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必勝! クラーラフラグ


 疑似魔法、〈グラファイト〉の攻略法を記したフローチャート。そこに『必勝』という文字とともに強調されていたのは、クラーラフラグを呼ばれる項目だった。


「…………」


 未だ、このクラーラフラグが何なのかを俺は知らない。だけど、こう、なんとなくではあるが、薄気味悪いものを感じている。


 フローチャートの隙間には、クラーラフラグの説明文が書かれていた。そういった記述があるということは、これがかなり重要イベンドであることを示している。


 それは、物語初期で起こるイベントだ。

 平和を愛する森林王クラーラは、人と魔族が分かり合えると思っている。そんな彼女であるから、好奇心から定期的にグルガンド王国へと訪問しているらしい。

 しかし、運悪く裏路地に入ったクラーラはガラの悪い男たちに襲われる。もちろん魔王にただの人間が敵うはずがない。だが、彼女は弱い者に暴力を振るうことを嫌うため、男たちを力で退けてしまうその結果にひどく落ち込んでしまうらしい。


 ここで、前回のヨウが彼女を助けておくと、クラーラフラグというものが成立する。

 ある種の恋愛フラグに近い。彼女が初対面のヨウに対して好意的に接してくれるのだ。

 

 謀略王クレーメンスの〈降魔の剣〉、力王イルマの〈服従の首輪〉、閃光王パウルの〈魔銀の手錠〉、叡智王カルステンの〈血縛の鎖〉。どれもこれも、身に受けてしまっては行動が大きく制限されてしまう厄介な呪い系魔具。〈降魔の剣〉に至っては、死亡フラグと言い換えてしまってもいい。

 クラーラフラグを成立させると、彼女が解呪スキルを使って呪いを解いてくれるのだ。これはヨウにとってかなりのアドバンテージとなる。


 必勝! クラーラフラグ。


「…………」


 という説明書きがあった。


 じゃああれか? 俺の世界でクラーラが優しかったのは、仮面の男が事前にフラグを立ててくれていたおかげだっていうことか?

 俺は、こいつらの手の平で踊っていたのか? 俺があの子のことを死ぬ気で守りたいって思ったのも、今もなおこうして苦しんでいることも……全部全部……あいつらの……。

 瞬間、俺は弾けるように駆け出した。


 フローチャートの部屋を出た俺は、すぐさま創世神を探した。

 彼を見つけたのは、俺がこの空間に来て最初に入ったあの部屋だった。椅子に座り、ぼんやりと天井を眺めている。


「クラーラフラグって、知ってるよな?」

「…………」

「何とか言ったらどうなんだ?」


 答える気力がないのは知っている。だが、俺はこの質問の答えが知りたいのだ。是が非でも言ってもらう。


「……たとえ仕組まれた出会いでも、交し合った言葉や心に抱いた想いは本物。君は死んでいった彼女の意思まで否定するのか?」

「……急に何を?」

「こう言って慰めてやれば満足か? と聞いている」

「なっ……」


 俺はその物言いに、一瞬ではあるが怒りを爆発させそうになってしまった。満足か、だと? 

 

「君を何度慰めたと思ってるんだ? どう言えば話を聞いてくれるか、どう言えば効果的かは十分に理解している。試して欲しいのか?」


 こ……こいつ。

 もうやる気がないからって、容赦がないな。おそらくまだ真剣に〈グラファイト〉に挑んでいた時であれば、もっといいタイミングで、それでいてしっかりとした口調で今のセリフを言ったのだろう。

 過去の俺は、口車に乗せられてその気になっていたんだろうな。

 気分が悪い。


「俺を殴るか? 憎いか?」

「いや。お前に悪意がないことだけは理解してる……」


 クレーメンスみたいに高笑いしながら馬鹿にしてくるような奴だったら、それこそ神様だろうが何だろうが一発殴ってやらないと気が済まないところだった。

 結局のところ、創世神は勝利に貪欲だったのだ。だからこそ『前回の俺』を異世界へ呼び出し、フローチャートを作り水晶に映像を記録した。その情熱の反動で、今はもう落ち込んでしまっているわけだが。


 文句はある。

 不満もある。

 だが―― 


「俺にはもう、悲しんだりとか苦しんだりしてる余裕はないんだ」


 そんなことは、今まで異世界にいた時ずっと繰り返してきた。今更、気持ちだけですべてを棒に振るようなことはできない。


 確かに、クラーラの件はショックだった。

 でも起こったことは仕方ないんだ。


 俺には目標がある。そのために必要なのは、落ち込むことじゃない。

 

「慰めの言葉はいらない。少しでも俺をいたわる気持ちがあるなら、協力してほしい。それだけだ」

「…………」


 創世神は黙り込んで再び天井をぼんやりと眺め始めた。その行為に意味があるとは思えない。気持ちを落ち着かせる程度のことだろう。


 クラーラフラグ。

 これが重要であるというなら、俺自身も活用せざるを得ない。罪悪感とか、悲しみとか、そんな気持ちに捕らわれていて……あのイルマが倒せるか? カルステンを倒せるか?

 もう仮面の男はいないんだ。助けてくれるのは次の世界の藤堂陽だけ。

 俺はやる。

 必ず、この〈グラファイト〉を制してみせる。

 たとえそれが、アースバインの気分一つで水泡に帰す儚い夢だったとしても……。


他の方の小説を見てると、こー、この小説の別の可能性を想像することがあります。

 

たとえば、クラス丸ごと転移で俺だけ〈モテない〉とかいう糞スキル掴まされた! とか

たとえば、〈モテない〉スキルのおかげで領地にモテたくない魔物たちが集まって最強になってました! とか。


そういう風に書いてみても良かったですね。


※今回の話に対応する過去話。第81部分、博愛の少年

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