5話 生徒会長の隠謀
テスト週間2日目、今日は一年の二人が遊びに来る予定だ。今日は日曜日だから授業もないと言っていたので、午前中には来るはずだ。現在午前8時。とりあえずジュースとお菓子の補給に向かった。家から徒歩10分程に位置するコンビニに到着した。家と学校とこのコンビニを繋げたら正三角形に近い形になるような位置にある。中に入るとレジに高校生男子一人と女子三人が並んでいた。見覚えのある集団だった。向こうはすぐに気がつき手を振ってきた。ここまでされたら話しかける以外の選択肢はない。
「おはようございます。こんな早くからコンビニすか?」
「うん、おはよ!うちらはこれから勉強会だよ?一ノ瀬君こそ朝からナンパ?」
俺の挨拶に返答してくれたのは三年の風紀委員、大山咲だ。
「ナンパなんてしないっすよー。」
「純人は、立ってるだけでナンパしてますオーラを噴射してるんだ・か・ら。自覚ないの?」
「唯先輩こそ立ってるだけで男の色目線を集めてますよ?」
唯先輩とは、風紀委員長の天音唯だ。風紀委員長のくせに服装があまりよろしくない方だ。正確には、胸が大きすぎてボタンが閉まらないらしい(自称)。
「そんないけない二人はくっつくべきだと思わないぃ?」
そう言って唯は俺の腕を自分の胸に押し付けた。と俺と唯は同時に驚いた。
「先輩…?また大きくなりました?!」
「そういう純人こそまた太くなってる?しかも前より固い。」
俺達のこの会話は日常的によくある会話だが、流石に隣に風紀委員三人がいたら止められる。
「委員長!ここは公共の場ですぅ!」
咲の止めが入って、この話は終わった。
「一ノ瀬君も暇なら勉強会来る?ちょっとでもいいよ?咲はちょっと教えてもらいたいところがあるんだけど…」
「すいません。今日は先約があるので、また今度誘って下さい。」
「了解!今日は分かりにくいけど龍に聞くよ!」
「分かりにくいっていうな!純人が出来すぎなだけだ!」
龍は風紀副委員長の四条龍のことだ。龍とは小学校から一緒の一つ上の友人だ。すると龍が、
「そういやぁ、純人?新しい部活を作ったらしいけど、あの糞会長がまた何か考えてるらしいから気をつけろよ。」
「本当に厄介者だな、石原家。父が政治家、母が教育委員会のトップ。祖父祖母もお偉いさんだから、権力だけはある。お姉さんは純人が心配だよ。」
「唯先輩?心配しないで下さい。双子の兄は潰しましたし、あとは弟だけですし、部活集団が変なことしなければ生徒会を潰しにいきます。前風紀委員長は危なかったですもんね。」
前風紀委員長は、会長に家のことで脅され、危うく会長に汚される寸前だったらしい。そこで俺が会長を潰したのだった。
「風紀委員会も、生徒会に動きがあったら俺に報告お願いしますね。権力にかなうのは残念なことに俺だけですもんね。」
風紀委員とはそこで別れた。1.5リットルのジュース2本と、お菓子の袋を2つ買って、コンビニを出た。コンビニに沿ってある裏路地を通って帰ることにした。あまり人としゃべる気にならないのとパトロールみたいなものを兼ねている。この裏路地は人目につかず、防犯カメラをつけてもすぐ壊されるため、ちょっと危ない道なのだ。普通に治安が悪い街なのだ。いや、この国自体が治安が悪くなってきているのかもしれない。そんなこんなでこの路地を歩いていると、不良のたまり場を発見した。だが心配することはない。こいつらは俺の手下みたいなものだ。ゲームにはまる前は、この街の征服をしようと試みた。もちろんこういう連中のボスになろうとした。その時に仲間にした連中だ。輪になってなにやら話をしていたが、一人が俺に気がついた。
「あ!兄貴ィ!ナイスタイミング!」
すると、全員が俺によってたかり始めた。
「とりあえず何だ?一人だけ喋ろ。」
「えっとですね。情けない話なんですが、隣街を支配したグループに兄貴が支配した2分の1の場所を占拠されちまって…もう一人の兄貴の方が、2泊3日の旅行中で、誰も勝てないんだよ!この先に女二人が連れてかれちまって…だから、何回にか分けて攻撃してんだけど…」
