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 ……ん?



 突然、ぼんやりとしていた視界が明るく広がる。そもそも、どうして私はぼんやりしていたんだろう。明確になっていく思考の中でふとそんなことを考えていると、誰かに名前を呼ばれたのが聞こえた。



「遠野さん、俺が分かる?」

「……二宮君?」


 うん、間違えるはずがない。二宮君だ。

 顔を上げるとそこには二宮君と、それから一之瀬君とまどかが心配そうな表情でこちらを見ていた。



「あの……この状況は一体」


 首を傾げそう聞いた私に、三人は一様に表情を崩して何故かほっとしたようなため息を吐いた。私、自分でも気づかないうちに何か仕出かしてしまったのだろうか。



「遠野さん、魅了魔法に掛かってたんだ」

「私が!?」


 よく周りを見てみれば、今いるのは学校の近くにある公園だ。チョコを渡してから、それからどうなったんだっけ。ここまで移動してきたはずなのだが、その間の記憶が全くもってなかった。


「あの、本当にごめん。多分何か迷惑かけたんだよね」

「……いや、戻ってくれただけで良かったよ」


 二宮君は疲れたような顔でそう言った。本来この話には関わらなかったはずなのに、私の所為で巻き込んでしまったのだ。きっと覚えていないだけで、かなり迷惑をかけたに違いない。







「……なかなかやりますね」

「身体強化の魔法さえあれば簡単に勝てると思ったか? ……とはいえ、少々分が悪いな」



 その声に気を取られてそちらを向くと、なんと御堂さんと知らない男が戦っていた。こういうシーンで早すぎて何が起こっているのか分からないってこと本当にあるんだ。


「何故か御堂さんがいるんだよな、助かったけど」


 一之瀬君とまどかが御堂さんの元へ向かったのを見て、こそっと二宮君が呟く。


「二宮君ごめん、私の所為だ」

「遠野さんの所為って、どういうことだ?」

「実は……」



 私は、御堂さんに女の子を一目ぼれさせる男の話を聞いたこと、その時にうっかり「魔法みたい」と言ってしまったこと、そしてそれに彼女が反応し事件に関わってしまったことを話した。



「そうだったのか。いや、実際結果オーライだな。御堂さんがいなかったら、裕也はもっと怪我をしていたかもしれないし」


 御堂さんの所へ向かった一之瀬君は、更に追い打ちをかけようとした彼女に待ったをかけた。




「仲間の魅了魔法の男はどこにいるんだ」

「さあ、そもそも仲間ですらねえ。あんな魔法使いと一緒にするなよ」

「お前も魔法使いじゃないのか?」

「は、魔法なんてふざけたもの使うはずない。あの男は無意識に魅了の魔法を使っていた、だから俺は勝手にそれを利用させてもらっただけだ」

「なんで魔法使いでもないのに、私達を狙うのよ?」


 まどかがそう問いかけると、へらへらと癇に障る笑い方をしていた男が途端に酷く冷たい表情に変わった。



「魔法を使えないやつは、黙ってお前達に従えと言ってるのか?」

「そんなこと……」

「俺たちの組織に所属するどれだけの人間が魔法使いじゃないと思う? ……半分だ。そして所属するにはそれだけの目的がある」

「目的って……魔王を復活させることがお前らの目的だろ! もし復活したら、自分達だってただじゃすまないのに」


 一之瀬君が言った言葉に、男は馬鹿にしたように笑った。未だにそんなことを言っているのか、と。


「魔王なんざ鼻からどうでもいい。俺達はお前達の組織に復讐する、それだけが目的だ」

「何だって?」

「魔王復活なんてほざいているのは一部の魔法を使う現実を知らない馬鹿だけだ。大抵のやつはお前らに一矢報いてやりたい、それだけを考えて行動している。魔力が目覚めた子供を無理やり奪われた。魔法が関わった事件に巻き込まれて、家族を秘密裏に殺された。復讐する動機なんて人それぞれだ」


「それでも、お前は多くの人間を巻き込んで、まどかを傷つけようとした。お前がやっていることは、お前が憎んでいる相手と同じだ!」

「そうだな。だから何だ? お前を殺すことが、お前らの組織に与えられる一番の致命傷であることは分かってる。時間はない、なら手段を選んでいられないのは当たり前だろう」



 一之瀬君は、今までも私の知らない所でたくさん命を狙われていたのだろう。彼の所為ではないのに、大きな組織の中でただ1人生贄となって。


「一之瀬裕也、お前に恨みはない。むしろ組織に利用されていることに同情する。今は唯一の封印魔法の使い手だとかちやほやされてるかもしれないが、魔王を封印した後は果たしてどうかな? その貴重な人間を組織がどう扱うか、考えたことはあるか?」

