1話 ゲーマーにおれはなる!!
俺の名前は一ノ瀬純人、高校2年生。偏差値80オーバー、体力テストA、容姿も中の上くらい。自分で言うのも何だが俺は完璧超人だ。ちょっとやれば何でも出来た。スポーツは、はじめたばかりでも、経験者にまさる実力があった。勉強も勉強すれば、全国模試一位も余裕だった。俺に出来ないことはなかった。俺が通ってる高校は、県有数の進学校だ。無論塾とか部活もやっていない。彼女はいない(作ろうと思えば多分作れるだろう)。こんな俺が今悩んでいることがある。そう、俺の机の上に居座る紙…進路希望調査表だ。
その日の放課後俺は、呼び出しをくらった。理由は聞かずとも分かっている。進路について以外他はない。
「失礼しまーす。」
俺は重く体を動かしてドアを開けた。そこには男女1名ずつ教師が座っていた。
「一ノ瀬?座れ。」
そう言ったのは、女の方の荒川先生だ。彼女はうちのクラスの担任だ。うちの学校は各学年それぞれ4クラスある。俺のクラスはD組だ。
席に座ると、今度は男の方が話かけてきた。
「一ノ瀬君。君は将来のためにも、進学すべきだと思うよ?君ならどこでも合格できるだろう。」
そう言ったのは、進路担当教師の山道先生だ。そんな山道先生の言っていることは正しい訳なのだが、俺は進学する気はなかった。現状は。
「荒川先生にも言ったんですけど、俺は進学する気はないです。現状は…」
理由という理由はないが、しいていうなら行く必要が全くないからだ。逆に、俺程のスペックを持った人間なら、その気になれば職業など簡単つけるだろう。俺はそこら辺にいるガリ勉共とは違う。ただ頭がいいだけではない。コミュ力、行動力、判断力などなど、いろいろ兼ね備えている。多分カリスマ性とかもある。それに、勉強をしたければ、一人でやった方が絶対に効率がいい。だから、そこまでして大卒する必要は無かった。
「一ノ瀬?お前程の人材を進学したくないと言うのなら就活をしたいのか?」
就活。自立したら金が必要になる。よって仕事をする。まぁ妥当だろう。でも俺は…
「もーちょい考えたいんで、また今度でいいですか?」
そう言ってその場を切り抜けた。
はぁー…と溜め息をつくと後ろから肩を叩かれた。まるっこい後藤くんがたっていた。後藤くんは、運動ダメダメ、勉強も出来ない(この学校にいることができるのが不思議だ)。容姿もアウト、まさに俺の正反対の存在だ。そんな彼がどうして…
「一ノ瀬君?この前の約束、いつにする?」
…約束?そんな約束…あ。そういえば一昨日の昼休み、購買の帰りに後藤くんに話かけたっけな…確か…ゲームをやってた彼とゲームの話で盛り上がって…
「一ノ瀬君?」
「ん?あぁ、ごめんごめん。俺はいつでも構わないよ。なんなら今日でも。」
分からなくても、とりあえず面白い約束をしたのだろう。それだけは明確だ。
「えっ!今日!?…別に問題はないけど…」
「忙しいなら別の日でも構わないよ?俺は今週は暇だし…現状は。」
「いや!忙しい訳じゃないんだ。その心の準備が…」
後藤くんの声はあまりにも小さかった。
「ん?何だって?」
「あ!ん。えっと…分かった。それじゃあ家まで案内するからついてきて。」
そう言われた俺は、後藤くんの後ろを追って彼の自宅に向かった。
後藤くんの家は、学校から5分程の場所にあった。家の中には誰もいないようだった。一応「お邪魔しまーす。」とは言ったものの、やはり返事はない。2階に上がり、後藤くんの部屋の前で止まった。彼は、少し躊躇しているようにも見えたが、決心したのかドアを開けた。中はアニメと思われるポスターやフィギュアが並んでいた。俺は気にせず中に入っていった。そして、
「一ノ瀬君。何やりたい?」
そう言われて思い出した。後藤くんにパソコンでゲームをやらせてもらう約束をしていたんだった。
「何って何?」
「えっと…ジャンルだよACTとか、RPGとか、FPSとか。」
さっぱりわけワカメ状態に陥った。俺は機械とは無縁の生活を送っていた。高校になってやっとガラケーを買ってもらったくらいだ。メールは相当やっているが、逆に言えばそれだけだ。ゲームもやったことが無かった。それでワケわからない英単語を並べられても困る。
「よく分からないから、後藤くんの一番のお気に入りで。」
後藤くんは頷いてパソコンを動かしはじめた。2分もたたないうちにゲームのトップ画面らしきものが表示された。
「えーっと、ぐらどにるオンライン?」
いかにも読みにくい文字だったため声に出してしまった。
「そう、グラドニル・オンライン。凄い3Dな戦闘ができるRPGだよ!」
「あーるぴーじ?なんの略?」
「ロールプレイングゲーム、略してRPG。とりあえず僕のデータでやってみなよ!」
彼に言われるがままにマウスを握らされ、キーボードに手をのせた。操作方法を教えてもらいモンスターを倒しをはじめた。実に爽快だった。後藤くんのデータは、二刀剣のバリバリの近距離タイプだった。雑魚は一撃、ボスは十数撃ほどで倒すことが出来た。後藤くんが言っていた通り、飛行と高速移動による超3Dのゲームだった。と、突然横から拍手が起こった。勿論後藤くんだった。彼は、唖然とした顔でこちらを見ていた。
