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奇岩王の誤算

このお話は別視点、敵キャラ魔王カルステンのお話です。

 僕は奇岩王マリクと対峙していた。

 魔具、〈邂逅の時計〉が起動し、世界がループしてしまったのだ。

 

 僕は〈苦毒の鎌〉を構えた。 


「か……かかか」


 相対する奇岩王は、静かに笑った。


「無駄よ、無駄。ここでわしを倒しても、世界がループし必ずや叡智王の死に収束する。わしをここまで追い詰めたその罪、贖ってもらうぞ」

「はぁ……」


 僕は盛大にため息をついた。これが呆れずにいられようか。

 この男は、何も分かっていない。

 

「君は三つのミスを犯した」


 僕は指を三本立てた。


「一つ目。自ら、その魔具を使ったこと」


 まずは、人差し指を折る。


「……?」


 奇岩王は僕が何を言っているか理解していないようだ。岩でできたその顔は表情に乏しいものの、息遣いがそう感じさせる。


「君は無自覚なんだろうけど、実はね、これまで世界はもう何度もループしてるんだ。僕は君と、何度も何度もこのやり取りをした。まあ、面倒だと思って無言のまま逃げたりしたこともあるけどね……」


 同じことを繰り返すのは、面倒で億劫だ。すでにこのやり取りを何度もしている僕にとって、それはあくびが出るぐらいに面倒なこと。

 だけど、気を抜いて殺されるわけにはいかないから、警戒は怠れないのだ。そこが余計に煩わしい。

 

 奇岩王は得心した様子で頷いた。


「か、かかか、問題あるまいて。わしの自覚、無自覚を問わず世界はループし、必ずやそなたの死に収束するであろう」


 うん、そのセリフも聞いた。そして僕は彼のこの後を知っている。

 勝ち誇っていたはずのこの男が、絶望に染まっていくその姿を。

 でも僕、そんなに性格捻くれた奴じゃないから、こいつの哀れな姿を見たいわけじゃないんだ。

 それでも、話だけはしておかないとね。


「二つ目。〈邂逅の時計〉の正しい効果を知らなかったこと」


 僕は中指を折った。

 

「知ってた? この魔具は回数制限があるんだよ?」

「……なっ!」


 ここに来て、奇岩王は明らかに狼狽を示した。


「まあ、これほどレアな魔具で使い捨てだったら、誰も知らなくて当然だよね。僕は鑑定スキルがあるから知ってるってだけで、たぶん君を含めて世界中の誰も知らないと思うよ?」

「そ……そんな、そんなことが……」

「回数は365回。たぶん一年の日数にちなんだ数だろうね」


 魔具の使用法が正しく理解されていないことは多々ある。

 副次的な効果で満足されていたり、いつの間にか使用法が忘れられお守り代わりになっていたりなど、そういった事例を僕は何度も見てきた。

 スキル、〈叡智の魔眼〉は最強だ。僕は魔具の使用法を正しく理解し、効果的に使うことができる。


「三つ目、勝利条件を、『叡智王の死』としたこと」


 僕は薬指を折った。


「まあ正直言うとね、365回って言うのはかなり面倒だった。これがね、『奇岩王の逃亡』とか『叡智王と奇岩王が同盟する』とかだったら、きっと僕もループ250回目ぐらいで妥協して条件を呑んでたと思うよ。でも僕の死が条件じゃあねぇ、死に物狂いで抗うしか道がないんじゃないかな?」


 これは奇岩王のミスだ。たとえ制限回数を知らなかったとしても、どこかで交渉できる余地を残しておくべきだった。死に物狂いで抗う敵に、時間を与えてはならなかったんだ。

 もっとも、あの時は冷静さを欠いていた様子だったから、そういった文句は酷なのかもしれないけど。


 奇岩王は意気消沈、といった様子でうつむいた。いまだ僕の言葉がすべて真実だとは思っていない様子だが、自分がある程度の失敗をしたことは何となく理解したらしい。


「相手をループさせ自分は無関係、そなたの言うことが真実であるなら、この魔具は役立たずのゴミではないかのう?」

「君は使い方を間違えたんだよ。この魔具はそう、相手が絶望するような状況を用意したり、使用者がその場を離れたりするべきなんだ。それに僕以外が相手だったら、きっと制限回数に気が付かず途中で諦めてたと思うよ? ご愁傷様」


