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男だけの館


 領主の館、執務室。いくつもの書類や本棚、申し訳ない程度の調度品に囲まれた……少しだけ広い部屋。ここが領主としての俺の私室になっている。


 俺はいつも鎧を身に着けているわけじゃないんだ。

 お風呂だって入るし、着替えだってする。あと鎧って蒸れるから、どうしても外したくなってしまうのです。

 今までは気がつかなかったが、この〈モテない〉レベル956は服を脱いだ状態で射程距離がなんと10メートルにも広がってしまう。この領主の館にいたメイドたちはそれを喰らってほぼ全滅。ついでの隣の建物である貴族の館も女の子全滅。

 俺が魔王を退けた、という話からなのだろうか、『魔王の呪い』という噂が立ってしまった。

 

 気がついたらこの館、男しかいなくなってたのね。

 あれ? 美少女メイドは? 美少女奴隷は? 美少女秘書は?

 『魔王の呪い』とか言われて俺のせいにならなかったことが唯一の救いか。

 ま……まあ、館の中男だけでも全然問題なく回るし。領主ならかわいい男の娘だってよりどりみどり。あっははははは、何も困るところなんてないじゃないか。

 

 男だけ、ムーア領領主の館。始まりますっ!


 …………。

 …………。

 …………。

 うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!

 なんだよ『始まります』って、始まるなよっ! 嫌だあああああっ! なんだこれなんだこれなんだこれえええええっ! 


 魔王を追い払っていい気になってたけど、やっぱりこのスキルは駄目だ。いずれ抑える方法を探しておかないと、一生女の子に触れられないぞ。

 ……まあ、今の時点ではどうしようもないから後回し以外に方法がないんだがな。


 ムーア領はかなり広い。

 この名のとおり、かつてはムーア公爵が支配していたらしいこの土地は、魔族との戦乱によって領主不在の状態へと陥ってしまった。

 今回俺はここの領主になったわけだが、魔王たちのせいで実質的な支配領域は限られている。

 つまり俺が今もっともやるべきなのは、強力な軍を育成し魔王軍を食い止めること。すでにアレックス将軍から兵士を集める許可はもらっている。

 だが、そもそもこんな人口の少ない土地で徴兵なんてできるわけがない。というか仮に兵士を集めたとしてもスキル付きの武器や防具も買ってやれない。

 やはり金を集めて傭兵を雇ったり、王都から人材を募集したりするのが一番だろう。

 金! 金! 金! 

 ちなみにこのムーア領、鉱山やら漁場などには恵まれているものの、そこはぜーんぶ魔王軍に支配されてしまっている。今、俺が本当の意味で所有しているのは、この領主の館がある街とその周囲にある村5つ程度。人口は5000人程度といったところだろう。

 

 元の世界ではただの学生だった俺だ。金儲けの方法なんて思いつきもしなかった。


 と、とりあえずここはスキル習得という目標をもって行動することにしよう。

 この世界にはスキルという概念が存在し、普通のスキルとエンチャントスキルが存在する。


 普通のスキルは身に着けたスキルやもともと持っていたスキル。〈モテない〉がこれに当たる。

 エンチャントスキルは武具等のアイテムに付加されたスキル。俺の剣にある〈風竜の牙〉が該当する。


 スキルの多くはすでに習得条件が知られている。これを効率よく満たしていくことによって、俺は新しいスキルをゲットして強くなるのだ。

 俺は机の中から、一冊のノートを取り出す。

 スキルノート、と呼ばれるこのノートには、俺が習得しているであろうスキルを調べることができる。本人にしか使えないから、これで俺の〈モテない〉がばれる心配はない。

 

 俺はスキルノートを開いた。確か俺の記憶が正しければ、すでに〈戦女神の加護〉の習得条件を満たしているはず。


 ヨウ・トウドウ。

 〈モテない〉レベル956。

 〈戦女神の加護〉レベル1。


 エンチャントスキル。

 〈風竜の牙〉レベル30

 〈精霊の加護〉レベル50


 おお、やはり〈戦女神の加護〉をゲットしている!


