小話2
沢山の方にお読みいただいて感謝でいっぱいです!
基本落ち無しのちょっとした小話ですが、よろしければご覧ください。
◆千春が大食いになった理由
※活動報告の再録です。
「千春」
朝、中学校に行こうとした私を呼び止めたおじさんが、何か大きな包みを差し出してきた。
「何これ?」
「弁当だ。千春も部活が始まっただろう? 給食では足りないと思ってな」
足りないって……明らかに給食の量を遥かに越えたお弁当なのですが。
受け取った腕にずっしりと重みが掛かる。
「こんなに食べられないよ」
「武道は体力勝負だぞ。そのくらい食べられなければ、もしいきなり敵と交戦することになった時力が持たん」
でたよ、おじさんって格闘馬鹿精神……。
しかし、おじさんの手料理は本当においしい。流石に独身歴が長いだけある。
私は素直に礼を言うことにした。少しでも食べよう。
「ありがとう」
「ああ。だが、全部食べるまでが修行だからな。お前が完食するまでうちには入れないからそのつもりで」
「え」
「無論俺もだ。千春の腹ごなしにいくらでも付き合うつもりだから安心するといい」
どん、と胸を叩いたおじさんに私が出来る選択肢はひとつだけだった。
◆姉
「あなたね!」
「は?」
俺――二宮彰が外を歩いていると、突然背後から呼び止められた。
何だ何だ、と思いつつも振り返ると、見覚えのない女の子がいた。高校生だろうか。
「あの、俺が何か……?」
「あなた最近千春お姉さまの弟分とか調子に乗ってるらしいじゃないの!」
ずびし、と人差し指を突きつけられる。
姉貴関連の人か。まったく今も昔も厄介事を持ってくる天才である。
「きいいー! 私ですら未だにお姉さまと呼ぶことを許されていないのに! ぽっと出のくせにしゃしゃり出るんじゃないわよ!」
「はあ……」
「何か言うことはないの!?」
それ以外に何を言えばいいと言うのか。……あ、本当にきいいー、なんて言う人初めて見た。
「余裕ぶっていられるのも今のうちよ、すぐに私があなたの座を奪い取ってやるんですからね!」
覚えていらっしゃい! とその女の子は走る姿も優雅に去って行った。
……嵐が去った。
(女の子は千春編でちらっと話だけ出てきた「お姉さまと呼ばせてください!」って言っていた子)
◆新しい服(若干、小話1「名前」の続き)
今日はデートだ!
昨日名前呼びに失敗した所為で、何故かデートを取り付けることが出来た。結果オーライというべきか。
服は、この前千春と買い物に行った時に選びに選んだ一品である。
「二宮君、何か言ってくれるかな……」
何度期待を裏切られようが、それでも期待してしまうというのが女心というものだ。鏡に全身を映して何度もチェックする。
……うん、このワンピースやっぱり買って良かったな。春らしい淡い色で、一目見てこれだ、とピンと来たのだ。私に似合うかは心配だったが、千春からは「これはアキもイチコロだ!」と絶賛してもらった。
おっと、時間だ。急がないと……。
さて、今日はデートだ。
昨日遠野さんから電話を貰った時に、さりげなさを装って上手くデートに誘うことができたと思う。
そして俺は今、服に着せられるという状況を実際に体感している。
「あのさあ母さん、別に普通の服でいいんだけど……」
「何言ってるの、デートよデート! あんたのいつものだらしない恰好で行ったら、相手の子が恥をかくことになるのよ」
家を出ようとした途端、見計らったかのように母さんにとっ捕まった。襟を掴まれて引き擦られるように部屋に戻されると「デートならこれを着なさい!」と真新しい服を渡されたのだ。時間に余裕があったからいいものを……全く。
なんでデートだって知ってるんだ。というかその服、いつ買ったんだ?
「あんたに彼女が出来たことなんてお見通しなんだから、こんなこともあろうかとちゃんとした服を買っておいたのよ」
母親って怖い。
準備が出来た俺を見て、母さんは満足げに頷いた。
「ほらばっちり、遠野さんだっけ? も『彰君かっこいい!』って言ってくれるわよ」
そう言われると……ちょっと期待してしまう自分がいる。確かに、あまり着慣れない服だが、鏡を見る限り結構似合っていると思う。
遠野さん、気付いてくれるだろうか。
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「……」
「……」
(二宮君、何か言ってよ!)
(遠野さん、何か言ってくれないかなあ)
(落ち無し。
二人とも、相手の恰好は可愛い、かっこいいと思っているけど、それよりもお互いに言葉待ち)
◆誤解、その後(小話1「誤解」の後の話)
「……じゃあ、あの男は別に千春と付き合っている訳じゃないんだね?」
「そうだって! もう、友達にも迷惑掛かるからそういう誤解しないでよ」
なんとかアキが彼氏だという誤解は解けたようだ。
よかったよかった。お姉ちゃんは頑張ってお前の命守ったよ。
しかし何故かおじさんはまだ納得していないような表情だ。
「だが、さっき千春は彼氏がいると言っていたな」
「げっ」
「げ、じゃない。今度ちゃんと連れてくるんだ、いいな?」
「……どうしても?」
「どうしても。それとも俺に紹介できないような人間と付き合っているというのか」
「いやいやいや、そんなこと……」
そんなこと、ありまくりです。
譲のことを頭に思い浮かべてみる。金髪のチャラい見た目で、過去に私を脅してきた組織の構成員で、複数の女を財布代わりにする男。
あ、あいつ死んだわ。
後日、私の目の前で譲が放物線を描きながら宙を舞った。
まあ、魔法がないだけまし、なのか……?
(譲は落ち担当です)




