プロローグ
川辺に、俺と彼女の二人がいる。
俺の通っている学校の近くにあるこの川辺は、微妙に草木が生い茂っていることもあり人が少ない。放課後の今日、俺が彼女をここに呼び出したのだ。
彼女とは教室で席が隣同士ということもあり、すぐに仲良くなった。好きな漫画の話で盛り上がったり、時々一緒に駅前で飯食ったりしてそして……。
俺が惚れちゃったわけだ。
「藤堂君、こんなところに呼び出して何の用?」
彼女が不思議そうにこちらを見た。何の要件とも伝えていなかったから、当然の反応か。
「……あ、あの……」
舌がまごついた。言わなければならないことがある。今日、そのために彼女をここに呼び出したんだ。でも、いざ目の前にしてしまうと……心が躊躇してしまう。
でも俺は……勇気を振り絞って声を上げた。
「俺と付き合ってくださいっ!」
俺――藤堂陽は頭を下げた。
やった、言えた。
まだ何も話を聞いていないのに、わずかな達成感が俺の心を満たした。一歩踏み出す勇気を出せたことが嬉しかったのだ。
俺は頭を上げ、彼女の顔を見た。
「藤堂君とは話してて楽しいとは思うよ。でもね、そーいうのはなんか違うかなーって」
頬をかき、照れくさそうにはにかんだ笑顔を浮かべる彼女の姿が……心に突き刺さった。
「ごめんっ!」
と、謝られる。
俺は……ふられたのだった。
頭がふらふらした。今日、これまで仲良く話をしてたこと、手を繋いだこと、アイスで間接キスをしたこと、一緒にテスト勉強をしてたこと、いろんな思い出がぐちゃぐちゃのシチューみたいに頭の中で混ざり合った。
「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおっ!」
俺は叫んだ。叫びながら川岸を走った。途中で転んだが見事一回転して体勢を立て直す。
すごいっ! 我ながら見事なバランス感覚だ。体操選手になれるかもしれない。
なんて自画自賛しながら彼女から遠ざかろうとさらに加速して……。
え?
突然、視界が変化した。
俺は確かに学校近くの川辺にいたはずだ。それなのに、今、俺がいる場所は何もない空間。本当に何もない。真っ暗な場所に浮いているかのような感覚だ。
暗闇が支配するその場所で、俺は全盲になってしまったのかと錯覚してしまう。しかし、自らの手足が見えることを確認してそれはないと判断した。
「どうやら異世界転移が起きてしまったようです」
頭上から声が聞こえる。
そこには、女神がいた。
本当に女神なのかは知らないが、西洋の物語で出てきそうな感じの女神っぽい雰囲気の女性。金髪で黒と白のドレスを身に着けており、この暗い空間においてもまるで太陽のように光り輝いている。
「あなたが夕方6時32分23秒に川辺で絶叫しながら走って転んで一回転なんて数億分の一のバグ条件をそろえてしまったからです。ホント信じられません」
どうやら、俺は異世界ワープの特殊条件を超偶然にもそろえてしまったらしい。なんだそれ? って疑問に思う前に今こうして変な空間に捕らわれてるんだから反論しようがない。
女の子に振られて茫然としていた俺の頭が、夢から覚めたように一気に冴えわたってきた。
「お、俺はこれからどうなるんだ?」
「〈アルカンシェル〉と呼ばれる異世界に転移します。あと二分後です」
つ、つまり、ここは転移の経由地で、俺はこれから異世界に転移されてしまうということだな。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺何も持ってないし、何の準備もしてないんだがっ! このまま見ず知らずの土地に放り出されたら飢え死にしちゃうかもしれないだろ。なんとかならないのか?」
事実、俺は今何も持っていない。着ているのはブレザーの制服だけで、スマホや財布が入っていたカバンはここに持ち込まれていない。つまり服と下着以外は完全に手ぶらなのだ。
カバンがあれば、たとえ見ず知らずの異世界だとしてもなんとかやっていけそうな気がしなくもない。でも、今の状態じゃ絶対に失敗する。バカでも分かる。
「そうですねー、バグは確かにこちらの不手際ではあります。お詫びと言ってはなんですが、あなたにスキルを付与します」
なぬっ、スキルとな?
こ……これは。超スキルで俺が異世界ハーレムチート無双する流れではないだろうか?
テンションが上がってきた。
俺は超スキルで大軍に立ち向かっていくんだな。魔王とか英雄とか倒しまくって、世界を救うんだな。美少女エルフとか美少女奴隷とかに囲まれて幸せに過ごすんだな。
分かってる、言わなくても分かってる。
「で、どんなスキルなんですか?」
「〈モテない〉レベル956です」
女神様にっこり。
え?
ええ?
〈モテない〉レベル956? 今、女神様は確かにそう言ったよな?
「え、何ですかこのスキル?」
「こういうスキルって、あなたの性格や行いを反映してるんですよ。ご愁傷さま」
なんじゃそらあああああああああああああああああああっ!
と俺の心の叫びが声に出る前に、異世界転移が起こったのだった。
ややシリアスとかキーワードつけておいてこれだよ。
ま、まあ長い目で見ればややシリアスということで。