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奇岩王の奇策

このお話は別視点、敵キャラ魔王カルステンのお話です。

 叡智王カルステン。

 奇岩王マリク。

 二魔王の戦いが、お姉さんの家で始まった。


「――〈黄土龍神〉」


 突如、マリクの足元が盛り上がった。

 おびただしい量の土砂がまるで生きているかのように隆起し、マリクを乗せて空高く舞い上がっていく。

 その姿はさながら巨大な龍。それに跨るマリクは、例えるなら竜騎士のような風格がある。


 マリクの魔法か。


「叡智王、その名に似合わず愚かな魔王じゃったのう」


 土砂の龍は固く削られた岩石の牙をむき出しにしながら、僕のもとへと突撃してきた。〈跳躍の靴〉によって強化された僕の脚力は、その攻撃を難なく回避する。


「……」

 

 あれは、当たるとまずいな。

 魔具、〈断絶の鎧〉はスキルを無効化するものの、魔法や物理攻撃には対応していない。現存のあらゆる鎧に匹敵する強さを誇っているが、所詮はそこまでだ。魔王レベルの攻撃をくらって耐えられるかというと……怪しいところ。

 ヨハネスから奪った〈苦毒の鎌〉がある。こいつをなんとかしてマリクに当てて、そのまま毒死するのを待つことにしよう。


 などと、僕はのんきに戦略を考えていた。

 だから、気が付かなかった。


 突然、周囲が暗くなったような気がした。


「……?」


 僕は空を見上げた。


 そこには、鳥がいた。

 それは鳥だった。確かに鳥だった。しかしそいつはあまりにも巨大で、その赤い羽毛がまるでマグマか何かに見えた。


 空鳥王ヘンドリック。

 僕の初撃は間違えなく決まっていた。しかし胸部を貫かれてもなお、ヘンドリックは戦闘を継続している。

 見ると、胸部の傷が焼けるように煙を発している。再生しているのだ。不死鳥の眷属は再生力が強いって聞いたことがある。おそらくは、その仲間なのだろう。

 

「ぐっ、が……」

 

 空鳥王ヘンドリックはその鋭いくちばしを僕に突き刺した。

 なすすべもなく、彼の体と一緒に空へと持ち上げられる僕。捕食寸前のカエルのように、絶望的な状況だった。


 〈断絶の鎧〉。

 〈身代わりの小石〉。

 〈身代わりの宝石〉。


 鎧は貫かれ、身代わりの魔具はすべて壊れた。もう、換算すれば何度も死んでいる状態なのだ。身代わりの効果もここに至れば無意味。

 僕が保有する防御系の魔具をことごとく打ち砕いたヘンドリックは、その巨体を思わせない高速で空を舞っている。

 やがて、すぐに急降下を開始した。このまま地面に僕を叩きつけるつもりだろう。


 空鳥王ヘンドリック。

 奇岩王マリク。

 どちらも知略王ヨハネスとは違う、武闘派の魔王たちだ。力はイルマには及ばないものの、現存の魔族とは一線を画す実力の持ち主である。


 僕は〈隠れ倉庫〉を起動させ、〈苦毒の鎌〉を取り出した。ヘンドリックには届かない。くちばしに咥えられたこの状況では、奴の体に鎌を当てることは不可能だ。

 だから僕は、自らの体に鎌を突き刺した。

 そう、これで……いい。僕の体に、毒が回り、ヨハネスの時と……同じように……。


 ――〈反射鏡〉起動。


「グエエエエエエエエエエエエエエエエエエっ!」

 

 空鳥王ヘンドリックはおびただしい血を流して地面に墜落した。その体はひどく痙攣をおこし、目からは急速に光が失われていく。

 僕は力の弱まったヘンドリックのくちばしから脱出した。傷はない。すべて〈反射鏡〉によってなくなったからだ。


「グ……エ……エ……」


 今度こそ、ヘンドリックはその生を終えた。体に回った死に至る毒薬は、もはや僕の力をもってしてもどうしようもできないほどの劇薬。

 魔王を一体倒した……けど。

 まずいなぁ、まずいぞこれ。

 切り札の〈反射鏡〉をここで失ってしまった今、僕がマリクに抗うのは難しいかもしれない。


「ヘ……ンドリック」

 

 それは情か、はたまた魔王一人を倒した僕への警戒心か。奇岩王は微かに体を震わせたあと、土砂の龍を巧みに操りこちらへと迫ってきた。


「この裏切り者がっ!」

「裏切り? 初めから仲間だったつもりはないけど?」


 龍はその鋭い牙を僕にむき出し、突き刺そうとする。〈跳躍の靴〉ですかさず回避した僕ではあるが、別の危機はすぐそこまで迫っていた。

 

 マリクはこちらに手のひらをかざした。すると、その五つ指からイボのような突起が生まれ、まるで鋭い針のように急速に隆起しながらこちらへと伸びてきた。

 体の一部を針に変え、僕の体を串刺しにするつもりか。

 でも、好都合だ。

 体の一部、ならね。


「終わりだよ」


 僕は〈苦毒の鎌〉で針を切り裂いた。岩石人間である奇岩王であるから、この針を伝って奴自身に毒が回っていくはず。


「これ……は」


 異常を察知したらしいマリクは、すぐさま針を生み出した右手を己の手刀によって切り捨てた。

 かたん、と落ちる右手。再生する気配はない。


 魔具、〈苦毒の鎌〉のレベルは高い。この毒から逃れることは、いかに魔王といえど難しいだろう。

 だからこそ、マリクは体の一部を切断した。適切な判断だ。

 厄介な相手だな。


 だけど、右手を使えなくしたのは大きい。岩石、ということもあり再生力の強い種族ではないらしく、その手が再び蘇る気配はない。

 慎重に戦えば、おそらくは勝つことができるだろう。


「降参したら? 楽に殺してあげるよ?」

「……か、かかか、か」


 奇岩王マリクは笑う。

 その笑いは、追い詰められてはいるが絶望しているようには聞こえない。


「そなたが悪いのじゃよ、叡智王。わしをここまで追い詰め……死を覚悟させてしまったのじゃからのう」


 不気味な静けさが場を支配する中、マリクは懐からあるものを取り出した。

 懐中時計に見えるそれは……そう。

 魔具、〈邂逅の時計〉。

 まっ、まさかっ!


「し、しまったっ!」


 僕は〈跳躍の靴〉でマリクに飛びかかった。

 まずい、その魔具はお姉さんに使うつもりじゃなかったのか? 追い詰めすぎてしまったか?


「遅いっ!」


 しかし、魔具によって強化された僕の脚力を用いても、マリクには届かない。


「魔具、〈邂逅の時計〉起動。脱出キーは『叡智王の死』っ!」


 なんて、ことを……。

 僕の死を脱出条件にして、ループを起動させるなんて……そんな……。

 

 魔具、〈邂逅の時計〉起動。

 世界のループが始まった。


え? ループ? 長くなりすぎでは?

そう思われたかもしれませんが、この戦いはさほど長く続きません。

だだだだだ、大丈夫です。

カルステン過去編はほどほどに……。

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