14話 100手先を読んで
昨日は、手に汗握る戦いを繰り広げた俺だったが、現在は学校で部活中だ。内容は俺と陽毬とあたる敵の分析だ。とは言っても、そんなデータを持っているのは後藤くんと陽毬しかいないだろう。そういえば陽毬は、どんな相手と戦ったのだろう?
「なぁ陽毬?昨日の相手どんなやつだった?」
「え?あ!はい。二試合ともストレート勝ちです。今回は運が良かったみたいです。それとも出場者のレベルが低いのかな?」
俺の運が悪いことで、陽毬は運のいい相手とあたることが出来たみたいだった。
「そうでもないみたいだよ。GブロックとDブロックが激戦区って言われてるよ。葉月さんはHブロックで一ノ瀬君がGブロックだから、Hブロックが楽な分GとDブロックが異常な激戦区になってるみたい。G3ブロックは、一回戦が終わった時点で、一ノ瀬君以外はみんな三次職になって、二回戦が終わった時点で一ノ瀬君以外はみんなカンストしてるからねぇ…ここまで強者が集まるなんてありえないよ。Gブロックには優勝候補が三人もいるし。最も、その優勝候補を不有利な状態で倒した一ノ瀬君がここにいるから君も優勝候補なんだけどね。」
ドワイトは、一対一の勝負では、勝率が九割を越える程の強さを誇るらしい。だが、レールガンには勝てないため、前回大会は敗北しているため、レールガンにさえあたらなければ本当に優勝しかねない強さらしい。そいつに勝った俺はもっと凄いけど。
「そういえば漆原先輩はどこに?まだ来てないんですか?」
百合が言った通り海成はいなかった。俺達三人は一緒に来たがそのあとに後藤くんが到着した。つまりまだ来ていないのだろう。と、部室のドアが開き、元気の無さそうな海成が部室にやって来た。
「おはよー。はぁ…」
「そういえ漆原君は二回戦で負けたよね。あれは仕方ないと思うよ?一ノ瀬君が競り負けた人だよ?」
海成は二回戦でkureとあたっていた。恐らく完封なきまでに叩きのめされたのだろう。だが今は自分のことでいっぱいだ。
「とりあえず俺の対戦相手だヤバイやつは?」
「次にあたる人は特に有名なクランでもないから注意する必要はないと思う。その次は恐らく野菜ジュースさんが勝ち上がって来ると思うんだけど、彼はウォーリアーの上位職のソードマスターで、僕と同じ双剣使いだよ。コンボが上手いから上手く回避してれば問題はないと思う。その次は誰が勝ち上がって来るかは分からないや。最後はもちろんゴルもんが来ると思う。ゴルもんさんはシーフから転職なしでカンストさせてるから、無限短剣とマスターボマーで一対一ではかなり強いと思う。ゴルもんさんも優勝候補だから気を付けて。情報を得て、陽毬も納得のいく情報を獲得し、今日の部活を終了する。三人の帰り道、百合が創立祭のことを聞いてきた。
「創立祭ってどんな感じなんですか?」
「創立祭は部活ごとに出し物をするけど、普通の文化祭みたいなもんだ。文化祭はクラスごとに出し物に変わるだけだ。」
「創立祭で途中休憩貰えますよね?」
「何でだ?見て回りたいなら気が済むまで満喫していいぞ?俺一人で二台やってみるから。以外とできそうだなぁ…手でキーボードで足でマウスで片目でそれぞれの画面…いけるな。」
「あははは。陽毬も見て回りたいでしょ?」
「あ、うん。」
「とゆーことで先輩!私はここで!頑張って下さいね!」
百合を見送った。
「一ノ瀬先輩は本当にすごい人ですよね。」
「なんだ?突然。認めるけど…」
「勉強ができて、スポーツもできて、ゲームもできて、現実でも強いし、それに…かっこいし…」
「陽毬だって可愛いじゃないか?そこはお互いだよ?」
陽毬は耳まで赤くして下を向いて喋らなくなった。結局何も話さないまま陽毬の家に着いた。陽毬が家に入ったのを確認して自宅に帰った。帰る途中に、黒服の男にあとをつけられたが、俺の全力疾走についてこれなかったみたいだ。時間まで一眠りし、いよいよ五時になる。対戦相手は、またもグラディエーターだったが、フィールドが森だっため、立体的な動きで翻弄し、ストレート勝ちした。闘技場かどうかがここまで影響するとは思っていなかった。だが、問題は次だと後藤くんが言っていた。七時になる。四回戦がはじまる。野菜ジュースと俺の戦いは五分だった。森は、お互いを発見するのが早い方が有利だ。そのため、経験の薄い俺は、全部先手をとられてしまい、二対二と、互いあとがなくなった。このゲームをとった方の勝利だ。今日の一戦目は、敵がグラディエーターで鈍かったから翻弄できたが、ソードマスターにはそうはいかないようだった。とりあえず木の影に隠れながら辺りを見渡す。野菜ジュースはまだいない。しばらく移動していると、ついに発見した。影しか見えなかったが、野菜ジュースの位置はおおよそ把握出来た。下方向に銃を撃ち、やつを気がつかせる。野菜ジュースは、背後の木の上にいる。少し木が揺れた音がした。