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好きな人が中二病かもしれない  作者: とど
side:二宮彰
30/37

3

 年が明けてからは怒涛の日々だった。


 年明けからすぐにセンター試験。それが終わると学期末試験。そして次々と始まる入試。

 俺の本命の大学の試験日は遅いから少しまだ余裕がある……なんて思ってはいけなかった。


 3月14日。入試案内のプリントを見て絶望した瞬間だった。

 よりにもよって、この日に試験なんて。……受かる気がしない。



 それでも自分なりに必死に勉強し、俺よりも先に試験を終えた遠野さんや、推薦が決まっていた早川さんまで親身に教えてくれた。


「咲耶が二宮君が受かりますようにって、必死に初詣で祈ってたよ」



 と早川さんからこっそりと耳打ちされて、少々複雑な気持ちになった。そこまで心配されているのか、という思いと同時に何としても受からなければ、という気持ちがごちゃまぜになる。


 ベストは尽くした。後は本番をやり切るのみだと意気込んでいた試験一時間前。けれど試験官の「終了!」という声が室内に響いた頃には、完全に意気消沈していた。




「終わった……」


 周りの「多分落ちちゃったよー」とか「全然分からなかった」というお決まりの言葉にまで少々苛立ちを覚える。



 どうせ、そんなこと言っておきながら余裕で受かってるんだろ!


 ……思わず、やつあたりしてしまいそうになった。

 迎えてくれた遠野さんを見て少々癒されながらも、ある意味これからが本番だ、とすっかり気の抜けていた体に力が入る。



 そう。予想外に入試が重なってしまったが、実は今日、俺の運命が決まってしまうのだ。


 勿論、俺が好きなのは遠野さんでまどかではない。だから裕也を裏切る理由など欠片もないのだが、どうしても世界は、俺を裏切り者にしたいらしい。





 遠野さんに好きだと言われた。


 その瞬間、世界の時間が全て停止したんではないか、というほどの衝撃を受けた。バレンタインデーの時、魅了魔法を受けた遠野さんに告白して玉砕を食らった記憶は新しい。勿論それは彼女の意思ではないことは分かっていたが、それでもかなりショックを受けたことは事実だ。


 それからじわじわと、彼女の言葉が脳内でリピート再生され、ようやく告白されたのだと理解した。嬉しさがこみ上げてきて、すぐさま返事を返そうとした時だった。

 本当に世界は理不尽だ。





「一之瀬裕也に復讐したくはないか?」


 そんなくだらないことを聞いてきたのは、相模だった。シナリオ通りと言ってしまえばその通りだが、無論流れに乗るつもりなど毛頭ない。


 だが、きっぱりと断った時、やつの反応に嫌な予感がした。



 その予感はすぐさま的中した。相模が遠野さんに魔法を掛けたのだ。多分空気を操るような、呼吸が出来なくなる魔法であることは彼女の苦しそうな姿から察した。



「やめろ! 遠野さんに手を出すな!」

「あなたは桐生に気があると思っていたんですが、乗り換えたんですか? 物好きですね。この子が苦しんでいるのは、あなたの所為なんですよ?」

「くそっ……」


 そうだ、俺が巻き込まなければこんなことにはならなかった。

 ノートを拾われた時だって、何かしら言い訳をしてごまかしてしまえば良かったのだ。俺が苦しかったなんて理由で遠野さんを何度も巻き込んで、危険な目に遭わせて。



「先ほどの言葉、撤回しますか?」

「……分かった、だから早く遠野さんを離してくれ!」


 今は後悔をしている暇はない。一瞬でも早く彼女を解放してほしくて、相模にそう訴える。打開策などない。こうなったら裏切った振りをして地下広間まで連れて行ってもらい、裕也に全てを告げてしまえば。


 抵抗したことで、監視の目はより強固になるだろう。俺が裕也を殺す気が無いと判断すれば、即座に用済みとして殺されるかもしれない。


 けれど、今はその道しかない。儀式へ向かった裕也達はここにいない。遠野さんを生かす為には、俺に意識を向けさせるしかないのだ。



 しかしその覚悟は、一瞬で途切れざるを得なかった。




「愚かな奴ら」


 刹那、目の前で勝ち誇った表情をしていた相模が吹き飛んだ。それと同時に地面に華麗に着地したのは、元クラスメイトだった。


「は……西条、さん」


 どうして彼女がここに?


