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粗悪な装備の男たち


 俺は未熟な鍛冶の腕で、剣と鎧を増産した。いずれも大地スキルを最高レベルで付加している。

 サイモン率いるムーア騎士団にそいつを装備させて、近隣の三魔族の拠点へと向かわせた。

 〈大地の王〉は目にもとまらぬ速さで大地を隆起させ攻撃するスキル。〈大地の鎧〉は地中の土が強固な鎧となり体に纏いつく防御スキル。いずれも最高レベルならばよほどの敵でない限り勝利できる。

 ありがとうノーム、ありがとう大地スキル。たとえこの身が筋肉ヒゲ老人に塗れようと、俺は領地のために涙を拭って剣を作ろう……。

 

 俺は戦に勝利したサイモンを執務室に呼び出した。剣や鎧がどうだったか話を聞くためだ。


「〈大地の鎧〉レベル1000もすげー威力ですわ。向かうところ敵なしでやすな」


 興奮気味のサイモンが歪な形をした兜を脱いだ。取り外すときにその歪んだ形のせいで髪の毛が引っかかったらしく、痛そうに頭を撫でている。


 ムーア領東部、シルヴァ山、カナッサ港、マリックス湿原を奪取した。

 これで鉱山や港を奪取できた。ムーア領の更なる発展が見込めるだろう。


 しかし、この〈大地の王〉というスキルは地に足のついてる魔族にしか効果がない。ハーピーのように空を飛んでいる魔族にはおそらく通用しないだろう。

 そして、あの魔王イルマやその副官を名乗っていたマティアスには効かないだろう。あのレベルになると人間のスキルでどうこうできる相手ではない。

 それにしても、イルマやマティアスはどこにいったのだろうか? 捕らえた魔族から話を聞いたところによると、少数の精鋭を連れてどこかに旅立ったらしいが。

 まあ、主不在ということで俺の領地奪還もやりやすくなっている。その辺りは助かっているがな。


 今回は事前調査を行い、目的地にいる魔族の種類を把握していた。それが功を奏し作戦は成功したが、いつまでもこの手が続けられるとは思っていない。


 不意に、執務室の扉が開かれた。 


「ヨウ殿、久しぶりだな」


 扉の奥にはあごひげを生やした中年男性が立っていた。

 護国の大将軍、アレックスだった。

 杖を使い、片足でありながら器用にソファーへと腰掛ける。おそらくは馬車を使ってきたのだろう。いずれにしても重労働である。

 サイモンが空気を読んで部屋から出ていった。あまり身分の高い人の相手をしたくないのだろう。


「アレックス将軍、処罰は大丈夫でしたか?」


 俺が領主に任命されたとき、モーガン公爵が処罰するって息巻いていたような……。


「はっはっはっ、ヨウ殿、心配するな。何も問題なかった」

「そうですか、それは何よりです」

「陛下はな、私を浮浪者の身からここまで引き上げてくれたお方なのだ。いかにモーガンといえども、私と陛下の絆を揺るがすことはできないよ」


 この人、浮浪者だったのか。大変だな……。


「それはよかったです。今日はどういった用件でこちらに?」

「ヨウ殿にこれを渡しておきたくてな」


 そう言って、アレックスは一冊の本を差し出してきた。表紙に剣を構えた男が描かれている、子供向けの絵本だ。

 勇者イルデブランドの冒険?


「いつか牢獄で話していた物語だ。あの時は話を終える前にコロシアムに連れていかれてしまったが、是非読んでもらいたいと思ってな」

「アレックス将軍……」


 心にじーんと来た。あの時のことを覚えていたんだな……。


「さて、ここに来たのはもう一つ用事があってだな……」


 声のトーンを落とす将軍。あまりいい話ではなさそうだ。


「モーガン公爵がヨウ殿を呼んでいる」


 モーガンの名を聞き、俺はわずかに緊張した。あの男が……俺を呼んでいる?


「あの男は国家に仇なす逆臣。気をつけよヨウ殿。あまりよくない話を押し付けられるかもしれない……」

「アレックス将軍、少し聞かせてくれないか? モーガン公爵がどういう人間なのかを」


 俺はモーガン公爵のことを良く知らない。その暗い容姿や俺に対する言動から、あまりいい奴ではないという印象を抱いてはいるが、具体的にこの国に対してどう悪いのかは理解していない。


「モーガンは対魔族戦争推進派なのだ」

「それだけ聞くと、悪くは聞こえないですね」

「その通り。何も私は魔王と仲良くしようと思っているわけではない。しかし奴のやり方は……あまりに稚拙過ぎる」


 俺は先の戦闘を思い出した。

 討伐軍、とは名ばかりの寄せ集めの軍隊。確かに紫の謀略王軍にはぎりぎりで勝っていたが、それも長くは続かなかったはずだ。

 上級魔族が相手では、おそらく勝利することは難しかっただろう。魔王やマティアス遭遇して、それを強く感じた。


「強引に集められた軍隊。体当たりに等しい作戦。退却すれば罪人扱い、魔族を退ければ自らの手柄。全く……何を考えているのか」

「この前の戦い、騎兵隊を両側に回して攻撃していましたよね? あれは作戦じゃないんですか?」

「あれは私の提案だ。私がいなければ、本当の意味で正面突破をさせていたらしい」


 それは……敗北確実だなきっと。


「陛下も魔族を倒すことに情熱を傾けているお方。モーガン公爵の甘言に踊らされ、無謀な戦を仕掛けていくこともしばしば……」

「アレックス将軍以外は誰も反対しないんですか?」

「もともとモーガン公爵の領土は王都の南側。引きこもって領地運営をするのが筋なのだが、今は主戦派として王国を主導する立場にある。本来文官筆頭であるコーニーリアス宰相を押し込め、自らの主張を基に強硬派の派閥を形成している。あの団体を切り崩すのは……容易ではないよ。ああ……陛下の心労を考えると心が裂けそうだ……」


 うーん。

 アレックスのおっさんには悪いが、俺には国王陛下も悪く思えてしまうんだよな。そんな悪い臣下の言葉に騙されて、無謀な戦いを繰り返してしまうなんて王失格だ。暴君とまでは言わないが、暗君と言わざるを得ない。

 ただまあ、第一の戦犯がモーガンであるのは間違いない。


「分かりました。俺はこれから王都に向かいます」

「ヨウ殿、どうかご用心を……」


 俺は王都出発に向け準備をするのだった。


4/5 キルトとかいう魔族がサイモンに殺される展開を削除。

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