6話 一ノ瀬純人vs葉月陽毬
俺達三人は、午前の出来事について話していた。
「世の中も物騒ですよね。」
「今の警察は金で買収可能だしな…」
「そうなんですか?」
「権力があるやつが命令して動いた組織を捕まえたら自分の身も危なくなるしな…」
「ボクはその、生徒会長と石原さんについてよく知らないんですが?」
「石原の親は権力が高いが、石原兄つまり、前生徒会長は孤立していた。て言うか親子の仲が悪くてな。金持ちのくせに生徒会の資金をむさぼったのはそれのせいだ。兄弟は仲が良いけど、弟は親とは特にないんだ。要するに弟は何しても親が守ってくれる訳だ。」
「それじゃあ、兄よりも弟の方が手強いですね。」
「あぁ。そんなとこだ。まぁ暗い話はこのぐらいにしてゲームやろうぜ!ゲーム!」
『はい!』
二人はノートパソコンを開いてゲームを起動させた。
「葉…陽毬?何がいいかな?PvE?PvP?」
「そういえば一ノ瀬先輩はレベルアップボーナス何に振ってますか?」
「あ…振ってない。」
「とりあえずHGメインなので、HGに振ればいいと思います。15回振ると分岐が出来ますけど。」
言われた通りにHGに振ったが、スキルはこれ以上は増えても意味が無かった。
「先輩?陽毬と先輩で一対一やってみて貰えませんか?大会前ですし!」
百合の突然の提案だった。
「俺は構わないけど陽毬は?」
「ボクもやりたいです!」
こうして一対一のデスマッチがはじまった。ステージは摩天楼。とても広いマップだ。ビルの上から狙撃がしやすいため、陽毬が有利なマップだった。HGの射程は短いため、狙撃は出来ないが、ビルの屋上には、そのビルの扉に入ればワープするため、建物の中で隠れるようなことは出来ない。つまり、狙撃されてからの追撃が容易に行えるはずだった。建物の影から影へと移動をしていた俺は、陽毬の狙撃を待っていた。その時は突然やってきた。一瞬にてHPが4割減った、が、
「音がしない…?」
「一ノ瀬先輩?これがボクの武器、パナリティーS3です!サイレンサー付きです!」
その後、もう一発弾丸を食らってしまった。この状況を打破する方法を考えた。全てのパターンを想像し、最善の策を導き出した。一番近くにあるビルの屋上に向かった。そしてその場で止まった。引き金が引かれるその瞬間を待って。背後には障害物があったため、3方向からの攻撃を身構えた。そして、引き金が引かれた。この見渡しの良い場所だ。既に銃口は見付けていた。俺はそこの一点に集中するだけだった。弾丸が飛んできたのに気がついた瞬間、指は動き始めた。《F1F3F3》空中に高速移動しつつ、下方向に散弾を放つ『エアダウン』の高速移動を利用し、普通の速度では避けることの出来ない、スナイパーライフルの弾丸を避けた。そして、銃口の見えたビルまで一直線に飛行した。アサルターのpassiveスキルである、飛行時間上昇のお陰でギリギリたどり着いた。やはりそこには陽毬のアバターは居なかった。ビルから下を見下ろすと、大きなSRを背負い移動する陽毬のアバターを発見した。ここから狙い打つことなんて出来ないと思った。が、無意識に照準を合わせ、《F1F4F4》『インフィニティ・バレット』を放っていた。INFINITEーPERFECTが放った弾丸は、光速の速さで頭を撃ち抜いた。SPは、ほぼ全開状態だった。Beluの異常な固さはなく、一撃必殺のダメージを与えた。
「いやぁー、今日いろいろとハードな一日でしたね!ね?先輩。」
「本当にハードだったな。久しぶりに骨を折った感触があって気持ちが良かったわ!」
陽毬との一戦に、見事勝利し、遊び終わって帰宅の護衛?中だ。
「先輩…さらっと怖いこと言わないで下さい…特に陽毬がプルプルしてますよ?」
