今回の俺
グルガンド王国、冒険者ギルドにて。
俺は周囲を見渡し、ある人物を探していた。
いた。
椅子に腰かけ、老齢の冒険者に自慢話をする少年。中肉中背で、簡素な剣と胸当てを身に着けている。
前回のヨウである俺と対を成す存在。
――今回のヨウ。
「こんにちは」
俺が声をかけると、ヨウはこちらを向いた。
「君、ヨウ君って言うんだよな? 最近爆発系スキルを使って活躍中って話じゃないか。少し込み入った話があるんだけど、聞いて……」
会話を止める気はなかった。
だが俺は気が付いてしまった。彼の後ろ、壁のあたりに存在する……異常な光景を。
壁に生えた目玉が、ぎょろり、とこちらを見ていたのだ。その隣には、これもまた耳のようなものが生えている。
魔具、〈王の目〉、〈王の耳〉。
間違いない、ヤツの監視魔具だ。
魔王カルステン。
まだオリビアが覚醒するのは遥か先。冒険者ギルドに出入りしていた時期に……こうして奴の影響を身近に感じることになるとはな……。
今にして思えば、思い当たることがいくつもある。
俺とカルステンが初めて出会ったあの時、奴はすでに俺が〈モテない〉スキルを持っていることに気が付いていた。俺のことを注意深く監視していなければ得られない知識だ。
グルガンド王国には国王クレーメンスがいる。そして紫の魔王は、最初にオリビアが襲撃することになる相手だ。この国は奴にとって、極めて重要な場所。自然と監視の目も多くなるのだろう。
前回の世界で、俺はかなり活躍していた。冒険者ギルドで有名になったときか、領主に任命されたときか、それともイルマとかかわりを持ったときかは分からないが、いずれかの時点で俺はカルステンの監視網に引っかかってしまったらしい。
「…………」
ぶちっ、と俺はグロテスクな目と耳を踏み潰した。
むろん、頻繁にこの周囲の〈王の目〉〈王の耳〉を潰してしまえば、奴に怪しまれてしまうだろう。だが一個や二個なら問題ない。この監視系スキルは、外部からの攻撃に弱いのだ。カルステンの記憶の中でも、何度か偶然潰されてしまったのを見たことがある。
「……なにか用ですか?」
まずい、急に会話を止めてしまったからヨウ君が訝しんでいる。
「と、とにかく、誰にも聞かれないところで話がしたい。そちらの部屋を使えるように、ギルドの人と交渉してもらえないか?」
「うーん、まあ、いいですけど」
俺のことを多少は不審に思ってるようだが、話を聞かないつもりはないらしい。ヨウ君は受付嬢に話をつけて、奥の部屋へと入っていった。
俺もそのあとに続く。
そこは、ギルドにおいてクエストの打ち合わせを行ったりするときに使われる部屋だ。周囲を見渡してみても、カルステンの監視魔具は存在しない。
よしよし、いいだろう。
「それで、話ってのは何ですか?」
「初めまして、になるのかな」
俺は自らの兜を外し、その顔を露わにした。
「へ? お、俺?」
「まあ、混乱も多いと思うが俺はお前なんだ。なんて言ったらいいんだろうな? 並行世界の俺、似た世界の俺? 前回の経験をすべて持ってる俺だから、そうだな……、ループもので時系列一周して戻ってきた俺だって思ってくれた方が分かりやすいかな?」
「ほ、ホントなんですか? ホントに、俺なんですか?」
突然、こんなことを言われて混乱が多いのだろう。ヨウ君は視線を左右に揺らし、明らかに動揺しているようだった。
「君が女神様と話して異世界から来たことも知ってる。〈ゆで卵〉スキルを使って雌の魔物を倒しまくってることも知ってる。俺はお前で、日本人なんだぞ? 好きな漫画やゲームの話でもするか?」
その言葉を聞いて、ヨウ君は深呼吸をした。心を落ち着かせているようだ。
「……そうですね。俺があなたの立場なら、今言ったようなことを口にして相手を説得しようとすると思います。その台詞、その姿、やっぱりそうなんですね。あなたは……俺なんですね?」
俺には二つの選択肢があった。
一つ目は、仮面の男と同じようにヨウを影ながら見守ること。
二つ目は、ヨウと接触して互いに協力し合うこと。