 戦いは終わった。

 僕は365回に及ぶループを経験し、ついにこの現実世界までたどり着いた。

 こいつにとっては瞬きする間の出来事だったとしても、僕にとっては永遠とも思えるほどに……長い時間だった。


「お……」

「『お、脅しじゃ、わしを動揺させようとしておるな? 世界は必ずループする! その手には乗らんぞ叡智王っ!』」

「そ、その言葉は……まさか」

「って、言おうとしたんだよね?」


 僕は唇が吊り上がっていくのを感じた。こうして未来を先読みし、相手の言葉を正確に言い当てるのは……ちょっと愉快だ。


「感謝しているよ奇岩王。君のおかげで、僕はいろいろ知ることができた。正直なところ、時間が欲しかったんだ。どうすればお姉さんを救えるか、僕の死を回避できるか。このループの間に、様々な実験を行うことができた」


 馬鹿な男だ。

 魔具、〈邂逅の時計〉は僕が知る魔具の中で最も強力だった。この力を正しく使えば間違いなく勝利できたはずだ。

 慎重さも、運も、魔具の力を覆すだけの実力もなかった。総合的に見て、この魔王は僕より弱かったということだ。


「う……ぁ……うぐああああああああああっ!」


 奇岩王は奇声をあげながら僕に迫ってきた。体中の岩石を針に変え、そのままの勢いで僕を串刺しにしようとしている。

 これもまた、ループで経験済。


 僕は〈破滅の槍〉を構えた。この魔具は、あらゆるものを貫通する。

 岩石人間、奇岩王マリクの弱点。それは人間で言うところ心臓部分に位置する黄色いコアだ。僕は幾多のループを経て、その弱点を正確かつ完全に破壊するための攻撃タイミングとその技術を身に着けた。

 迫りくるマリクは、まるで吸い込まれるように槍と接触し、そのコアを貫かれた。


「まだ……ループが……、わしは……この次こそ」


 もう、この先はないよマリク。ここはループじゃなくて現実。君は今、この時死んだんだ。

 

 黄の奇岩王マリク死亡。


 これで、僕の家にやってきた敵は、すべて倒したことになる。

 だけど、ここで終わりじゃないことを僕は知っている。

 僕は素早くマリクだった石の塊を一掴みし、草むらに投げつけた。すると、そこにまるで氷でも張ってあったかのように、空気がひび割れてしまった。

 魔法による、姿隠し。


「やあ」

「……っ!」


 現れたのは、木の葉のような服を身に着けた一人の男だった。

 緑の隠影王クラディウス。

 木陰に隠れなら、これまでずっと僕たちの様子をうかがっていた魔王だった。


「え、叡智王さん」


 クラディウスは慌てて立ち上がった。今、このタイミングで自らの存在が晒されるとは思っていなかったのだろう。

 でもね、僕は……知ってるんだ。


「君、かわいそうな魔王だよね。完全に奇岩王の巻き添えくらっちゃって。あわよくば他の魔王を倒し、〈邂逅の時計〉を手に入れようとしてずっと機会を伺ってたんだよね?」

「え……あ、は? まさか、ループの?」

「そ」

 

 この魔王はあまり戦闘向けでなく、どちらかといえばヨハネスに近いタイプだと聞いたことがある。頭が回る方なんだ。これまでの僕たちの会話を聞き、自分の置かれている状況を理解したのだろう。


 僕はこのループで10回、この男と敵対した。戦闘力自体はさほど強くないから、戦闘になれば余裕で倒すことができる。


「でもねぇ、見逃せないんだよね。分かるよね?」

「ま、待って……」

「じゃあね、バイバイ」


 クラディウスは慌てて逃げ出そうとした。しかし、僕が〈苦毒の鎌〉を投げつける方が速い。

 運悪く、鎌の刃がクラディウスの頭部に突き刺さった。一撃で絶命。まあ仮にかすり傷だったとしても、結局は毒で死んじゃうんだけどね。


 さて……と、これで全部終わった。

 そしてループ中に、僕が必要としていた実験は滞りなく終了した。


 このままでは、お姉さんと僕が……そしてイルマが戦うことになる。僕が死に、そしてイルマがお姉さんを殺すなんて未来は最悪だ。

 僕の命を救うことはたいして難しくはない。問題はお姉さんの方だ。 

 ループで幾度となく実験をした。何度もシミュレートした。その成果を示す日は、すぐそこまで迫っている。

 タイミングを誤れば失敗する。僕は……絶対にミスできないんだ。


 さあ、始めるとしようか。 

 僕は僕自身を救い、そしてお姉さんも助けてみせる。

 運命を切り開く……その戦いを始めようっ!


気が付けば文字数が290000いくかいかないかぐらいに。

ラノベ本にして3冊分は書いている計算になるんですね。

いやぁ、途方もない数ですね。

出版して利益を得てるわけでもないのに、ここまでやれてしまうとは。

なんだか感動です。


……まあ、よく考えてみれば今まで新人賞に応募してきた落選小説20冊分以上ぐらいありますけどね。

改稿合わせたらもっといきますけどね(´・ω・`)

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