いつもなら避けるのにスキルを使うが、俺の目と指は、スキルの細かい部分まで覚えている。再現する。〈F3F3F1〉『月下・満月』の縦バックver.を。月下・満月は、上弦の月が敵を半周するのに対し一週する。敵が前方に攻撃してきたときに、回避しながらダメージを与えつつもとの位置に戻る技だが、普段は上弦の月の方が使い勝手が良かったため使っていなかった。敵の位置を予測してタイミングを合わせる。バックステップしつつ前方に向かって飛行をすることでバク宙に近い状態になり、四分の一の円ができる。続いてバックステップの勢いがなくなる前に上に飛行をする。そこで半円が完成する。野菜ジュースの体はスッポリ空中にえががかれた半円に収まる。すかさず真下に着地しようとし、四分の三人に達する。最後は前に進みながら着地しつつ《F1F4F4》『インフィニティ・バレット』を放つ。空中で放つとブレが大きい。元々HG自体ブレが大きいため、普通は空中では撃たないが今はゼロ距離だ。見事に直撃した。ここで硬直が発動するが、着地アクションで硬直が解ける。同時に《F1F4F2》『インフィニティ・レイン』《F1F2F4》『シュバルツゲイザー』で上に蹴りあげつつインフィニティ・レインのダメージを与える。上から落下してくる弾と下からの発砲で挟み込み、インフィニティ・レインが終わったと同時に《F1F3F3》『エアダウン』を放つ。グラディエーター程ではないがソードマスターも固いがあともう一押しまで来た。がいったん引いた。恐らく、野菜ジュースは隙を狙っていた。焦ることはない。確実に攻撃すべきだ。野菜ジュースは見覚えのあるモーションに入る。俺が使ったことのある技の上位種だ。フロントスラッシュの上位種である、『フローバルスピン』この技は、フロントスラッシュの動きは同じだが、横回転しながら距離を詰める。俺が有利なのは選択肢の多さだ。この先の読み合いは圧倒的に俺が有利だ。敵のスキル数は数個しかないのだ。だとしたら一気にコンボに繋げて来るだろう。一番有効なのはエアダウンだが、避けるだけで、変に不利になるだろう。それならあえて攻撃を受けて隙をつく。賭けにでる!少しだけ直撃する距離を広げ、フローバルスピンをくらう。そのまま、乱舞に入る。スキル名は分からないが、この技は強力だ。通常攻撃を変化させるスキルだろう。永遠に攻撃な可能な技だが、先程の四戦で、技を繋ぐときに明らかな隙ができることな気がついた。繋ぎのタイミングを計って仕掛ける。F5F…押し掛けたところで気がついた。繋ぎ目のモーションではなく、これはフィニッシュへの繋ぎだ。まだ俺の体力を削りきることは出来ないが、ここで技を放ってしまったらフィニッシュ後への影響がある。そして、それを狙っている敵がいる。気がついたところでどうにも出来ない。攻撃を受けたら、あと一押しになってしまう。お互い一押しだが、フローバルスピンを避けるのは少し厳しい。真上に飛行したらしたで、空中戦になり、ブレの問題で不利になる。上弦の月は、避けている途中に、軌道を変更させてきた場合アウトだ。フィニッシュ後、硬直している間に攻撃を繰り出すのは、硬直解けた瞬間と俺の攻撃が重なる場合がある。まぁ俺はそんなことをする必要はない。俺はそこまで計算している。フローバルスピンをされた場合のコンボへの対処を。乱舞攻撃は、少しずつ前進しながら攻撃している。最初に、敵に気づかれるために撃った初発。《F4F1F4》銃弾型小型地雷『銃雷』相手のスキルを知っていたからこそ使えたスキルだ。最初の位置から大部後ろに撃ち、満月で避けてからのコンボ、エアダウンできって、次のコンボに繋げなかった場合、フローバルスピンが来ると予測し、少し距離を広げることにより、隙をつきやすくしていると見せかけ実は、技を繋いだ後にその地雷を踏むように調節しただけだ。フィニッシュが来るのは想定外だが、変化はない。画面の中にいる野菜ジュースを操作しているやつは、今頃勝利を確信しているだろう。そして、フィニッシュ攻撃に繋がり爆発音が鳴り響く。ノックバックした野菜ジュースに『シュバルゲイザー』を放つ。さっきは、インフィニティ・レインの影響で吹っ飛ばしの弾が意味がなかったが、今回は吹っ飛ぶ。《F1F1F1》突然だが、世界で一番硬い鉱物を知っているか?俺の学校で質問したら限り無く100%に近い割合でダイアモンドと答えるだろう。実はダイアモンドは世界一硬い鉱物ではない。逆になぜダイアモンドが世界一硬いと思われているのか…それは、ダイアモンドが加工可能だからだ。ダイアモンドを越えて君臨する鉱物の加工は現在不可能だ。それゆえ知名度が低い鉱石。その名をウルツァイト窒化ホウ素。このスキルには、その鉱石を加工した弾丸なのか、その鉱石に似た名前がつけられている。『ウルツァイト砲』ゲームだからこそ開ける遊び心の世界だ。世界一硬いと言われている鉱石の弾丸が、野菜ジュースの体力ゲージをゼロにする。