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ひよこ鑑定士俺

 魔王イルマは荒野に立っていた。

 ここはかつて、コロシアムが立てられていた彼女の居城だった。しかし、相次ぐ配下たちの反乱を力でねじ伏せているうちに、いつの間にか地形が変わり荒れた大地になってしまったのだった。

 

 反抗するのはかなりの力を持つ上級魔族。ただの人間であったのなら、瞬きする間に殺されてしまっていただろう。

 しかし彼女、赤の力王イルマは特別だ。

 その力は絶大。そもそも魔王と名の付く魔族の王たちは、いずれも強者ぞろいである。中でもイルマは青の破壊王エグムントとともに、七人の魔王中において最強と称される存在。

 要するに世界最強なのだ。

 連戦連勝、今までただの一つも黒星を得たことなどない。あの魔王たちの暗黒時代――勇者イルデブランドの時ですら、生き残ることに成功している。

 しかしいくら最強といっても、わらわらと害虫のように群がってくる小物たちを相手にしているのは煩わしいことこの上ない。

 つまりは、すごくイライラしていた。


「あの男おおおおおおおおおおおおおおっ! 絶対に許さんっ!」


 魔王イルマは大地を殴りつけた。大気は震え、地面はまるで地割れのように二つに裂ける。


「お嬢様、お気を静めください」


 隣にいるマティアスが冷静に諭す。このまま地面や森に八つ当たりされては、それこそ世界が破滅しかねないと思ったのだろう。


「マティアス、私は人間の……しかもあのような情けない男に負けたんだぞ? これが恥以外の何になる? あ……ああ……あの時のことを思い出すと、私は怒りが抑えられないんだ……」

「ご……ご安心ください。すでにあの男の居場所は把握しております。ただ一言、『殺せ』と命令していただければ、私が向かって」

「……マティアス、余計なことをするな」


 主のことを思い行動しようとしたであろうマティアスの言葉を、イルマは否定した。 


「……あの男にはもはや死すらも生ぬるい。簡単に死なれては困るのだ。そう……生まれたことを後悔するほどに……苦しめてくれる。くく、くくくくく……」


 魔王イルマの冷酷な笑みが周囲に木霊した。




「サイモン、今日の分はどうだ?」


 領主の館、客間の一室。本来ならば身分の高い客人をもてなすために使用する部屋であるが、この魔王侵略最前線の田舎都市に来たいお偉いさんなんてそうそういない。その結果、いくつかの客室は使用されないままになっていた。

 ここはそんな客室の一つ。少し埃っぽく、飾られている絵画や花瓶も少し汚れている。しかしそれと同時に、俺が今手がけている仕事に関するものも置かれていた。 


「アニキ、商会からの仕入れてきやした、頼んます」


 そう言って、サイモンは机の上にかごを置いた。

 木製のかごの上には金網が張り付けられており、その中から、ピィピィピィ、という鳴き声が聞こえる。

 赤い羽毛を持つこの子たちは、フェニックスの雛鳥である。

 フェニックスはかなり高い価値を持つ生き物。その羽や内臓は高価な薬などの材料になり、さらには観賞用として貴族たちにも人気がある。

 中でもメスの場合は、卵を産むため非常に価値が跳ね上がる。フェニックスの卵はそれだけで難病を回復する特効薬と知られているからだ。

 そう……メスの方がすごく高く売れる。しかし、雛鳥の時期はオスとメスを区別できないため、メスもそこそこ安く入手できるのだ。


「ふふふふ……」


 ここで、俺の出番ということだ。

 雛鳥を持って別の部屋の中に入る。特殊な作業を行っている、という名目でサイモンたちには見られないようにしているのだ。

 俺は雛鳥たちに手をかざした。〈モテない〉レベル956発動。 


「ピビイイイイイイイイイイイイイ」


 約半数の雛鳥ちゃんが猛烈に俺から遠ざかった。

 えっと、こいつらがメスで……残った奴がオス……と。

 俺は分かりやすいように雛鳥にインクをこすり付けていく。

 いや……すまない、フェニックスの小鳥ちゃん(メス)。人間がどんな反応をするか分かり切ってるから、大変申し訳なくなってしまう。吐きたくなったりしてるんだろうなぁ。

 

「終わったぞ」


 俺は部屋から出た。オスとメスを振り分けたかごをサイモンに渡す。


「アニキ、俺にはまったくわかんねぇでやすわ。どうすれば見分けれるんで?」

「……さあな」


 スキルは秘密。絶対に教えられないし、仮に教えたとしても他の人間がスキルを使えるようになるわけじゃないから、このごまかし方でいいのだ。……っていうか『魔王の呪い』とかいう病気が俺のせいだってばれちゃまずいからな。


 というわけで俺、ひよこ鑑定士みたいな仕事をしているのだった……。あとは選別したオスを行商人に売りつけ、成長したメスたちを売ればさらに利益が出る。

 しかし、それだけでは終わらない。この恐るべきスキルの更なる活用法……それは。


「あ、アニキ、そういえばこの前のタマゴの……」

「おお、そういえばそろそろだったな。見せてもらえるか?」


 サイモンは部屋の棚から虫かごを取り出した。かごの中でうごめいているのは……虫だった。

 マダラカブト、というこの虫はカブト虫の一種である。これが今、俺の手がけている商品の一つだ。

 この虫、オスがメスを引き付けるため、背中に特殊な模様のついた羽を作り出す。その羽が愛好家たちの間で評判であり、隣国では高値で取引されているらしい。

 しかしそもそもこの個体、ひたすらにオスが少ないのだ。だからこそ、俺の出番というわけだ。


「すげえええええええ、アニキ、全部オスでやすわ!」


 俺のスキルは受精してすぐの卵に影響し、なななんと、オス化させてしまうらしい。現に今、俺がスキルを当てたマダラカブトの卵は、すべてオスになってしまっている。

 じゃあ人間の子供にまで影響しちゃうの? とか恐ろしい懸念が生まれたのだが、どうやらそこまで俺の力は及んでいないらしい。

 どうも、人間……というか哺乳類みたいに腹の中にいる生き物には効果を発揮しないようだ。もちろん、母体の女性はスキルのせいで苦しんでしまうのだが……。

 

 ふふ……ふふふふ、潤ってきたじゃないか、俺の領地。地味ではあるが、確実に収入が増えている。


 商品を求めて行商人たちの往来が活発化し、商業的にも多少は豊かになった。これは俺がこの〈モテない〉スキルを使って多種多様な生産物を生み出したこととは別に、もう一つ理由が存在する。

 なんでこうなったのかは不明だが、最近、この領地が魔王軍に攻められることはまったくなかった。俺が魔王イルマを追い払ったことが影響してるのか?

 おそらく、成り上がり者の俺が簡単に領主として任命されたのも近くの魔王領が関係しているのかもしれない。危険な土地だから誰も行きたがらない、どうせすぐ死ぬだろうみたいなことを考えられていたとしたら……?

 ま、まあ、アレックス将軍は『ヨウ殿なら魔族を倒してくれる』とか変な期待をしていたのかもしれないが。 

 

 さてと、こうして大規模に生産物を確保することができたわけだ。時間がたてばたつほど、懐は潤っていくだろう。

 スキルもある程度そろえたし、これからは少し自由時間をとっていろいろとやってみよう。

 俺の超スキル、どこかにすごい活用法が隠されている気がする。


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