「……」


 一之瀬君の沈黙に満足したのか、男は不意に後ろに大きく距離を取った。



「しかし……あいつも役立たずだったな。まさかこんなに簡単に魔法が解けるなんて、流石に封印魔法とやらは格が違う。せいぜいその魔法で組織に利用され続けるんだな」


 そう言うと男は、「今回は引かせてもらう」と踵を返して潔く逃げた。


 逃がすまい、と御堂さんもとんでもないスピードで追いかけるものの、途中で仲間と思わしき人間のバイクに乗せられたのが遠目に見えた。

 流石に、いくら強化魔法を使っても追いつかないだろう。




 逃がしてしまいました、と戻ってきた御堂が落ち込んでいるのを一之瀬君が励ましている。



「裕也、あの魅了のやつもどうにかしないと」

「……あ、ああ。これ以上魅了される人が増える前に何とかしないとな。まどかももう一度魔法に掛かったりしないでくれよな」

「分かってるわよ」





「裕也」

「彰、どうした?」


 早速魔法を使った男を探しに行こうとした一之瀬君に、二宮君がやけに改まって声を掛けた。


「お前さ、こうやって、何度もいろんなやつに殺されそうになってるよな」

「そうだな」


「……なんで、耐えられるんだ。いつもへらへら笑ってばっかで、どうしてそうやってのうのうと生きていられるんだ!」

「彰君! そんな言い方……」

「俺はただ、いつも見ているだけでお前を助けることもできない。お前がどれだけ酷い怪我をしても治せないし、凶器を持った人間から守ることもできない……だから、言えよ。罵倒でもなんでもしろよ、お前の所為だって怒れよ!」



 二宮君がこんなにも感情を露わにしたのは、初めてだった。

 多分、全てを知っているのに何も言えないことに罪悪感を抱いているのだろう。


 二宮君がもし最初から全てを一之瀬君に話していたらどうなったか、なんて今更だ。結果は誰にも分からない。ストーリーから逸れて、怪我を負わなかったかもしれない、それとも逆に死んでしまっていたかもしれない。

 それでも、二宮君は何も言わなかったことを後悔するのだろう。



「彰、こうなったのは誰の責任でもない」

「違う、俺の――」

「お前が何を知っているのかは分からない、だけど何一つお前の所為なんかじゃない。俺は今まで全て、自分で選んで、自分で決めて生きてきた」


 一之瀬君は薄々気付いていたんだ、二宮君が何かを隠しているって。


 文化祭の時も、偶然では片づけられないタイミングで駆け付けた。それ以外にも私がいなかった時も、何かしら一之瀬君に疑問を抱かせていたのだろう。全てを知っているのに、何も知らないふりをするのはとても難しい。



「確かに命の危険は増えた。だけど、お前達や、まどかに会えた。後悔しないよ」

「裕也……」

「大丈夫、彰がそうやって真剣に考えて、心配してくれるだけで十分だ」


 一之瀬君はそう言ってからっと笑った。そしてバシッといい音を立てて二宮君の背中を叩く。




「ごめん」


 二宮君は最後に絞り出すように、それだけ言った。
















 それからしばらくして魅了魔法を放っていた男を捕まえて魔法を解除させた後、ようやくいつもの調子を取り戻した二宮君が思い出したかのように口を開いた。



「遠野さん、さっきまでの……魅了魔法に掛かってた時のこと、何か覚えてる?」

「さっきまでのこと?」


 二宮君にバレンタインチョコを渡した所までははっきりと覚えている。だけど、それからいざ告白しようとして……私、結局ちゃんと告白したのか、よく覚えていない。

 まさか二宮君にそんなことを聞くわけにはいかない。例えどっちだったとしても気まずくなること必至だ。



「お、覚えてないよ……」

「そっか」


 二宮君はそう言って、何やらほっとしたような、残念そうな良く分からない顔をした。

 わ、私、もしかして勢い余って告白して振られてたとか!?

 それで覚えていなくて、もう一度告白されたらどうしよう、とか考えられていたら……。

 私はもやもやとしたまま家に帰ることになった。



 家に着くと、なんだか急にどっと疲れが出てきた。あんな風に記憶が曖昧になったことなどないし、まして私は覚えていないが、二宮君の前で他の人に目移りしてたとか冗談ではない。


 私は部屋に着くと、ベッドに倒れ込もうとして……ふと思い立って引き出しからノートのコピーを取り出し、昨日読み返していたページを眺めた。


「……」


 次のページを捲る。とうとう、これが最後のページだ。



 3月がもうすぐそこまで迫っていた。




2月、長かったです。

実は本当に2月13日から14日にかけて更新したいなーと思っていました。そのためにわざわざ曜日まで合わせたというのに、結局合間の2週分の話が全く出てこなかったので諦めました。無理やり作っても微妙な話になりそうだったのでやめておいて正解だったとは思います。

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