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創世神のパートナー


 俺……は。

 まるで暗闇の底から救い上げられるかのように、意識が覚醒する。

 そう、だ。

 俺はオリビアを倒した。そして魔王イルマに話しかけようとしたら、人造魔王に襲われて殺されてしまったんだ。

 アンデッドとしての二度目の死。それはもはや抗うことのできない事実。


 ここは地獄、か? それとも、天国か?


 俺はゆっくりと体を起こした。

 目を開けると、周囲が暗闇に覆われていることに気が付いた。しかし上下の感覚がないわけではなく、起き上がるということは確かに床が存在してるということ。

 黒い空間には白っぽい板のような床が浮いていて、どうやら俺はそこに寝転がっていたらしい。


「なんなんだ……ここは」


 俺はゆっくりとその白い床を歩いた。床は一方向にだけ伸びており、他に選択肢もないためそこを進んでいく。

 しばらく進んでいくと、白い床は階段のようになっていた。

 ゆっくりと上っていくと、白いドアのようなものが見える。ドアだけが浮いている。

 

 目の前に現れたドアを、そっと開けた。

 すると、ドアだけであったはずのその奥は、どこかの部屋に繋がっていた。

 部屋だ。

 これまでの黒い空間とは一線を画す、落ち着いた感じの部屋だった。いくつかの調度品によって彩られ、壁の色はシックな高級木材の色をしている。

 

 木製の椅子には、一人の男が座っていた。美しい金髪と引き締まった肉体を持つ美男子。威厳あるマントを身に着けている。

 俺はこの男を知っている。


「あ……あんたは……創世神?」


 かつてカルステンが魔王に就任した時、目の前に現れた男。自らを創世神オルフェウスと名乗り、奴に橙糸を授けていた。

 あの時は神に相応しいオーラを感じることができた。でも、今のこいつは目が虚ろで覇気がない。とてもあの時の男と同一人物とは思えなかった。


「……負けた」


 ぼそり、とそう呟いた。独り言のようだ。


「負けた……負けてしまった。ベストだったはずなのに、今度こそ決着だと思ったのに。これはなんだ、何かの間違いか?」

「お、おい……」

「負けた、負けた負けた負けた。もう終わりだ……終わりなんだ」


 ぶつぶつと、まるで幻覚でも見ているかのように独り言を発する男。

 俺は声をかけることができなかった。尋常でなくショックを受けているように見える神に、一体どんな言葉をかければいいのだろうか?


 俺はかける言葉もないまま、彼の顔を見ていた。

 創世神は瞳を一瞬だけ俺に向け、すぐに視線を戻した。こちらに気が付いていないわけじゃない。俺と話す気がない、といった感じに見える。 

 負けた、とはどういう意味だ?


「なあ、おい?」

「…………はぁ、終わりだ終わりだ……」


 一向に反応を示さない創世神。俺は彼と話すことを諦め、その場を離れることにした。


 俺が入ってきたドアとは別のドアに進む。

 ドアを開くと、また白い廊下が続いていた。


 それにしても、ここは一体何なんだろう?

 創世神がいるということは、神の世界なのか? 何となく非現実的な場所ではあるが、説明してくれる人がいなければ何の確信も持てない。

 俺は何のために、ここにやってきたんだ?


 しばらく歩くと、いくつかのドアが見えてきた。どこに入ろうかと一瞬躊躇したが、とりあえず左のドアに入ることにした。


「ここ……は」


 広い。

 おそらくは大きめの公園が丸々治まるほどの大きさを誇る部屋。机や椅子など目立ったものは置かれていない。

 ただ、特徴的なのはその床だった。白い床には所狭しと何かが書かれている。

 

 これは、なんだろう?

 いわゆる、フローチャートのような形をしたそれは、どうやら俺の入った入口付近が起点となっているらしい。膨大なその量は、まるで小さな川の流れを見ているかのようだった。


 俺はゆっくりと川の起点となる項を読んだ。


 目覚めた俺は、どこに進む?

 道なりに進む→旅の女性と遭遇。

 左の森へ進む→サラーン平原へ

 右の森へ進む→崖。

 逆の方向へ引き返す→ムーア領へ。

 

 なんだこれ。

 ゲームの攻略法か何かを、フローチャートで書いてるのか? それにしても、聞き慣れた単語が見えるぞ。

 俺はその次の項を見た。


 旅の女性と遭遇(スキル判定)。

 女性にスキルを試す→グルガンド王国へ

 女性にスキルを試さない→移動(ドラゴン遭遇フラグ)


 頬に嫌な汗が流れた。

 旅の女性?

 今はもう遠い昔のような話だが、おぼろげながらに覚えている。俺が異世界に転移して初めてスキルを試したのが、旅人風の女性じゃなかったか? 


