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旅立ちの時

 俺はフローチャートと水晶の部屋を往復した。

 最初に入った水晶の部屋は、俺の過ごしてきた世界の記録。その周囲の部屋に置かれていた水晶は、並行世界の俺がどのような運命を辿っていったかを克明に記録していた。


 無残にもクレーメンス軍に殺された俺。圧政を敷きグルガンド王国に君臨した俺。奴隷商として多くの美女を従えていた俺。魔王の配下として世界制覇に貢献した俺。

 頭の痛くなるような俺もいた。思わず応援したくなるような俺もいた。フローチャートとは違い、水晶の映像はまるで映画を見ているかのような物語だ。時間があれば鑑賞に没頭していたいところだが、あいにくとそれほど暇ではない。


 こうして、水晶とフローチャートを見比べながら、俺は着々と準備を進めていった。

 だが、あくまで準備だ。

 俺を勝利へと導く計画が完成したわけではない。

 

 創世神曰く、この世界で過ごす時間と並行世界の時間はリンクしているらしい。俺がここで5日過ごせば俺のいた世界でも5日が過ぎ、新しいヨウがいる世界でも5日が過ぎる。

 時間を無駄にはできない。

 新しいヨウのいる世界は、まだまだ物語としては序盤。オリビア覚醒によりクレーメンスが襲われるまでは、かなり余裕がある。しかしもたもたしていれば、ヨウも王国も危険に晒してしまうこととなる。


 準備が完全に整ったとは言い難いが、このあたりが妥協点だろう。

 俺は創世神の部屋へと戻った。

 そこには創世神がいた。あいかわらず呆けた顔でぼんやりと天井を眺めている。それでいて最初のころと同じようにカッコいいマントを身に着けているわけだから、そのギャップがかなりある。

 こほん、とわざとらしく咳ばらいをした俺は、彼に話しかける。


「俺は、フローチャートや並行世界の物語を見てきた。多くのことを学び、スキルや魔具の知識も高まった」


 創世神は喋らない。だが、目線をちらりとこちらに向けたので、俺の声は届いているのだろう。


「だけど〈叡智の魔眼〉に関する記載がどこにもないんだ。そもそも歴代の藤堂陽が魔具を積極的に集めたような記述もない。このスキルは、今まで誰も持っていなかったのか?」

「君が初めてだ」


 そう、創世神オルフェウスは答えた。

 俺が、初めてなのか?


「カルステンが藤堂陽の肉体を奪うのはレアケース。そこからヨウが肉体を取り戻すのは、俺の記憶にある限りでも7、8回程度。そしてそのどのパターンでも、〈叡智の魔眼〉を継承することはなかった」

「そうなのか? なんで俺だけが、あいつのスキルを……」

「思うに、君とカルステンの相性が良かったからじゃないかな?」


 少しだけ、背中に寒気を覚えたのは秘密だ。

 あの男と相性がいい。そんな事実を、誰が好き好んで喜べるだろうか?

 むしろ間違いであって欲しいくらいだ。


「彼は君のことを好意的に思っていた」

「…………」


 あいつに好かれていた?

 あまりいい気分にはなれないな。というか肉体を奪っておいて好意的とかいう話は……。

 あ、いや。むしろ好意的だったから肉体を奪ったのか?


「君も知っているとは思うが、彼はコンプレックスの塊だ。苦しむ君の姿を見て、共感を覚えていたんじゃないか?」


 奴の過去を見た俺は知っている。

 かつてカルステンは、己の醜く弱い体を嫌悪していた。魔具を集め、己の肉体を転移させて以後も、イービルアイ時代に培った劣等感は消えてない。彼の行動や思考に決定的な影響を与えていたといっても過言ではない。


 周りから嫌悪される〈モテない〉スキル。己の無力さに涙を流す姿。愛する人を失う悲しみ。

 なるほどな、カルステンと共通する部分がないわけではない。過去に、俺の姿を重ねた……のか?

 

 複雑な気分だ。


「皮肉なものだな。魔具を集め、王国を作り、神をも殺せる魔法を生み出したあいつが、いまだ劣等感を抱いてるだなんて」

「魂に刻まれた性質というものは、そう変わるものではない。カルステンはどこまでいってもカルステンなのさ」

「…………」


 あの男は〈グラファイト〉の参加者。再び強大な敵として俺の前に立ちふさがるだろう。

 今度こそ、俺の手であいつに止めを刺してみせる。

 

 万全とは言えないが、準備は整った。

 何をどうすればいいか、進むべき道は示された。自分のやるべきことも、ある程度算段がついている。

 いよいよ、始まりの時が来たのだ。


「俺は新しい世界に行ってくる」

「そうか」


 新たなヨウがいる異世界。俺は『前回の俺』として、その地に降り立つ。

 俺の決意宣言などまったく意に介さず、創世神は気力を削ぐような力の抜けた口調で話を始めた。


「期待はしてない。応援もしていない。まあ俺は、暇つぶしに君の様子を眺めていることにするか」

「十分だ。じゃあな」


 ここに戻ってくることは可能らしいが、創世神が答えてくれる気配はなかった。

 困ったものだ。もう少しやる気を取り戻していたら、なんとかなったんだろうがな。

 他人に頼っていても仕方ない。俺は俺のやれることをやろう。


 こうして、俺は創世神の部屋を後にした。


いいんです。ポイント高くなくても、ただここに作品を投稿して皆さんに見てもらえばそれだけで……それだけで……


――ポイントが、欲しいか?


なんだっ、急に頭に声が!


――我は闇、貴様の心の闇だ。


いかん、俺の魂が侵食され……う……うう……うあわああああああああああああああああああああああああああっ!


…………。

……評価ヲ、オ待ちしてオリまス。


4/5 この空間に戻る方法を聞いていないことにしました。

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