 西条さんはそのまま残りの黒服と戦い、途中で乱入してきた見知らぬ青年と協力して尋常ならざる動きで、全ての敵を沈黙させた。



 いきなり訪れた静寂に我に返って遠野さんの元へ向かおうとするが、その前に魔法を使っていたと思われる青年が彼女を助け起こしてしまっていた。



「はじめまして、ハルの彼氏の東郷譲です。今後ともよろしく」

「え、はあ……」


 西条さんの、彼氏か。

 先を越されたことに少々むっとしてしまったが、西条さんの恋人だという事実に胸を撫で下ろす。……本当に、俺は単純だな。



「それでハル、なんでこんな所に……」

「勿論、助けにきたに決まってるじゃない」


 遠野さんの質問に、彼女は何でもないかのようにそう答えた。




 西条千春という人間は、正直苦手だった。

 一年の時同じクラスだったが、何か企んでいそうな表情や尊大な態度が鼻に付き、あまり近寄りたくなかった。今思えば、そう。性格が前世の姉貴そっくりで、散々いびり倒された身としては、本能で苦手意識を持っていたのだ。


 あまり関わって来なかった。だからこそ彼女の考えていることが分からない。


 西条さんは組織の人間が俺を脅しに来ると分かっていたような口ぶりだった。そしてあの動き、身体強化魔法によるものである。魔法使いで、組織の動きを把握している。


 彼女は一体何者だ。何が目的で、どうしてここに来た?




「あんたがさくを裏切るつもりだったら、私の手で始末をつけるつもりだった」


 彼女はそう言った、本当は関わるつもりはなかったと。

 西条さんはどこまで知っているんだ。少なくとも儀式のことは知っているようで、彼女は今からそこへ向かうと言っている。


 ……いや、今はそんなことを考えている場合じゃないだろ。

 西条さんが遠野さんの味方であると理解できたのならそれでいい。遠野さんを助けてくれた、それだけで十分だ。



「「一緒に行く」」


 遠野さんと口を揃えて言った。



「西条さん、行かなければ駄目なんだ。これ以上、俺の所為で誰かが傷付くのは嫌だ!」



 まさかこの話を書いている時は、この小説がこんな悲劇を生み出すなんて、当たり前だが考えもしなかった。

 俺が書いたシナリオの所為で、これまでも色んな人が傷付いてきた。そしてこれから魔王と対峙する、その時も。


 全部、終わりにしなくては。



 そう思った俺の手を遠野さんが強く握った。


 彼女がいるから、まだ頑張れる。




「行こう!」



















「本当に、終わったんだよな……?」



 目の前で繰り広げられた魔王との戦い。誰もが全力で、最高の戦いをしていた。


 まどかも言っていたが、こんなにあっさりと終わってしまうと、不安が残る。まだ何かあるのではないか、と疑ってかかってしまうのだ。



「終わったよ、全部」


 隣で遠野さんが笑った。

 この一年、死ぬことに怯えた日々が、とうとう幕を下りた。


 自分の中で何かがごっそりと消えてなくなった感じがした。



 裕也達を見る。皆嬉しそうだ。


 少し離れた場所にいる西条さん達を見る。すっきりとした顔をしていた。




 そして、俺は……。




「――生きてる」


 そう、魔王が倒れたこの時間に、この場所に立つことができた。



 生きているんだ。



何度も同じ展開を書くのもあれなので

本編や千春編と被る場所は大幅に削ってあります。


次回で終了です。

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