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謀略王軍、攻略

 ムーア領西方、平原にて。


 俺は近くの茂みの中にいた。


「せ、先輩……」


 後ろにいるのは、藤堂君と冒険者20人ぐらい。俺がギルドを通して募集した人員だ。


「事前に話をした通りだ。俺はこれからあいつらを倒す」


 そう言って俺が指さしたのは、茂みの外、平原の先に群れている魔物たち。

 紫の謀略王、クレーメンス軍。

 距離を取っているためこちらに気が付いていない。進行方向も俺たちを横切るように進んでいるため、このままここに留まっていれば接触することはないだろう。


 モーガンがかき集めた討伐軍。彼らがこのクレーメンス軍と衝突するまで……残り三日。

 創世神が記したフローチャートが示す未来。この謀略王軍と討伐軍が接触すれば、ろくなことにならない。俺のように捕まることもあれば、そのまま殺されることもある。

 無視すれば討伐軍は敗北。国力が低下して、そのまま軍がグルガンドに流れ込む。

 

 後ろでは、クレーメンス軍を見た冒険者たちが騒いでいる。


「あ、頭おかしいんじゃねーのかあんた?」

「おい馬鹿、余計なこと言うなよ。俺たちゃ料金分だけ働けばいいんだ」

「いいか、俺らはここから動かねーぞ。こっちに魔物が来たら逃げるからな! 絶対だからな!」


 ギルドに金を積んで集めてもらった冒険者。ある程度は有能な者たちなのだが、完全に怖気づいてしまっている。

 彼らを責めるつもりはない。なんせ謀略王軍は2000を軽く超えているのに、こっちは20人だ。誰がどう見ても挑発するのは狂気の沙汰としか思えない。


「問題ない。ここで俺が言った通りにしてくれればいい。命の危険があると思ったら、すぐに逃げてくれ。それは織り込み済みだ」

「先輩、ホントにやるんですか?」

「ああ……」

 

 俺は藤堂君の頭を軽く叩いた。


「じゃあ、行ってくる。頼んだぞ」


 スキル、〈大精霊の加護〉により風精霊シルフの支援を受けた俺。

 

「頼むぞ」

〝いっくよー〟


 速い。

 風を切る音は嘶くように。ジェットコースターか何かのように、視界がすぐに移り変わっていく。

 眼前には魔物がいる。


 魔王に下った紫の悪魔、パープルデーモン。

 闇魔法の使い手、ダークエルフ。

 男の精を吸い取る淫魔、サキュバス。

 暗い影の形をした騎士、シャドーナイト。


 よく見ればイービルアイや妖猫なんかもいる。とにかくいろいろな種類の魔物が群れを成し、武器をもって行軍している。

 平原をただ一人走り抜ける俺に、何匹かの魔物が気づいたらしい。指をさし、他の魔物たちへと声をかけている。

 いずれも皆、俺のことを馬鹿にしている。

 一人で? 馬鹿か? 気でも狂ってるんじゃないか? 囮か? 様々な声が届いてきた。


 いいだろう。

 馬鹿でも囮でもない、俺のお前たちを倒す、その証明をしてやるよ。


 俺は飛んだ。


 つい先日手に入れた魔具、〈跳躍の靴〉とシルフの風支援を受けたそのジャンプは、もはや羽を持っているに等しいほどのものだった。

 跳躍時間――約20秒。

 高く、それでいて空中に留まり続ける俺を見て、魔物たちが呆気に取られている。

 この、瞬間。


「いけええええええええええええええええっ!」


 まずは一陣目。

 茂みに控えていた藤堂君と冒険者たちが、一斉に剣を振るった。


「「「〈大地の王〉!」」」


 瞬間、地が爆ぜた。

 まるで地面に埋め込まれていた地雷が一斉に起爆したかのように、平らな平原は崩壊した。

 大地系強スキル、〈大地の王〉レベル1000が起動したのだ。冒険者たちには藤堂君と同じようにスキル付きの剣を配ってある。これを一斉に放ったのだから、ただでさえ広いその効果範囲は、軍の大半に及ぶほどになっていた。