 俺はさらにその下の項を見た。


 女戦士と腕相撲(スキル判定)

 有効スキル→勝利、金貨入手。

 無効スキル→無視、冒険者ギルドへ。

 ※(女性蔑視・自己過信)→敗北、骨折(クレーメンスDEADフラグ)

 

「こ……これは……」

 

 心臓が早鐘を打つかのように鳴り始めていた。俺は何か、とても恐ろしいことに気が付こうとしている。

 冷静になって、考えよう。


 女戦士。俺が女戦士と言われて思い出すのは、まだ異世界に転移したてのころ、腕相撲で勝ったことのあるあの女戦士だ。

 クレーメンス軍との戦闘中に殺されてしまったあの人。今でも俺の記憶に暗い影を落とす出来事だった。


 俺は初めて女戦士と腕相撲をした時を思い出す。

 あの時、俺は〈モテない〉スキルによって勝利した。

 でもたとえばさ、『女が男に勝てるわけがないっ!』とか相手を馬鹿にしてスキルなしで腕相撲してたら、他の男みたいに骨折してたんじゃないか?

 骨折したら当然冒険者ギルドは厳しい。仕事もかなり制限されて、俺が活躍することはできなくなってしまうだろう。

 もし俺が何もしなければ、グルガンド王国はクレーメンスによって占領されていただろう。ここに書かれている『クレーメンスDEAD』っていうのは、クレーメンス軍に俺が殺される可能性を示唆しているとしたら?


 背筋が凍る、というのは今みたいなことを言うのだろうか。

 俺はフローチャートをさらに確認するため、駆け出した。


 ――そこには、世界のすべてがあった。

 

 モーガンとイルマ軍を戦わせ、それを利用してクレーメンスを脅す。

 魔王バルトメウスとともに世界の富を独占する。

 クレアを人質に取り、シャリーさんの暴挙を止める。

 魔王イルマの奴隷END。

 クラーラと結婚。

 ロンバルディア神聖国で、巫女ローザリンデに勇者として祭り上げられる。

 西方大国で、女王リーザとともにクラーラと激闘を繰り広げる。 


「…………」


 俺には起こり得なかったこともいくつか存在する。だがそれは、明らかに何らかの可能性を示唆したものだった。


「創世神は、一体何を……」


 ぼそり、とつぶやくと遠くからドアを開ける音が聞こえた。はっとして振り返ると、そこには創世神が立っていた。

 俺は駆け出し、彼のもとに近づいた。


 どうやら、多少は相手をしてくれる気になったらしい。先ほどよりも幾分か顔色がよくなっている。


「……教えてくれ、これは一体なんなんだ? お前は一体、何をしてたんだ?」

「……〈グラファイト〉」


 〈グラファイト〉?

 確か、アースバイン皇帝がその単語を言っていたな。願いが叶う疑似魔法だからって、カルステンが飛びついていたのを覚えている。


「〈グラファイト〉? それは何なんだ?」

「〈グラファイト〉とは、無限の数ほどに広がる並行世界を舞台に繰り広げられる、俺たちの戦い。……長い、長い戦いだった」

「……?」


 意味が分からない。これはあれか? SF的なパラレルワールドの話をしているのか? 俺が過ごした世界以外にも同じような世界がいっぱいあって、そこで戦ってたってことか?


「勝利条件は、『自身のパートナーが7体の魔王を殺すこと』。俺は挑戦者であるカルステン、そしてアースバイン皇帝を叩き潰すつもりだった」


 7体の魔王を殺す?


「カルステンのパートナーはオリビアだった」


 なるほどな、話が読めてきた。

 カルステンは〈グラファイト〉という疑似魔法を使って死んだお姉さんを生き返らせたがっていた。そのための勝利条件が、7体の魔王を殺すことだったんだ。

 そこに自身が含まれていることはちょっと違和感があるものの、奴には肉体転移がある。そして俺の記憶でも、多くの魔王がオリビアによって倒されてしまっている。

 〈グラファイト〉とは、創世神・カルステン・アースバイン三つ巴の戦いなんだ。誰が魔王を7体殺すか? そのために争っていたんだ。


「アースバイン皇帝のパートナーは人造魔王だった。彼の時代に創り上げられた、ロルムス型、エヴァンス型、そしてイルマ型人造魔王。この三体が該当する」

 

 イルマ型人造魔王、か。

 俺が死に、イルマが死んでしまう原因となったあの人造魔王。奴はアースバインのパートナーとして戦っていたということか。


「そして創世神のパートナーとしてあてがわれたのは、特殊なスキルを持つ異世界人だった」


 特殊なスキルを持つ異世界人?

 それは……まさか……。


「つまり君のことだよ、藤堂陽君」


 創世神は俺を指さし、そう言ったのだった。


ここからがグラファイト編になります。

長い長い説明回の始まりです。

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