前回のヨウ、すなわち俺は前者のタイプだった。極力干渉を避け、逆境の中で育ってくれることを期待するタイプ。
対して俺は後者を選択する。この決断が吉と出るか凶と出るかは分からない。だけど、何も知らず世界の荒波に身を任せてしまった俺だから、今回のヨウに同じ思いをしてほしくなかったのだ。
「じゃあ、俺はあなたのこと先輩って呼びますから、先輩は俺のこと『藤堂君』って呼んでください」
「それが無難だな」
藤堂君、か。
苗字なら違和感ないな。中々いい呼び方だと思う。
さてと、コミュニケーションが取れるようになったところで、本題に入るか。
「藤堂君、エンチャントスキルは知ってるか?」
「武具に初めから付いてくるスキルですよね? 知ってます」
話が早いな。
俺は持っていたロングソードを机の上に置いた。例の鍛冶スキルで作り上げたものだ。
「これを君にあげるよ。スキル付きだ」
「へぇ、どんなスキルですか?」
「そいつには〈大地の王〉ってスキルが付加されてる。レベルは1000だ」
「は?」
スキル話を聞いた途端、藤堂君が固まってしまった。どうやら、けた違いのレベルに混乱してしまっているらしい。
やっと脳の処理が追いついたようだ。藤堂君は自らのスキルノートをめくって、付加スキルを確認している。
「は、はあああああああああああああああああ? 先輩、これマジでレベル1000じゃないっすか! すげぇ、ヤバイじゃないですかこれ。魔王瞬殺じゃないですか?」
うんうん、予想通りの反応。
俺やサイモンもうっきうきだったよな。あの時は自分のチートさにすごく酔ってた。
でも現実は厳しい。
「藤堂君、覚えておいた方がいい。この世界には、スキル程度じゃどうにもならないような強敵がうじゃうじゃいるんだ」
「え……? レベルマックスでも効かないんですか?」
「レベル1000のスキル100回以上使って、そのうえ二人の魔王と協力してやっと強敵を倒したこともあった。スキルなんてあって便利だなぁって程度。過信してはいけない。これ、先輩の助言な」
「……はぁ」
見るからに落ち込んでしまう藤堂君。ちょっと言い過ぎてしまったか?
「ま、まあ、それでもレベル1000はかなり役に立つ。この辺にいる魔族なら、ほとんど全員倒すことができるからな。頼りになることは保証するよ」
「ギルドなら大活躍ってことですね。すごいことには変わりない、か」
こくん、と頷く俺。
「さて。これから俺は、冒険者ギルドに一つの依頼を出す。君にはそれを手伝ってもらいたいんだ。もちろん強制じゃないし、受けてくれなくてもその武器はプレゼントする。ただ、俺は君に経験を積んでもらいたいと思っている。どうかな?」
これが本題だ。
藤堂君もそれを察したようで、深く考えるような仕草をしている。しばらく熟考ののち、彼は顔を上げた。
「分かりました。こんなすごい武器をくれた人の頼みです、断れるわけありませんよ」
「ありがとう」
まずは交渉成立だ。
「話はそれで終わりですか?」
「ああ、あと王宮には近づくな。王国の将軍とかともなるべくかかわりを持たない方がいい。あの辺は死亡フラグの塊だからな」
「ああ、なんかこの王国ヤバいですよね? モーガン? とかいうやつが悪いんですよね?」
「……うーん、まあ、そんな感じ」
詳しく説明すると長い話になるからな。ここは必要最低限だけ情報だけを渡しておこう。
モーガンが悪、という情報は間違っていないのだから。
これでファーストコンタクトは終了だ。
俺は立ち上がり、彼に手を差し出した。
「よろしくな、今回の俺」
「頼りにしてます、前回の俺」
こう言って、二人の俺たちは固い握手を交わしたのだった。
文字数370000。
ラノベ4冊分ぐらいの量ですよね。
もうなんか何も言えないですね。
4冊ラノベ読んでくださいって、ちょっとハードル高いですよね。
それでも読んでもらえるように、そしてブクマの人を裏切らいないために、納得のいく完結までは持っていくよう頑張ります。




