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好きな人が中二病かもしれない  作者: とど
side:二宮彰
31/37

4

「嘘だろ……」



 合格、しただと……。


 大学の合格通知が届いた。信じられなくて何度も何度も見返し、母さんにもわざわざ読み上げてもらってようやく、合格できたんだと信じることができた。


 それでもことあるごとに夢だったんじゃないかと疑い、何度も通知を見返してしまった。

 俺は家族に伝えた後、すぐさま遠野さんに連絡した。すると一分も経たないうちにお祝いのメールが返ってくる。


 そうだ、と思い立って俺は彼女に二人の合格祝いをしようと提案した。


 バレンタインデーのお返しも済んでいないし、何よりずっと言いたかったことがあるのだから。



 俺があのシナリオを書いたということを、遠野さんにだけは伝えておきたかったのだ。








 当日、俺はやや緊張しながら「頑張ってくるのよ!」と何故か母さんに激励されて家を出た。手には可愛くラッピングされた小さな花籠がある。

 お返しに何をあげればいいか全く分からなかった俺は、女心を掴むのが十八番である裕也に相談した。 

 するとやつは、


「プレゼントって言ったら断然花だろ!」


 というやけに主観の籠った意見をくれた。しかし遠野さんの好きな物が分からなかったので、確かに花は無難な提案だ。更に、あまり大きすぎずデートの邪魔にならない持ち運びやすい物を選択した方が良い、と具体的な案まで出してくれた。



 そうか。よく考えると、デートなんだよな……。


 両想いになって初めて二人で出掛けるのだ。今までは他の……まあ主に裕也達とセットなことばかりだった。

 そう思うと更に緊張してくる。













 気を引き締めて待ち合わせ場所の公園に向かう。本当はこれから移動するなら駅で待ち合わせた方が色々と都合が良かった。だけど、今回だけはあえてこの場所を選んだのだ。


 ……いた。


 公園の入り口から中を覗くと、見慣れた女の子がベンチに座って風に吹かれていた。彼女が座っている場所は、俺がノートを置き忘れていたベンチ。



 ここから、俺と彼女の全てが始まったのだ。






「お待たせ」


 もう少しここから遠野さんを眺めていたかったけれど、待たせるのは悪いと思い歩みを再開させて声を掛けた。


「二宮君?」

「遅くなったけど、バレンタインデーのお返し」


 はい、と手に持っていた花籠を差し出す。遠野さんは暫し驚いたようにそれを眺め、そして酷く大事そうな手付きで受け取った。



「いいの? こんなに綺麗なもの」

「俺にとっては遠野さんがくれたチョコレートケーキが何よりうれしかったから」



 俺の言葉に顔を赤らめる彼女が可愛い。


 好きな子からの本命チョコに勝る贈り物はない。あの日家に帰ってから家族に散々冷やかされながら食べたケーキは最高の味だった。






「あのさ、この前言ったこと覚えてるか? 全部終わったら、話したいことがあるって」

「う、うん」

「全部終わったから、今言ってもいいか」



 そう尋ねると、彼女は緊張した面持ちでこくりと頷いた。


 俺は一度深呼吸してから、思い切って口を開く。




「この世界の創造主なんだ」







 俺があの小説を書いたこと、俺の所為で沢山の人が巻き込まれて本当のことを言うのが怖かったこと。ぽつりぽつりと話し出したものに、遠野さんは真摯に耳を傾けてくれた。



「一之瀬君は、まどか達に会えてよかったって言ってた。二宮君の物語で幸せになった人もちゃんといるんだよ」



 そうなんだろうか。……そうだと、いい。


 結局いつものように、彼女に励まされてしまった。頼ってばかりなこんな情けない俺を、好きだと言ってくれる。それにどんなに救われたか。





「……重い話はもう止めるよ。聞いてくれてありがとう」



 これからは、もっと頼れる所を見せたい。


 そう思いながら、彼女の手を引いて喫茶店へ向かおうとした。だが、遠野さんに呼び止められて足を止める。




「あ、あのさ、私、二宮君に好きって言ったの、覚えてる?」

「え、うん勿論」



 覚えていない訳がない。直後に色々大変なことになったが、遠野さんの言葉がどれだけ嬉しかったか、言葉では表せない。


 そう思ったのだが、彼女は何故か困惑気味だった。




「あの、それだけなの?」

「え?」

「え!?」


 それだけ、とはどういうことだろうか。

 何か忘れていることでもあるのか、とも思ったのだが考えても考えても一向に何も思い当らなかった。


 どんどん表情を無くしていく彼女に焦って話題を変えた所で、とうとう怒って手を振り解かれた。



「今日は帰ります!」


 呆気にとられた俺を余所に、遠野さんはさっさと公園を出て行こうとする。



 冗談じゃない、せっかく付き合って初めてのデートなのに!