「す、凄い…未経験者でこの動きは本当に凄いよ…PvPやってみてくれない?」
「ぴーぶいぴー?」
「プレイヤーバーサスプレイヤーの略だよ。つまり対人戦ってこと。」
「おう。どこからやるんだ?」
そう言って後藤くんにマウスを渡し、PvPの画面まで操作してもらった。デスマッチモードというモードで、場所は廃墟だった。どんなステージか考えていると横から後藤くんの声がした。
「げっ、ゴルもんがきた…」
「ごるもん?」
「そう。ゴルもんは、このゲームの公式大会で、決勝大会のベスト8になったことのあるクランのメンバーなんだ。縦横無尽にステージを駆け回って爆弾をばらまいてくるんだ。あいつに攻撃を与えるのは相当難しいと思う。」
「まぁ頑張るわ!」
バトルがはじまった。ルールは、体力が0になったら退場と、簡単なルールだった。人数は8人。廃墟は、やたら家が多く隠れやすかった。と、突然背後で爆発がおきた。
「ゴルもんだぁ。」
後藤くんがそう言ったのを逃さず、俺はマウスを動かして後ろを見たが、そこには何もいなかった。そうしている間にフィールドのあちこちで爆発が起きていた。そこまで大きなダメージにはなりそうも無かったため、ゴルもんは後回しにすることにした。俺は、物陰から物陰へと移動を繰返し、敵を探した。突然、背後から何かに攻撃された。HPが一割ほど削られた。振り返ると、そこには一人の両手剣使いのプレイヤーがいた。すかさず通常攻撃を繰り出した。そのままスキル攻撃へと移行した。縦回転攻撃の『ビリカリースピン』で敵を打ち上げ、そのまま切り下がり攻撃の『バックスラッシュ』を使った。『ビリカリースピン』を使ったため、俺と相手は、空中にいた。相手の方がわずかに上にいた。バックステップを踏んだおかげで、丁度いい距離があった。互いに硬直していたため、地面についてからの勝負となった。硬直が解けた、すなわち地面についた瞬間に相手との距離をつめる『フロントスラッシュ』を決めた。相手は落下中だったため、そのまま地面に倒れた。相手が倒れて起き上がるまでの無敵時間に、普通のバックステップを踏み、次なるスキルを使った。大技の『シューティングスター』を使い。空高く飛び上がって、そのまま二本の剣をクロスして相手に向かって流れ星のように相手に降りかかった。丁度無敵時間が終わった相手は『シューティングスター』に直撃し、そのまま消えた。
「一ノ瀬君?君本当に初心者?」
「ゲームはこれが人生初だ!」
まぁ嘘はついていない訳なのだが、俺的には後藤くんが教えてくれたスキルをうまい具合に使ったとしか思っていない。そのため、ポカンとした顔をして画面を見ていた彼が何に驚いているのかなんて、わかるはずがなかった。
「本当に君には才能があるよ…あ、あと3人になったよ。」
右上にある名前の一覧は、8人から3人に減っていた。名前がもうひとつ減った。残ったのは俺とゴルもんだけだった。それを確認したと同時に爆弾が降ってきた。避けようと思った時にはもう爆弾のダメージをくらっていた。再びダメージを一割ほどもっていかれてしまった。ゴルもんは廃墟の家の屋根を高速で移動していた。飛行できる時間は限られているため、屋根を飛び移りながら敵を探し、発見したら相手の上空まで飛んで爆弾をおとすという戦法を使っているのだろう。俺もとりあえず屋根の上に飛び乗った。突然、前方から凄い勢いで切りつけられた。目の前にはゴルもんがいた。ゴルもんの手には短剣が握られていた。その短剣は再び俺を攻撃してきた。その攻撃がやむことはなかった。反撃しようにも、無敵硬直時間が解けた瞬間に次の攻撃がとんでくるため、反撃は出来なかった。短剣二連撃の猛攻に俺はどうしようも出来なかった。
「後藤くん?どうすればいいのさ?ヤバいヤバい!」
ダメージはちょっとずつではあったが確実に、HPを削っていた。
「あれは、無限短剣って言って、短剣スキルの『スワイプ』を、スピードと、短剣の剣速をある数値にすることで、無敵硬直時間がキレた瞬間にスキルが再発動可能になる。いまだにこの技を使えるのはゴルもんだけなんだ。これより速すぎても遅すぎても駄目なんだから…しかもスワイプはSP回復がついているから本当に無限。これをやられたら勝ち目はない…」
全神経を集中させた。こんなに集中したのは高一の最初の全国模試以来だ。タイミングを見計らった。イメージを固めた。そして、一連撃と二連撃の間に『シューティングスター』を発動した。凄いスピードで上昇した。その途中にスワイプの二撃目が足に直撃した。予想通りに倒れた。これなら起き上がってからの反撃が可能になった。起き上がった瞬間に爆弾に残りの体力をもっていかれた。結果は惜しくも二番だった。こんなに燃え上がったのは何年ぶりだろう?こんなに何かをやりたいと思ったのは何年ぶりだろう?その感情は、俺をそう思わせるのには充分すぎるスパイスだった。
「ゲーマー…ゲーマーにおれはなる!!」