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イルマVSヨウ

 これが……俺の末路なのか?

 

 イルマ型人造魔王に倒されてしまった俺は、抗うこともできぬまま地面に倒れこんでいた。

 悔しいが完敗だ。体の感覚からいって、俺ももう長くないだろう。

 せっかくアンデッドになったのに、こんな結末を迎えてしまうなんて……。


 イルマ型人造魔王は、俺やイルマのことを無視してどこかに歩いて行ってしまった。もう放っておけば俺が死ぬと思われたのかもしれない。おそらく……その予想は正しいだろう。


 オリビアの死体は放置されたままだ。今の俺では、彼女を埋葬してやることすらできないだろう。

 それだけは、本当に申し訳なかった。


「……不甲斐ないな」


 近くで、声が聞こえた。

 魔王イルマだ。

 どうやら、殴り倒された先に彼女がいたらしい。そして声が聞こえるということは、彼女が生きているということ。


「最強と謳われ部下を従え領地を持つ王。その終着点がこれか。矜持も何もあったものじゃないな……」

「……お……おい」


 聞きたくなかった。

 コイツが、こんな弱音を吐いているところなんて……。

 魔王イルマは生きていた。だが、その怪我は俺が想像した通り……致命傷だったらしい。


「ふざけんなよ、お……お前、最強なんだろ? 何……らしくないこと言ってんだよ」

「…………悪いな」


 未だに、信じることができない。

 イルマ型人造魔王は魔王イルマのコピーだ。理論上の実力は互角。しかしイルマは、過去にシャリーさんが作った同種の魔王を倒しているのだ。

 今回と前回で何が違ったんだ? シャリーさんよりアースバイン皇帝の技術が上なのか? それとも、今回だけ体調が悪かったのか?

 疑問は多く残る。でも、死にゆく俺が同じく瀕死のイルマに長々と講釈を受けることは不可能だ。


「……まあ、悪くはなかった。お前に出会い、私は様々な強敵と戦う機会を得た。お前の領地に入ったここ最近は、すこぶる退屈しない日々だった。感謝しているぞ」

「……黙れよ」


 違う。

 俺はこんな結末を望んでいなかった。

 俺たちは戦うんだ。ラスボス、最後の魔王イルマと勇者ヨウの戦い。それは歴史に名を残す壮大な大戦。人間と魔族、二つのせめぎあいが頂点を迎える時。俺の異世界転移における終着点。

 その戦いは、ある種の神聖さすらある。

 それなのに……なんだよ、この結末は。


 不意に、イルマが震える手をこちらに向けてきた。


「なんだ、その手は?」

「私と戦いたかったんだろ? 力比べ、なんていうのはどうだ?」

「……っ!」


 こ、こいつ……。

 もう、腕しか動かせないのか? 万全のイルマであったら、絶対にこんなことは言わない。


 だが俺は、少しだけ感動を覚えてしまった。

 己の死を前にして、それでも俺の敵たらんとする彼女の意思を理解したからだ。


 ふっ……。

 魔王イルマは、死ぬ間際でも魔王イルマだったってことだ。

 その気持ち、受け取った。

 なら俺も、それにふさわしい態度をとることとしよう。 


「……その弱った体で、俺の握力に耐えられると思うなよ」

「ごたくは、いいから……さっさと来、い」


 ……は、はは、なんだよこれ。腕相撲かよ? 子供の遊びじゃないんだぞ? ホント、笑っちまうよな。

 俺たち、殺し合いするつもりだったんだぞ? 剣とか握って、人間を雲の上に吹き飛ばすようなパンチ繰り出してくる魔王と、死闘を演じるはずだったんだ。

 それをこんな、子供だましみたいな力比べなんて、変な笑いしか出ないぞ。


 でも……と俺は思う。

 俺は死ぬ。それはもはや抗うことのできない未来。

 イルマは、そんな俺に最後の戦いの機会を与えてくれたんだ。訳の分からない人造魔王に不意打ちをくらい殺されてしまったのではなく、魔王との闘いの果てに死ねる。そんな名誉も尊厳もある結末を用意してくれた。 

 それは……俺の勝手な詭弁なのかもしれない。イルマにそこまでの意図があるのかどうかは定かではない。

 でも、こいつは死に際においても俺との戦いを望んだ。その崇高な精神だけは、尊敬に値する。


「ぐ……ぐぐ……」


 俺だって、英雄なんだ。勇者なんだ。魔王イルマを倒して、エンディングを迎えるんだ。

 こんなところで寝転んでいるだけの終わり方が、許されるはずがないっ!


 俺は魔王イルマを愛してるわけじゃない。

 彼女が死んで悲しいわけじゃない。

 でも、それでもこんなどこの誰かも知らない人造魔王にやられて二人で野垂れ死ぬなんてまっぴらごめんだっ!


「く……そ……」


 俺はイルマに向かって手を伸ばした。

 もはやアンデッドとして二度目の死を迎えようとしているこの体。指先一つ動かすことも難しいその中で、俺は必死に腕を伸ばした。

 動けよっ!

 頼む、俺の体!  最後なんだ! これで最後なんだ! 死にゆく俺の、たった一つの些細な願い!

 

 俺たちの物語に……相応しい結末を。

 この手を……

 ほんの少しでも前にっ! 俺のラスボスは、目の前にいるんだ!


 ――俺たちは戦う。

 

 勇者ヨウ。

 魔王イルマ。


 最後にして最大の戦いが……ここで……は……じま……る…………。

 …………。

 …………。

 …………。


力王編、残り2話の投稿予定です。

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