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魔王たちの動向(前編)

 ヨウがグルガンド国王――魔王クレーメンスを倒し、一週間後。

 国王の行方不明は秘匿されたものの、身分の高い文官武官には知れ渡ることになってしまった。


 グルガンド王国、玉座の間にて。


「陛下ああああああああああああ、陛下ああああああああああああああ」

 

 叫び声をあげるのはアレックス将軍。国王の目撃証言が玉座で途絶えているため、近くにいるのではないかと思い呼びかけているらしい。

 彼の様子を横でずっと見ているのは、宰相コーニーリアス。モーガンによって政界から退けられていたが、彼の失踪に伴いこうして表舞台に戻って来れた。


「宰相殿! これはどういうことだ? モーガンと陛下が同時にいなくなるなどという……」


 宰相、コーニーリアスは深いため息をついた。その点については、いくつか可能性を考えている。


「おそらく、モーガンの手引きじゃろう」

「モーガン?」

「モーガンが魔族と内通し、魔王領に陛下を引き渡した。そう考えるのが自然ではないかと」


 すでに二人がいなくなってから一週間が経過している。王国をくまなく探し尽くしたはずであるが、未だにその足取りすら追えていない。

 だとすると国外。下手をすると、もはや生きてすらいないかもしれない。


 コーニーリアスは常日頃から思っていた。モーガンの稚拙な戦争推進は、魔族と内通してこの国を弱体化させようとしている結果なのではないかと。

 だとすると今回起こった二人の失踪はすべて説明が付く。モーガンが王国内部に魔族を引き入れ、陛下を連れ出したのだ。


「な……なんということだ。陛下がいなくなってしまったら、一体誰がこの国をまとめるのだ?」

「今、この国をまとめることができるのは将軍だけじゃ。アレックス将軍、わしはそなたに国王代理就任を依頼する」

「し、しかし宰相殿。陛下を差し置いて、私が王の代わりをするなど恐れ多いことを……」


 未だ国王を慕うアレックスにとって、その提案はひどく心が痛むものらしい。就任はすでにコーニーリアスの根回しによって確定事項なのだが、本人にその気がなければ話にならない。

 だがこの対応はコーニーリアスにとって想定済みだ。


「いずれ陛下が戻るその時のため、この国をよりよく導くことこそ、残された我々の義務なのではないかのう?」

「宰相殿……」


 その言葉。

 アレックスの心に深く響いたらしい。陛下のため、という言葉にこの男は弱いのだ。


「そうだな、モーガンがいなくなったのは事実。今こそ、この国を正しく導く必要がある。陛下が戻ってきた、その時のために」

「その心意気じゃよアレックス将軍」

 

 宰相は内心で胸を撫でおろした。


 コーニーリアスは国王のことがあまり好きではなかった。


 彼は善人ではあるが決断力に欠ける人物だった。それゆえにモーガンのような奸臣を制御できず、いたずらに国力を低下させた。

 ある意味で戦犯。一般人ならば許されるが、国王としては悪ですらあった。


 ――というのが、コーニーリアスの考えである。

 むしろ国王がいなくなってくれて喜ばしいとすら思っている。捜索は行っているが、戻って来ないことを願うばかりだ。


 アレックス国王のもとに、この国はもっと良くなる。

 まだ見ぬ明るい未来に向けて、二人は一歩を踏み出したのだった。 



 こうして、モーガンの死と国王の行方不明が国民に発表された。

 暫定的な処置として、アレックス将軍が代理の国王として国をまとめることとなった。

 


 カラン砂漠中央部、旧アースバイン帝国遺跡にて。

 水の不死王、バルトメウスは秘儀〈水蘇生陣〉を使いアースバインの英霊たちを蘇らせた。


「アースバイン大将軍、クレアよ!」

「アースバイン筆頭錬金術師、シャリーです」


 英霊たちの中で二人、復活後すぐに自我を保ってる少女たち。これはゴーストとして格が高いことを示しており、戦力としては非常に頼もしい限りだ。


「私の名前は不死王バルトメウス。君たちを蘇らせた魔王だよ。どうかよろしく」


 そう名乗った瞬間、クレアが剣を構えた。


「え、魔王。いいわ来なさい! このあたしが剣の錆にしてあげるわっ!」

「待ってお姉ちゃん! この人きっと悪い人じゃないわ」

「まあまあ、落ち着きたまえ君たち。まずは今おかれている状況と、我が商会についての説明を……」


 クレーメンスが何者かに倒された。

 商会の情報網によっていち早くその事実を知ったバルトメウスは驚愕した。紫の謀略王はその名に似合わず強力な魔王だからだ。バルトメウスなど足元にも及ばない、そんなレベルの強者なのである。

 クレーメンスが負けたということは、彼を倒せるほどの強者が現れたということ。そしておそらくは、魔王を快く思ってない魔族……もしくは人間。

 そんな力を持った者がいるのなら、いつバルトメウスに襲い掛かってくるか分かったものではない。


 身に迫る恐怖。

 主不在のカラン大砂漠。

 そしてその地に眠るアースバインの英霊たち。


 もはや選択肢などあって無きに等しい。アースバインの英霊たちを味方につけ、戦力を増強するのだ。



 未だクレーメンスがオリビアに襲われていない、そんなタイミング。

 前回の世界と比べ、半年以上前倒しの展開であった。


ちょっと長くなりそうなため前後編分け。

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