 なんかこの世界、楽しいな。

 こうして俺のスキルノートどんどん埋めていくの快感だぞ。脳筋とか言われてもいいからさっさと自己鍛錬を始めよう。

 と、今まさにどう鍛錬しようかと悩んでいた時、執務室の扉が叩かれた。


「入っていいぞ」


 と、許可を出すと男たちが中に入ってきた。

 おっと、人材不足だから王都から部下の派遣を要請したんだった。アレックス将軍が便宜を図ってくれたらしい。あの人には感謝だな。


「お前……あの時の」


 やってきた部下たちの一人に見覚えがあった。俺が討伐軍に参加していた時、助けを求められたあの男だ。

 背は低く、筋肉もあまりあるようには見えない。しかし無駄に手や足を動かしているその姿は、まるで子供のように元気が溢れているように見える。

 そうか、無事に逃げることができたんだな。俺のあの時の行動は、決して無駄ではなかったんだ。


「へへ、アニキ。俺のこと覚えていやすか?」

「生きていてよかったよ。俺も頑張ったかいがあった」

「サイモンって呼んでくだせぇ。アニキに拾われた命だ、どんな命令にでも従いやすで」


 にこっと笑うサイモン。決してイケメンではないが、なんとなく見たものを陽気な気持ちにさせてくれる……そんな顔だ。


「とりあえずは皆、この領地の治安維持に当たってくれ。リーダー、というか騎士団の団長はサイモンに任命する!」

「俺でやすか?」


 あまり優秀そうには見えないが、こいつは絶対に裏切らないと思う。今のうちはこいつで問題ないだろう。


 サイモンたちは治安維持のため外に出た。

 俺はスキルを鍛えながら、金儲けの方法を考えるのだった。




 領主の館、執務室にて。

 俺はスキルノートを開いていた。


 ヨウ・トウドウ。

 ナチュラルスキル。

 〈モテない〉レベル956。

 〈戦女神の加護〉レベル1。〈創造神の加護〉レベル1。〈勇気の心〉レベル1。

 〈雷神の刃〉レベル2。〈錬金の心得〉レベル1。〈大便の極意〉レベル1。

 〈賢者の知恵〉レベル1。〈清掃の心〉レベル4、〈炎王の剣〉レベル2。

 〈鍛冶の技能〉レベル2。


 エンチャントスキル。

 〈風竜の牙〉レベル30

 〈精霊の加護〉レベル50


 この世界は……楽しい!

 スキルを覚えていくことが快感すぎる。一度取得したら、もう忘れることなくずっと俺の体に残る能力だからな。便利じゃないはずがない。

 冒険者ギルドにいたころは、女の子魔族を倒すことばっかりに頭がいってて、スキルなんて呪いの言葉か何かと思っていたぐらいだ。しかし、こうしていろいろと触れてみると……意外に使える。


 いやー、成長して嬉しい嬉しい。

 そういえば、武器とか防具とかも替えた方がいいかな? 一応領主になったんだから、武具を……。

 領主としての仕事続きですっかり忘れていたけど、王様から剣をもらってたんだ。俺の〈風竜の牙〉付ロングソードよりも、あっちの方が切れ味よさそうだったからな。この剣はエンチャントスキル専用にしてという手も……。


「アニキ」


 部屋にサイモンが入ってきた。周囲の治安に関する報告だろう。


「今日も一通り見て回りやした。問題ねぇでさぁ」


 そう言ってにっこりと笑ったサイモンは、パリパリパリ、と手に持っていた何かを食している。

 なんだこいつ。なんか干物みたいな黒い塊食ってるぞ。


「お前何食ってんの?」

「サトキの干物っすよ。村の人が土産にくれて……」

「…………」


 いや、そのサトキとかいう異世界の魚がお土産なのはわかる。しかしこの厳粛な執務室の報告時に食べるものではないだろう。なんというか、あまり礼儀やマナーにこだわらない奴なんだな……きっと。


「あ、アニキも食べやすか?」

「……お、おう」


 パリパリパリ。


「あ、あれ、この魚……美味しいな。おまえ、結構いいもの食ってるじゃないか」

「アニキが食ったのはオスの魚ですぁ。メスは卵に栄養がいってるもんで、あんまりうまくねーんですわ」

「へぇ、俺ラッキーだったな」


 パリパリパリ。

 俺……何してるんだろ。金を集めて領地の私兵を募らないといけないのに……。

 それにしてもメスか、メス……メス……メス……。


 ぴこーん。


 と、この時閃いた。

 俺は今まで、このスキル――〈モテない〉レベル956を主に女の子を苦しめるために使ってきた。魔物討伐クエストがその最たる例だ。

 だがちょっと待って欲しい。そーいえばこのスキル、メスが逃げ出したりめしべが枯れたりしてたよな? 動物の中にはオスだけやたら高い値で取引されたりするものだってあるし、植物の果実部分に毒があるから葉の部分だけ欲しいみたいなこともある。

 俺は領主だ。この広い領地には牧場だって畑だって漁場だってある。俺のスキルを使えば、効率よく高価な収穫物を得られるようになるんじゃないか?

 ……試してみる価値はあるかもしれない。



4/19 タイトル変更。文章も男だけの街から男だけの館になるよう変更。

6/18 配下に金儲けを頼む話を削除

6/27 ナチュラル・ランスキルの設定を削除。普通のスキルに統合。

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