 ……いや、待て。そういえば俺達ってちゃんと付き合ってるのか?

 冷静になって見ると、付き合うとかそういう言葉が出てきたことはない。というか俺、結局ちゃんと告白出来てたっけ。


 バレンタインデーの時は勢いで告白したものの魅了状態であった彼女には届かず、遠野さんに告白された時も言えたような言えなかったような……。



 もしかして、俺まだ伝えてない……?


 慌てて彼女を目で追うと僅かに後姿が見え、俺は慌てて呼び止めようとした。





「遠野さん! 俺も遠野さんが……」

「もう知りません!」




 最後まで言わせてもらえず、遠野さんはそのまま走り去ってしまった。


 追いかけないと。


 それだけが頭を巡り、一歩足を踏み出した所で――背中に衝撃が走った。




「この、にぶにぶ馬鹿男がー!」


 そんな声を聞きながら、俺は公園の砂を削りながら転がった。何が起こったのか全く分からなかった。

 何とか痛みを堪えて起き上がると、そこには仁王立ちがとても様になっている西条さんが、こちらを睨みつけている。



「アキ、いい加減にしろ」

「さ、西条さん!?」

「告白無視されて怒らない女の子がいると思ってんの?」


 見られていたのか。本当に神出鬼没な人だ。



「というか、アキって……」


 今生でその呼び方をされたことはない。だが遠い昔、俺はずっとそう呼ばれていた。

 三橋千明であった時には。



「そりゃあ分からないわよね、私もさっき確信したし。……私の前世は三橋遥。正真正銘、お前の、姉だ!」





 ……。






「は……え……あ、姉貴!?」

「そうよ!」



 頭の処理能力が限界を迎え、オーバーヒートしそうだった。


 さ、西条さんが、前世の姉貴?



 見た目は全然違う。たれ目だった目は吊り上がり、十人並みを言った男を投げたことがある容姿は、モデルとも遜色ない。だが以前も思ったことだが、偉そうな態度だとか人を食ったような表情は、姉とそっくりだった。


 それに、西条さんが姉貴だとしたら、色々と辻褄が合う。



 ……のだが、あれだけ色々知っていたことを考えると、俺の知らない所で小説を読まれていたに違いない。昔当時でも黒歴史だったノートを見つけられて朗読された恨みが蘇ってきそうだった。





「……って、今はそれどころじゃないでしょ、なんでさくに告白の返事しなかったの?」

「そ、それは……好きだって言われて浮かれて……勝手にもう付き合ってると思い込んでて」

「……あほ」



 言われなくたって俺だって分かってるさ!






「それじゃあ、行くから」

「アキ」



 早く行かないと、本当に追いつけなくなってしまう。きっと家に帰ろうとしたんだと思う。少しでも早く伝えないと。


「今度こそ、ちゃんとさくに告白するのよ。それで……」


 俺を最後に呼び止めた姉貴は、先ほど蹴り飛ばされた背中をバシン、といい音を立てて思い切り叩く。



「痛っ!!」

「とっとと幸せになりなさい!」


 激励はもっと優しくやってくれ!

 そう思いながらも、姉貴に貰った言葉が嬉しくて顔が綻んだ。



「それはこっちの台詞だ」


 今生こそ、幸せに過ごしてくれ。









 苦しい。


 全力疾走など、なかなかする機会はない。疲れてきた上、大通りに出て人が多くなった為に非常に走りづらい。遠野さんを探すのも大変になってきた頃、ようやくあの後姿を見つけることができた。


 それからは、疲れなどどこかへ行ってしまったかのように気にならなくなる。



 後少し。


 追いついた途端、飛びつくように手を掴んだ。



「にの、みやくん」

「遠野さん……」


 彼女も随分走ったのか、息が切れている。

 俺は少しだけ呼吸を整えると、ここが大通りで更に周りに大勢の人間がいることも忘れ、力いっぱい叫んだ。




「好きだ!」




これで番外編は全て終了です。

今までお付き合いいただいた皆様、本当にありがとうございました!

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