「あああああああああああああああああああああああああああああ」

「ひ、ひぃ、助け……」

「こんな……馬鹿な……」


 多くの魔物が岩盤や土の塊に埋もれていった。即死、あるいは呻き声を上げているものも多数。


 俺はゆっくりとデコボコになった地面へと着地する。


 謀略王軍は動揺した。

 だが〈大地の王〉は地面を攻撃するスキルだ。空に舞っている魔物たちを倒すことはできていない。


 俺は〈大地の王〉によって隆起した地面の一部を駆けあがり、飛んだ。目指すは、空に残る魔物たち。


「あの人間よっ!」

「殺せっ! 殺せっ」


 近くにいたハーピーが一斉に俺へと迫ってきた。

 俺はガントレットを外し、素肌を露出する。


「う……」

「な、何これ」

「う……うう……うぇ……」


 ハーピーやサキュバスが明らかに苦しんでいる。俺の〈モテない〉スキルにあてられているのだ。

 俺は切った。弱っている女魔族や、五体満足のまま迫ってくる他の魔族も同様に切り伏せた。


「サラマンダー!」

〝いい、これ貸しだからね?〟


 サラマンダーの力を借りて、炎を出現させる。三つの火柱が、雲を目指し上っていった。

 これは、合図。


「「「〈大地の王〉っ!」」」


 二撃目。

 事前に取り決めた、〈大地の王〉を放てという合図。冒険者たちが逃げてなくて助かった。

 再び地面を襲う脅威に、魔族たちは抗うことができなかった。一撃目で偶然にも無事だった奴も、再び地面の中へと埋もれていく。


 魔王クレーメンス軍はもはや軍の体を成していなかった。空中へと浮かぶ翼持ちは俺が狩り、地面を動き回る影はまばら。

 もう目に見えて数が少ない。

 やはり、こいつらはイルマ軍に比べて弱すぎる。

 グルガンド王国の討伐軍だって、精霊剣を持っていたら余裕で対応できただろう。そもそも前回の世界でも、力王軍が攻めてこなければなんとか勝っていたのだから。


 勝利は目前、というところで新たな敵が現れた。

 一体のヴァンパイアが、俺の前に立ちふさがったのだ。


「キェキェ、我が名はモール。クレーメンス様に仕える幹部の一人っ!」


 こいつか。

 あの軍を率いていたのが、まさかこのヴァンパイアだったとはな。ムーア領に攻め込んできた時のことを思い出す。


「あのお方が預けてくださった軍。信頼を裏切ることになってしまい、本当に残念でならない。かくなる上は、元凶たる貴様の首を持って詫びるのみだ」

「信頼、ね」


 俺はモールの爪を受けながら、彼に声をかける。


「お前、あのクレーメンスが本当に信頼してると思ってるのか? 卑怯で、姑息で、猜疑心の塊みたいなあいつがさ?」

「キェッキェッ、何の話だ?」

「近くには魔王イルマ軍がいるんだぞ? 巻き添えくらって殺されてしまうかもしれないとは思わなかったのか?」

「我の強さを信頼してのことっ!」


 おめでたい奴だな。身の程知らずが……。

 こういう扱いやすい奴だからこそ、クレーメンスが重宝したってことか。

 無様だな。


「お前はいざというときのための捨て駒なんだ。魔王イルマへの言い訳のため、用意された主犯格。断言してもいい、イルマに文句を言われたら、何もかもお前のせいにされる。『すまなかった魔王イルマ、すべて余の部下モールの独断』だっ! お前だってアイツの幹部を名乗るなら、少しは心当たりがあるだろう?」

「だ……黙れ黙れ黙れぇっ! 我は強者。切り捨てられるような愚か者とは違うっ!」 


 モールは翼をはためかせ、一気に距離を詰めてきた。


 対する俺は〈大精霊の加護〉によるシルフ支援を切る。

 これまでずっと、風の加護を受けてきた俺だ。跳躍時間を飛躍的に高めていたそのスキルがなくなれば、当然体は重力に従って地面へと落ちていく。


「なっ!」


 モールが驚愕に震えた。彼にして見れば、目の前の敵がいきなり地面に向かって急降下したように見えたのだろう。

 その鋭い爪が空を切る。

 そして、無防備になるその体。


「アクセル、コンバート、エクスプレッション」


 俺は間髪入れず精霊剣を起動させる。

 お前に負けたことはない。前の世界でも、苦戦した記憶は全くなかった。


「さよならだ、魔族モール」


 精霊剣を構える。 


「スキル、〈風竜の牙〉レベル1000っ!」


「ギエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!」


 クレーメンス軍総大将、モールは風の刃によって真っ二つになってしまった。

 弱い。

 レベル30時代の〈風竜の牙〉でさえ対応できていた敵だ。今の強さでは話にならない程。


 俺は残った魔物たちを狩るため、さらに跳躍した。



 この日、モール率いる謀略王軍は壊滅した。

 アレックス将軍も所属する討伐軍は解散となり、王国の貴重な人材は保たれることとなった。

 突然の謀略王軍消失。それは様々な憶測を生み、人類には希望を、魔族には恐怖を与えた。


 そして―― 

 世界が……動き始める。


今回の対応話。

第4部:魔王討伐軍、激突。

第20部:魔族モールの襲来。


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