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藍の陰陽師  作者: 蓮華
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想再術

想再そうさい


 次の瞬間には長刀が握られていた。鞘には金色の細やかな装飾が施されている。それを除き、章来が元々持っていたものとどこも変わらいない。


「直に動くぞ」


「言われなくても分かっています。有り難う御座いました」


 早口で礼を述べ、章来は長刀をひったくる。鞘から抜き放ち、一振りすると二重結界が容易く壊れた。


 少年は巨目玉に歩み寄る。


「せっかちだな……」


 巻物をくるくる巻き戻し、赤い紐をぎゅっと結ぶ。千柚に蝶彩は話しかける。


「このような術を知りませぬ。綺羅様が作られた術ですか?」


 結界が斬れる常識から外れた、刀を目の当たりにした。


 独自の術をつくる事が、可能な陰陽師は才と力に優れている。


「はい、その通りです。想で頭の中に思い浮かべた物を構成し、再で現実に創る。僕は想再術と呼んでいます。巻物には大量の妖力が込めてあり、刀の強化もでき、他の武器も創り出せます」


 これから巨目玉に立ち向かおうとする、章来には関心を示さず、男は少年姿の蝶彩を恍惚と見入っていた。何とも奇妙な絵だ。


「俺、初めてちょっと長髪が凄いと思えた」


「式神くん。せっかくの誉め言葉が貶しに聞こえるぞ」


「貶しに聞こえる、じゃなくて完全な貶しだし」


 青が意地悪く口の端を吊り上げ笑う。ぐさりときた衝撃に見舞われ、千柚は心底傷ついている。


 額を押さえた蝶彩は小息を吐き、からかい癖は厄介だと感じた。


 間もなく妖が動き出す。少女の心中はざわざわしていた。



 章来は一歩ずつ確実に近づき、程よい距離を保ち止まる。


 気の流れは異様ではなく、変に静かで穏やかだった。


 巨目玉は未だに起き上がらない。体をぴくぴくさせた。


 蝶彩に恰好悪い、無様な姿は曝せない。男の意地だ。


 長刀を地面に突き刺して印を結ぶ。


「分」


 白い刀身が一瞬眩い光を発する。章来は両手で柄を握った。次の瞬間、手を広げた双方には二刀の長刀を握っていた。分術を用いたのだ。


「黒髪、二分で終わらせろ」


 気に食わない青の声が響き渡った。


 長刀を構えて答える。


「身勝手にお前が命令するな。二分は無茶ぶりだろ。三分だ。三分であの妖を倒す!!」


「ふうん。精々頑張れよ」


 片方を順手で持ち、片方を逆手で持つ。順手と逆手にする時は、章来が戦いに於て本気の時だった。


 身を低め、足の先まで力を入れ颯爽と踏み出した。


 巨目玉は幾度もふらつき遂に起き上がった。確実に此方を視界に捉えている。


 大きな口が開く。鋭い牙で腕を噛み砕こうと狙う。


 痛みで動きに切れはない。容易にかわせた。


 同じ攻撃を繰り返すが悠々と紙一重で避ける。


「時間をかけていられる程、僕は暇じゃないんだ」


 攻撃をやめて巨目玉は腐臭漂う口を開けた。すると、透明な液体がだっと流れ、長い身体がうねうねと波の如く上下して動く。


 その様は不気味で中から何かが出てくるようだ。


 巨目玉の口から一体、二体と蛙擬きが液体と共に落ちる。


 数秒後には二十体くらいの群れができあがっていた。


 全方位から飛びかかってくる。鋭い爪が章来の頬を掠り、赤い線ができた。


 蛙擬きを逆手に持った左の長刀で斬り裂き、同時に順手で持った右の長刀で斬り裂いた。


 黒い血が飛散する。確実に絶命させて次々と斬りつける。


 更に一体を突き刺し、三体を滑らかな刀捌きで瞬時に斬り捨てた。


 戦いは見るより慣れだ。


 避けつつも攻撃の瞬間を見極め、目前にいる蛙擬きに思い切り踵を下ろす。押さえつけて一気に踏み潰す。


 蹴りを食らわせ、残り少ない数を確かめる。


 程なくして蛙擬きは全滅した。


「最後はお前の番だ!」


 直後、風も音も全て置き去りにし、章来は俊敏に動く。


 地を踏み高く跳躍した。逃れようと空へ上昇する、巨目玉の体内に深く刃を突き刺した。


 痛みで低い奇怪な声が上がり暴れ狂う。


 柄をぐっと握る章来は前後左右に揺れていた。

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