横を見ると、陽毬が可愛らしげにプルプルしていた。
「ボ、ボク怖くなんてないですぅ…骨が折れるところなんてたくさん見てますもん…」
絶対嘘だ。と、二人は思った。
「でも、まさか陽毬が負けるなんて思ってませんでしたよ…先輩マジ弱点無いじゃないですか!」
「一ノ瀬先輩強すぎですぅ…ボクも負けるなんて思ってませんでしたよー。」
「だってさ、現実みたいに戦えば勝てるでしょ?それに俺にだって弱点はあるさ。」
「一ノ瀬先輩?ボクがよく思うのは、ゲームみたいに現実で戦えればなぁ…とかですよ?ていうか普通の人は現実を参考にゲームなんてしないですぅ!」
「そうか?そうだな。」
そんなことを言っていると横で、「うーん」と考えている百合がいた。
「百合?どうした?」
「先輩の弱点って何ですか?」
俺の弱点は俺のすぐ横にいる。なんて言える程の野郎ではない。
「それを教えたら不味いだろ?」
こんな会話が続き、商店街を抜け、住宅街についた。
「先輩。私そろそろです。」
「あぁ…?」
背後からバイクのエンジン音が聞こえた。しかも、かなりのスピードを出しているようだ。だんだん近づいてくる。
「おい!!離れるなぁ!!!」
二人を大声でびびらせて、足を止めさせた。そして、二人を両腕で抱き抱え、車道に飛び込もうとしたが、間に合わなかった。
『ドン!』とバイクの側面が俺の腰付近に直撃した。俺は軽く吹き飛ばされて、壁に背中と頭を打ち付けた。幸い二人はうまく庇えたが、バイクを乗り捨ててきた男が、スタンガンをもって目の前にきた。さすがの俺も、脳震盪を起こしてしまった今は、焦点が定まらなかった。そして、スタンガンを浴びた。次の瞬間、目がぱっちりした。スタンガンのお陰で目が覚めていた。
「っあ?なんで目が空いてるんだ?まぁいい。女どもにもやらねぇーとなぁ。」
その男が陽毬にスタンガンを突きつけようとした手を掴んだ。
「?!なんで効いてねぇんだよ!こんなんありえねぇだろ!?」
「電撃なんて効かねぇんだよぉ!!」
男の手を掴んでいる手と反対の手で、男の肘の関節をフルパワーで殴った。男の肘は、思わぬ方向へ曲がり、男はあまりの痛みと恐怖に怯え、悲鳴をあげてその場からさった。
「二人とも?怪我はねぇか?」
「先輩!!私たちのことはいいでしょ?それより自分心配してくださいよ!!」
「そうですよ!ボクは何もされなりですぅ!いぢのぜせんばいが、ぜんばいが…」
泣きじゃくる陽毬を見て、元気があるのが分かって安心出来た。陽毬の頭を撫でながら陽毬と百合に謝った。
「ごめんな。心配させちまって…脳震盪くらいだから、安静にしてれば問題ない。一応病院には行くけどな。」
「分かればいいんですよ。先輩。スタンガンやられた時は本当に覚悟しましたよ?」
「わりぃな。とりあえず急いで帰ろう。」
「せんぱい…足が…」
泣き止んだ陽毬の足は赤く腫れていた。
「しゃーねぇ。陽毬?おんぶしてやるからしっかりつかまってろな?」
陽毬をおんぶしながら、百合を家に帰した。百合の家はアパートだった。百合を見送ったあと、陽毬の家に向かった。
「一ノ瀬先輩?」
「なんだ?」
「今日は、2度も助けてくれてありがとうございました。」
「俺の責任ってやつだ。気にするな。」
「でもすごくカッコ良かったですぅ。どんな女の子でもきっとそう思いますよ。」
ちょっと照れながら返事をした。
「そうか?」
「はぃ!ボクもこんな人と…」
そこで陽毬の言葉が途切れた。
「一ノ瀬先輩?ここですよ。ボクの家。」
陽毬の家は2階建ての一軒家だった。陽毬の家には今は、誰もいないそうなので、玄関を開けて、部屋の前までおぶっていった。そして、陽毬と別れて家に向かった。その日はすぐに寝てしまった。