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死の果てに


 ムーア領旧イルマ城、荒野にて。

 いくつかの瓦礫が残った荒地。かつて魔王イルマが支配していた頃とは違い、完全に打ち捨てられた土地だ。

 サイモンが土地を制圧したのちも、その状態は変わらなかった。魔王イルマとその魔族たちの力を恐れ、再開発はついぞ行われなかったのだ。

 そんな時の止まった場所だが、今は少しだけ違う。


 動きは、存在する。

 瀕死のまま息を荒げるオリビア。風に飛ばされる砂埃。空に舞う鳥と木の葉。

 そして――


 ――俺だ。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 荒野を駆け抜ける怒声。俺は剣を握りしめ立ち上がった。

 体は死んでいる。

 それは間違いない。


「残念だったなっ! お前は俺を殺した。ああ、確かに殺したよ」


 俺の剣はオリビアの腹部を貫いた。ただでさえ致命傷に近い一撃を受けていた彼女だ。今度こそその命は絶たれたはず。

 予想通り、剣を突き刺されたオリビアは抵抗らしい抵抗を示さない。


「だが俺には魔王バルトメウスから受けたアンデッド化の呪いがあったっ! 俺は……生き返ったんだっ!」


 そう。

 魔王バルトメウスの呪い。

 死後にゾンビとして生まれ変わることができる、そう言われて受けてしまったあの呪いだ。

 自分でも忘れていた。アンデッド化できるから死んでもいいとか、そんな風に思っていたわけじゃない。


「まさか、こんな形で救われるなんてな……」


 ほんと、運命とは分からないものだ。この呪いをもらったときは、その不気味さと死んだ後の不憫さを妄想して陰鬱とした気分だったのだが……。

 勝利としては、情けない結果に終わってしまった。偶然にも魔王の力を借りて……勝ってしまうなんて。


 いや、そんな文句は今更か。

 これまでだって、ずっとそうだった。

 俺一人の実力じゃない。クラーラの〈大精霊の加護〉、バルトメウス会長の呪い、シャリーさんの精霊剣。

 俺はいろいろな人に支えられて、ここまでやってきたんだ。

 ――ありがとう。


「……痛い、よ」

「オリビアか?」

 

 どうやら、死ぬ間際に正気を取り戻したらしい。この展開はかつてのループでも経験している。


「私……死ぬの?」

「ああ、そうなるな……」

「一人、で?」

「…………」

「寂しい……な」


 死は平等だ。

 ましてや、罪のない彼女であるならなおさらだ。

 だからこそ俺は、彼女に少しだけ同情してしまった。かつてループの果てに忘れてしまったような感情は、もう二度と思い出したくなかったのだが。


「……俺はゾンビになった。でも、いつかは死ぬ。誰だってそうだ。必ず……死ぬんだ」

「…………?」

「その時は、また会おう」


 俺は剣を引き抜き、そっと彼女の体を抱きしめた。


「……うん」


 そう言って、力なく俺にもたれかかるオリビア。息はない、温もりもない。鮮血と切り傷によってボロボロになった衣服や下着とは対照的に、その顔は少しだけ穏やかだった。


 魔王の天敵、オリビア死亡。


 とうとう、戦いが終わったのだ。 

 

 俺は盛大に息を吐いた。ゾンビだから呼吸しなくてもいいのかもしれないが、なんとなくそういう気分だったのだ。

 ……それにしても俺がゾンビになるとは思ってなかったな。食事をとらなくていい? 寝なくていい? でも欲求は残ってるから苦労するんだったか?

 アンデッド先輩のダニエルさんにいろいろ聞いておかないとな。あと、サイモンやアレックス国王にばれないようにしないと。

 ……ああ、そうだ。忘れたぞ。アイツのこと。


「……やけに静かだな魔王イルマ。少しは賛辞の言葉があってもいいんじゃないのか?」


 そう言って、かつて玉座があった場所に目線を移した俺は――


「は?」


 気が……付いた。

 かつて玉座だった場所に座っていたはずのイルマがいなくなっていた。そして、その下に……彼女がいた。


 魔王イルマの、死体。

 

 否、彼女が死んでいるかどうかも分からない。ただ、おびただしい量の血を流し、力なく地面に横たわっている姿は……敗者であり死者そのものだった。


「……あ……え?」


 理解が追い付かない。

 魔王イルマの側には、一人の少女が立っていた。黒いマントを身に着けた美少女であり美少年であるようなその姿は、公爵令嬢を装うようになる前のイルマと同じ格好だ。

 同じだけなのはその服だけではない。体や顔つき、そして目立つ赤い髪までそっくりそのまま。双子と言っても疑いはしないだろう。

 二人の魔王イルマ?


「まさか……お前は……」


 魔王イルマとうり二つの存在。それは……。


 瞬間、この敵はすぐさま俺に肉薄し、拳を繰り出してきた。


 避けられない。

 避けられるはずがない。

 俺はゾンビになりまだ体の扱いが慣れていない。加えて先ほどまでの戦闘によって疲労も残っているし、そもそも万全の状態だったとしてもこいつにかなうかどうかすら分からないんだ。

 とても、避けられる攻撃ではなかった。


 彼女の拳の死肉を抉り、骨を砕いた。


「人造、魔王……」


 俺が材料でシャリーさんが生み出したイルマ型人造魔王は、魔王イルマによって破壊された。

 だが、100年前に生み出されたアースバインの人造魔王が……生きていたとしたら? 


 これは……まずい。

 

 俺は血を吐いた。もちろん、ゾンビだから血を吐いても骨を砕かれてもすぐに死ぬわけじゃない。しかしゴーストとは違って、ゾンビはその死肉に依存している存在なんだ。肉体がなくなればこの世に存在できなくなる。


 加えて、この攻撃は異常だ。

 カルステンの記憶で見た、魂を揺さぶる一撃って奴だ。


 吹き飛ばされた俺は、地面に倒れこんだ。

 起き上がることはできない。それどころか、徐々に体が動かなくなっていっているような気がする。

 ……ダニエルさんに聞いたことがある。スケルトンやゾンビみたいな肉体を持つアンデッドは、死に至るときにこういう感覚を覚えるらしい。肉体から魂が離れようとしているんだ。


 この世界のアンデッドは、それほど強くないのだ。


???「ヨウ殿、私へのありがとうがありませぬぞ? 役に立つスキル強化魔具をあげた私の名前が」

??????「領主に引き立て強力な剣を与えた余へのありがとうがぬけておるぞ?」

?????「命を賭して最強スキルを授けた僕へのありがとうは?」


???&??????&?????「「「ありがとうはっ?」」」」


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[一言] オリビアがかわいそう
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