10話 パラレルの実力者Ⅱ
二回戦目がはじまる。
「今回はインフィニティ・バレットは使わないでいってみるから、レールガン以外の三人を頼む。」
「一ノ瀬先輩。あくまでも予想なんですけど、次ラッシュで来ると思います。」
「ラッシュって?」
「ラッシュってのは、爆破戦の一番有名で簡単な攻め方です。片方の爆破ポイントに一気に攻め立てて来ると思います。」
仮にラッシュで来ても、おそらくは後方にレールガン、前方にkureがいるのには変わりがない。kureに惑わされているとレールガンに狙われ、逆にレールガンを狙いにいくとkureの餌食になる。全国三位もだてじゃないみたいだ。頭をフル回転させたが、パラレルの攻略法は見つからない。
「とりあえず俺に考える時間をくれ。全員Aを守りながらバラけろ。」
陽毬の言っていた通り、ラッシュで攻めてきた。Bに、ここからC4を設置させられたら劣勢になるだろう。それなら、
「陽毬は爆弾を設置されないように!レールガンに見つかったらすぐに物陰に隠れろ!残り一分三十秒持ちこたえるぞ!」
俺のすべきことは一つ。レールガンを無駄撃ちさせつつkureを倒す。そうと決まったら突撃だ!真っ先に飛び出た俺の画面には同じく突っ込んできているkureがうつりこんでいる。ここからは先読み対決になる。頭と指先に全神経が集中する。《F1F4F1》『グレネードバレット』を地面からおよそ70度の位置に放ち、そのまま飛行しつつ、《F1F4F2》『インフィニティ・レイン』を放つ。飛翔中にインフィニティ・レインを放ったため、インフィニティ・レインを突き抜ける。二つのスキルでkureの侵入経路を塞いだ。次にkureがとる行動は、インフィニティ・レインの範囲外から回ってくるか、わざと開けた穴に入ってくるか。そしてkureは動き出した。トラップの中に飛び込んできた。いやな予感がした。予定を変更し、素早く急降下しつつトラップに突っ込んでくるkureに《F2F1F4》収縮弾丸《収縮弾》を放つ。収縮弾は、その名の通り弾を収縮して撃つ。ブレはほぼ0になる。擬似的なスナイパーライフルみたいなものだ。kureは収縮弾を避けようとしてインフィニティ・レインに被弾していた。俺のいやな予感は外れたのか?もう間に合わなかった。『リジリジリジ…クワァン!』レールガンの発射音だ。もう避けられないだろう。なら、『F4F1F1』《麻痺弾》標準はインフィニティ・レインに被弾しているkureだ。発射から一瞬で体力が0になる。まだ俺には仕事が残っている。
「後藤くんと百合ちゃんでkureに集中攻撃!海成は前線で防御。陽毬は仕掛けられてもいいからレールガンを!」
皆がすぐ動き出す。一番近くにいる海成の画面を覗きこむ。kureの体力は既に0だった。レールガンは陽毬とスナイパー対決をしている。レールガンは動けないため陽毬の弾を盾で防いでいるやつが一人いる。おそらくは、クラマスのステイルだろう。ステイルの動きも中々だ。飛行が無かったら陽毬が圧倒的に有利だっただろう。あとはレールガンを落とせば勝機は見えてくる。が、やはり一人が爆破作業を始めた。仕掛けられてから40秒いないに解除しても勝利は出来る。それならあえて仕掛けさせるべきだろう。
「陽毬は、そのままレールガンを狙い撃ち!後藤くんは今仕掛けているナイトが仕掛け終わったら交戦!海成は爆弾解除!百合ちゃんはレールガンをゼロ距離から攻撃!」
が、結果は敗北となった。こちらの動きに気がついた相手は、レールガンを見捨てて分散し、レールガンは百合を仕留めて陽毬に落とされた。海成が爆弾を解除しようとすると、近くにいたナイトに邪魔されていた。陽毬の援護射撃も当たらない位置から。後藤くんは、いつの間にか体力を全損させていた。おそらくは、ステイルにやられたのだろう。海成は、生き残った三人のナイトに袋だ叩きにされてしまった。またして陽毬一人、スナイパー一人の状況に持ち込まれてしまった。その後の守りは、三回戦とも負けてしまった。四回戦で、再びkureとのタイマンになったが、連続コンボの前に手も足もでなかった。五回戦ではkure以外全員倒し、俺がレールガンと相討ちしたが、四人はkureの敵ではなかったようだ。これ程の敗北感を味わったのははじめてだ。すると、チャット画面に文字が出てきた。
『ステイル:とてもお強いですね。風に貴方の噂を聞いたのですが、予想以上ですね。うちのクランに入りませんか?』
即答したかったが、迷った。今回考えたくはないが、敗因はメンバーに大きくあることがあったから。が、それは俺自体の存在に反する。俺が今の倍強くなれば言い訳だ。皆には話さず、
『パーフェクター:次の個人大会に出る予定だ。kureに首洗って待っとけと伝えろ!』
ついつい威嚇的な返しになってしまった。
『kure:もちろんです。個人大会で会いましょう。今日のクラン戦はお開きにしたいのですが、よろしいでしょうか?』
目的は果たしたということだろう。
『パーフェクター:了解した。』
みんなに都合が悪くなって出来なくなったと伝え、夜に備え部活は終了となった。帰り道、陽毬と百合が隣で話している横で考えていた。今日のこと。人生初の敗北。そして、個人戦のこと。
「…輩?一ノ瀬先輩?」
ふと気がつくと陽毬に、声をかけられていた。
「あぁ…悪い。何だ?」
「今日はすいませんでした。ボクダメダメで。」
「私もです。先輩。」
「気にするな。三位に勝とうなんて早かったんだよ。それより、今日の夜は俺いかねぇわ。ちょっと疲れたから陽毬達でやってくれ。」
「分かりました。後藤先輩にも言っておきますね。」
今日は帰って寝よう。久々に疲れた。と横で陽毬と百合が俺に聞こえないようにしてるのか、小声で話していた。
「ほーらぁー陽毬ぃ!」
百合に体の角度を変えられて、陽毬が再び俺の方を向いた。
「あの…えっと…ぅー」
「えーぃじれったい!先輩!陽毬が日曜日暇ですかって言いたそうにもじもじしてます!」
陽毬は顔を真っ赤にして指と指をこすっていた。
「それってゲームか?勉強か?」
「ちーがーいまーすぅー。外でデートです!」
陽毬を見るとそこに陽毬はいなかった。というよりもその場にしゃがみこんでいた。
「まぁいいけど?」
陽毬が落ち着くのを待ってから再び歩きはじめた。
「あのさぁ?俺思ったんだが…」
「なんですか?」
素早く百合が返事をする。陽毬は耳まで真っ赤になっている。俺も察しは悪くはないが、考えると少し恥ずかしい。女子には散々告白されたり、最近は告白すらさせていなかったからそれの影響か?とりあえず俺がふっかけた話題だ。
「個人大会の予選明けの創立祭とかでさ、出し物した方がよくないか?ついでに人員補給とか?」
百合は目を輝かせていた。
「私にお任せ下さい!」
結局二人を家まで送って、眠りにつこうとした。が、その日はこれからが本番だった。