「とりあえず分かった。俺の後ろについてこい。」
こうして、俺率いる軍団は走り出した。その先にはこれから俺と遊ぶ予定のある二人が強引に連れていかれていた。
「お、おい?てめぇらここが俺の縄張りだと知ってのことか?」
自我が保てなくなっていた。
「なんだか知らねぇが、やっちまえぇ!」
三人程にかかってきたが間をすり抜けて二人の元へ動きはじめた。
まだ何十人といたが、ゲームのように軽やかに避けて避けて避けた。そして、二人を掴んでる男の前に来た。すると男は二人を後ろに投げて飛びかかってきた。俺はそれも避けた。いよいよ二人の元にたどり着いた。俺はしゃがんで、縛られた手と足をほどいた。後ろでは、手下達が善戦してくれていた。口のガムテープもやさしく剥がした。
「ここから動くなよ。」
ゆっくり立ち上がった。背中に一人いるのを感じ取って飛び回し蹴りを肩に放った。
『パコっ!』という音が辺りに響いた。肩は見事に外れていた。相手は顔に恐怖の表情を浮かべていた。逃げようとしても手下に阻まれていた。結局、相手の集団は全員骨か折れていたり、はずれたりしていた。手下に処理を任せて、二人を連れて自宅へ向かった。
「とりあえず俺の家まで来たからには安全だ。第一俺がいる。何があったのか教えてくれないか?」
葉月の方は、ひどく怯えていたが、百合は以外と冷静だった。
「私が、陽毬と合流したあたりから、へんなやつにあとをつけられてて、気味が悪かったんで、走って逃げてたら、同じ格好をしたやつが前からも来たんで、あの路地に逃げ込んだらさっきのやつらに捕まって…」
一瞬で理解出来た。一体誰の仕業か。そして何のためにこんなことをするのかを。
「ごめん。俺のせいだ。この状況を作り出したのは…」
「そんな!何で先輩が関係あるんですか!?私らの不注意ですよ…」
「生徒会長の石原仁がやったに違いない。前にも話した通り、俺は石原仁の兄を退学に追い込んだ。俺の親は警察と裁判官だ。最も、今の国の治安じゃ、なかなかうまくことが回らないんだよ。」
次に言うべきことを口にした。
「勝手に二人を部活に入れたのは俺だ。これ以上危険な身には会わせたくない。だから…」
「だから?」
「だから…部活はやめてくれ。身勝手で本当にすまないが…」
ここではじめて葉月の口が開いた。
「嫌です。嫌です!」
「そうは言ってもな…」
「ボク、この学校に入った時からずっと一ノ瀬先輩のことが…す、」
一瞬このタイミングでコクられると思った。
「す、すごくいい人だと思ってたので、いろいろお話したり、遊んだりしてみたかったんです!絶対に関われないと思っていた人と関われて嬉しいのに…それなのに…それなのに…」
口を閉じた葉月は、顔を真っ赤にして、目からは涙が流れていた。まだ気持ちが安定してないのに感情的になって、恐怖が込み上げてきたのだろう。
「そうだな。そこまで言うなら俺が最後まで責任をとろう。毎朝お前らの家まで行く、帰りもだ。出かける時はすぐに俺に電話出来るようにしておけ。ワンギリしてくれればすぐに向かう。」
「先輩?陽毬が無言で泣いてて…どうしましょう?」
「あぁ…どうしましょう?てか百合は平気なんだな…」
「まぁ、いろいろ事情ってのがあるんですよ。捕まったときは本当にこわかったですけど、先輩が来てくれたんで、いろいろと安心です。私のことはいいので陽毬を…」
無言で頷いて、葉月の頭を胸で抱いた。昔から女子を慰めるのは得意だったが、ここまで特殊なのははじめてだった。三十分程そのままの状態でいると、葉月が再び口を動かした。
「一ノ瀬先輩?ボクも百合ちゃんみたいに名前で呼んでください。」
「分かった。陽毬でいい?」
「はい…」
俺は不思議に思ったことがあった。なんで俺はこの子のことを名字で呼んでいたのかと言うことだ。普段は先輩も後輩も名前で読んでいたはずだったのに…
そして楽しい午後が訪れる。