。

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